こいぶみ.
「お慕いしてます」
宛名も差出名もなかった
知ってほしいのか
知らずにいてほしいのか
ただ見慣れた手跡だったから
誰からのものかはわかった
届けられた場所が
わたししか使わない文箱の中だったから
誰宛であるのかもわかった
先ほどから委員会の仕事をこなしている
「誰か」はいつも通りで
変わったところは今のところ見当たらない
それから時折
堪えきれない物を吐き出すかのように
その手紙は届いた
――捨ててもらって良かった
――捨ててもらえたら良かった
何度目かの手紙が届いた朝
視線を感じて顔をあげると
空いた戸の向こうの廊下に喜八郎が佇んでいた
くべてしまっていいんですよ
なにをとは言わなかった
だからなにをとは返さなかった
わたしがずっと持っていたいんだよ
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