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    ゆゆゆ。

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    ゆゆゆ。

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    新刊の進捗。冒頭だけしか書けてないよ。
    ※微グロ(死体の描写)

    リツキ+綾斗 死体埋め小説本 冒頭 殺すつもりなんてなかった。
     ニュースで告げられる犯罪者の台詞に、リツキは度々首を捻っていた。さすがにそんなわけないだろ、と。殺すつもりで突き飛ばしたんだろ、包丁を突き立てたんだろ、と。でも、本当に殺すつもりがなくても人を殺めてしまうことが往々にしてあるのだということを、リツキは二十八歳の冬初めて知ることとなった。


    「あ……あ、」

     喉の奥から掠れた声が漏れる。足元には不健康なくらい細い三十代前半の男が横たわっていた。
     男はリツキと同じボカラPだった。過去にはお互いの家を行き来していた仲で、リツキが内密に関係を持っていた女性の夫でもあった。しかし当然そんな秘密の関係と友人関係の両立が続くはずもなかった。男の家に呼び出されたリツキはたった今突然殴られそうになり、抵抗のつもりでその身体を突き飛ばした。
     当たり所が悪かったのだろう。男の後頭部からは赤黒い血液がどくどくと流れていて、開かれたままの眼球は濁って焦点が合っていない。

    「お、おい……っ」

     リツキは男の右肩を掴んで揺さぶる。しかし、その身体は力なく項垂れたままだった。いやに重く感じる肉体に意識はなく、まるで魂が削がれた人形のように事切れている。

    「うそ、だろ……」

     死んだ。殺して、しまった。
     リツキは口元に手を運び、後ろ足で下がる。ドッドッと鼓動が速まる。喉が渇いて、上手く呼吸ができない。どうしよう。どうしよう。どうにかしないと。どうにかしてこの場を切り抜けないと。そう思っているのに、肝心な時に身体が動かない。

    「……あ、あ……」

     こういう時に取るべき行動の最適解を、頭では分かっている。しかし、それは今まで築いてきたものの全てを壊して、自分の経歴に消えない傷を遺すのと同義だった。こんな時、どうすればいいのだろう。どうすれば、なかったことになるのだろう。誰か、誰か、教えて欲しい。助けて欲しい。
     リツキはポケットに手を入れて、スマートフォンを取り出した。しかし、手が震えていたせいでかたんと音を立てて床に落下する。

    「あ……」

     乾いた声を上げながらそっと拾い上げる。床は傷ひとつついていなかったが、画面の方は端が少し割れていた。当然起動には差し支えなく、リツキは震える手でLAINのアイコンをタップした。友だち欄をスクロールし、こんな時唯一相談できるかもしれないその人物の名前をタップする。通話ボタンを押せばすぐにコールが鳴った。耳元にスマートフォンを運ぼうとしたが、その前に応答があった。

    「リツキ?」

     嬉々と戸惑いを含んだような、普段より少し高めの声。半年ほど前、酒の席でリツキの大ファンだと宣ったその男はリツキから掛けられた初めての電話に驚いた様子だった。これから話す内容の可能性など、当然頭の片隅にすらない。そんな彼を他所に、リツキは動揺を隠せない震え声で呟く。
     
    「綾斗…………俺、人殺しちゃった」

     聞き取れるほどの声だったか、分からない。十秒程沈黙が流れて、電話口の綾斗はやっと一声を発した。

    「……は?」

    「ち、違うんだよ、わざとじゃなくて、殺すつもりなんてなくて、でも……」

     棚に頭ぶつけて、血が出てて、それで……。絡まる思考のままリツキは支離滅裂に続ける。そんなリツキを見て冷静になった綾斗は、穏やかな低声で返した。

    「大丈夫。大丈夫だから、落ち着いてくれ。ゆっくり大きく吐いて、吸って……」

    「ん……はー……っ……」

     言われた通り、リツキは息を吐く。深く息を吐いてから、大袈裟なくらいゆっくりと吸えば酸素が肺に入ってきた。澱んでいた視界が晴れていく。大丈夫、という言葉には何の確証もないのにどうしてか少し心が落ち着いた。

    「落ち着いたか?」

    「うん」

    「良かった。今どこにいる?」

    「今は……相手のマンション」

    「住所は分かるか?」

     住所。当然だが、他人の家の住所なんて覚えていない。どうしよう。

    「分かんな……あ、」

     確か玄関先に郵便物があったはずだ。リツキは思い出し、よろけながら立ち上がる。郵便物には案の定送り状が貼り付けられていた。宛先を見てマンション名と部屋番号を読み上げると、綾斗は電話口でガタガタと音を鳴らし始める。

    「わかった。今からそっちに行くから待ってて」

    「うん……」

     綾斗が、来てくれる。それだけで胸の中に確かな安堵感が広がった。やっぱり綾斗に電話して良かった。通話が切れて、電話口からツーツーと音が響く。その音で先程まで安堵感を得ていたはずのリツキは、現実へと引き戻された。正真正銘「一人」になったことで、今の状況を再確認してしまう。目の前には変わらず血を流している男がいる。虚ろな目を宙に向け、息絶えている。

    「大丈夫……大丈夫……」

     綾斗が言った言葉を繰り返しながら蹲り、膝の上に額を擦り付ける。大丈夫、どうにかなる。大丈夫。自分に言い聞かせるようにして唱えれば、その場限りの安寧が訪れてくれる。普段であれば不安なことや辛いことがあれば、一も二もなくSNSで呟いて女性にメッセージを送るのだが、今はそんなこともできない。ただ、一人で蹲って目を閉じながら、希望的観測を抱き続ける。大丈夫。すぐに綾斗が来る。きっと、どうにかしてくれる。
     そうして綾斗が来るまでの永遠にも感じられる時間を過ごしていると、外の扉からノックが聞こえた。思わずびくりと震える。LAINを見ると、綾斗から「着いた」とメッセージが来ていた。

    「……綾斗」

     ふらつきながら玄関扉を開ける。扉の先には息を乱し、肩で息をしている綾斗が立っていた。急いでやってきたのだろう、冬なのに額には汗が浮かんでいる。

    「場所は?」

    「こっち」

     リツキは奥のリビングに案内する。一人暮らしするには広い一室、入ってすぐの棚の下に男の死体があった。見下ろしていた綾斗の顔が僅かに歪む。

    「この人、ボカラPの……」

    「知ってんの?」

    「面識はないけど、何年か前にリツキの曲Remixしてたから知ってる」

     綾斗はそう呟きながら屈み、男の顔を見つめた。血の気の引いた白い肌、未だ血を流し続けている後頭部、虚ろな瞳。男は指先から細い睫毛の先までピクリとも動かず倒れている。綾斗は男の首筋へ手を伸ばした。指先に伝わる冷たさと動かない脈拍を確かめてから、そっと手を離す。

    「何があったか、聞かねぇの?」

    「……わざとじゃないのは知ってるから」

     呟きながら綾斗はゆっくりと立ち上がった。腰丈サイズの棚の角には赤黒い血が付着していて、素人の目にも事のあらましは明らかだった。

    「この家に今まで来たことある?」

    「ある」

     指紋を気にしているのだろう、綾斗は自分の手に手袋を嵌めた。キョロキョロと首を動かして視線を移動させ、テーブルの上に置かれていた二個のグラスに目をやる。

    「飲んでたの、どっち?」

    「こっち」

     右側のグラスを指さす。綾斗は僅かに青いカクテルが残ったそれをそのままビニール袋に入れた。そして、もう片方はキッチンの流しに置いた。何をするつもりなんだろう、と思いながら視線を彷徨わせていると、綾斗はくるりと振り返ってリツキを見る。

    「もうリツキは帰っていいぞ」

    「は? いや……どうする気だよ」

    「……後は俺がどうにかするから」

     答えになっていない答えを告げて、綾斗は倒れたままの死体に近づく。

    「どうにかって、お前……」

     俺が殺ったって、追放するのか?そう聞こうとして、違うのだとすぐに分かる。綾斗はそっと瞼を閉じ、何かを決意したように濃紫の瞳を開いた。違う。綾斗がそんなことをするはずがない。するとすれば……

    「まさか、肩代わりするとか言わないよな……?」

     普通であれば、そんなことあるはずがないと言える。誰だって捕まりたくないし、犯罪歴を背負いたくない。しかし、こと綾斗となるとその可能性は否定できなかった。今まで爛れた私生活を全肯定してきた綾斗だ。やりかねない。とはいえ、それとこれとは次元が違う。まぁ流石に犯罪を庇うなんてことはないか────と思いながらリツキは綾斗の表情を窺う。綾斗は言葉を発さず薄い唇をキュッと閉じていた。

    「いや、え、まじ? そんなことしたらお前、歌い手続けらんなくなるぞ?」

    「……リツキだってそうだろ。あんたの曲は……こんなんで淘汰されていいもんじゃない」

     綾斗は真剣な表情でそう告げて、ぐっと唇を噛む。普段はぶっきらぼうな顔つきに、今は歪んだ情熱が宿っていた。

    「でも、俺……そんなことさせるためにお前を呼んだわけじゃ……」

     言いながら、徐々に語尾が小さくなる。助けを求めて呼んだのは確かだが、罪を肩代わりしてもらおうなどとは思っていなかった。今まで女癖の悪さで多くの人を巻き込み傷付けてきたリツキだが、そこまで甘えられるほど腐っていない。
     とはいえ、リツキの頭でこの状況を打開する妙案が出てくるはずもなく、閉口する。ややあって、綾斗は小さな声で呟いた。

    「じゃあ……埋めるか」

    「埋め……え、」

     リツキは耳を疑った。埋める。その言葉の意味を数秒脳内で咀嚼して、ようやく理解した。綾斗は死体を内々に処理するつもりなのだ、と。

    「解体して、山に埋めるか……この時期だと海の方がいいかもしれないな」

    「いや……バレたらどうするんだよ」

    「バレないようにする。なるべく全部の痕跡を消してただの行方不明ってことになれば、警察もそこまで動かないハズだ」

     死体が出なければ事件性はない。未成年ならまだしも、大の大人が一人消えたところで警察は差程動きを見せないだろう─────というのが綾斗の目論見だった。綾斗はリツキの方へ向き直り、真正面からじっと見つめる。

    「大丈夫だ。絶対にリツキが殺ったなんてバレないようにする……絶対に」

     見開かれた濃紫の瞳が、説得力を持って訴えてくる。バレないようにする、なんてことが素人に可能なのかは分からない。しかし、今はその手段に縋るしかなかった。事件が発覚すれば、捕まる。刑務所に放り込まれて何年も苦汁を嘗めるような生活を送る。当然ながら曲は作れない。刑期を全うして出所したところで、今までのようにクリエイター人生が続けられるわけではない。
     だから、リツキは綾斗のその言葉に頷いてしまったのだ。これが抜け出せないくらい深い泥濘だとは知らずに。





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