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    taros_

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    taros_

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    aok+kb🍙🔥
    腐ではないつもりですがそう見えるかも。
    何番煎じ。二人で温泉。

    山奥の秘湯にて額に浮かんだ汗をタオルで拭った。
    自然豊かな山道を歩くこと二時間弱。
    日頃運動不足の体はあちこち悲鳴を上げていた。

    「着いたよ」

    息一つ切らしていない彼の言葉にのろのろと顔を上げる。
    そこには古びた木造の温泉宿があった。


    「付き合わせちゃって悪いね。結構歩いたから疲れただろう?」

    脱衣所にて隣で服を脱ぐ彼を見やる。
    笑うとくしゃっと顔のパーツが下がり、童顔が際立つ。
    しかし、そこにはしっかりと年数を重ねたしわが刻まれており、
    それも彼の魅力を引き立てていた。

    「いえ、行きたいと言ったのは自分なので。それにしてもよくこんな場所ご存じで」
    「前に知り合いに教えてもらったんだけど忙しくて行く機会がなかったんだ」

    のろのろとシャツのボタンを外すアオキの横で
    もうすでに裸になったカブは小さいタオルを肩にかけていた。
    この歳にしてよく鍛えられた均整の取れた体がまぶしい。
    服を着ているときは着痩するのか引き締まった印象を与えるが、
    脱ぐとよく育った胸筋や綺麗に割れた腹筋が露になった。

    「先に行ってるね」
    「はい」

    ほかに宿泊客はいない。
    この温泉宿は老夫婦が長いこと二人で経営しており、
    ほかにスタッフは一人ほどしかいないらしい。

    思えばこの休暇を取るために苦労した。
    こんな時ばかりはトップの命令に忠実の馬車馬のように働いた。
    目を閉じてため息をつくと、最近の目まぐるしい日々が思い出される。
    しかし、大変だったが苦痛ではなかった。

    最後の一枚を脱ぐとアオキも脱衣所を後にした。

    ガラガラと扉を開けると、源泉かけ流しという木の看板が立てかけてある。
    そこで自然と足が止まる。眼下に広がる景色に息をのんだ。
    沈みかかった夕焼けに青々とした山々が広がり、その先で湖が金色の光を反射していた。

    適当に体を洗い、湯舟に向かう。
    白くぼやける湯煙の向こうに静かに目を閉じて座っているカブの姿があった。

    アオキも足を湯舟に入れ、やがて全身つかるとはぁーっと深く息をついた。
    隣のカブが少しだけ重たげに瞼を持ち上げたが、すぐにまた閉じる。

    南東から吹く風が気持ちよく頬を撫でる。
    夕闇が迫る山際にヤミカラスたちの鳴き声が響いた。

    実に静かなひと時だった。
    聞こえるのは風の音、虫やポケモンたちの声、水音。

    体中にのしかかる疲労感もじわじわお湯に溶けていく。

    カブのことを熱血だと人はいうし、事実その通りだ。
    特にひとたびバトルになれば声を張り上げ、熱烈な闘志を燃やし、すべてを焼き切るかのような苛烈さを見せる。
    しかし、彼との日常に予想していた騒がしさはなかった。
    思っていたよりも静かで穏やかな人だ。
    穏やかな沈黙の時間を共有できるのも、アオキが彼と時を過ごしたいと思う理由の一つだ。

    やがてざぶんと音がしてアオキが瞼を上げた。

    「先に上がってるね」
    「ええ」

    それだけ言葉を交わすと、カブはお湯を上がり、アオキは静かに目を閉じた。

    川魚や山の幸を中心とした素朴で優しい味付けの食事に舌鼓を打った後は早めに布団に入る準備をする。
    明日も同じ山道を下るのだから、体調は万全にしておきたい。

    普段は疲労を感じてもなかなか眠気がやってこず、ダラダラとロトムをいじりながら明日の仕事を憂うのが習慣だが、
    今日は布団に入ったら一瞬で眠れそうだ。

    月明かりの下でカブがポケモンの手入れをしていた。
    ブラッシングされたキュウコンが満足げに目を細める。
    自分でも理由はわからないが、足が勝手に彼のほうへ向かう。
    眠気で足元が覚束ない状態で彼の背後まで行くと、自分の腕にちょうどよく収まる体を抱きしめた。
    彼の体は湯上りでポカポカしていたし、髪からは自分と同じ宿に備え付けのシャンプーの匂いがした。

    「眠いのかい?」

    子守歌のように穏やかな低い声が耳に心地よく響く。
    頷くようにカブの後頭部に顔を埋める。

    「そうか、じゃあ、もう寝ようか」

    カブが手を伸ばしてアオキの頭を撫でる。
    自分より小さいがかさついた手のひらが自分の頭をぽんぽんと軽く叩く。

    それがなんとも心地よく、その手を掴むと布団に連れていく。
    カブはアオキに引っ張られるように布団に横になる。
    アオキが薄目で見ると、カブは少し驚いた顔をしたが、すぐに慈愛に満ちた表情を浮かべ自分を見つめているのがわかった。
    全てを許し包み込むような顔に安心する。心が溶かされて、意識は沈んでいった。

    「おやすみ、アオキくん」

    翌朝。
    名残惜し気に荷物を背負うアオキに声をかける。

    「いいとこだったろう?」
    「ええ」

    最初にアオキ君を誘ったとき、断られるだろうと思った。
    彼との付き合いは浅いが、嫌なことははっきり断るタイプだ。
    温泉は好きだと思うが、こんな山道を二時間も歩くなんて彼からしたら苦痛だろうから。

    「あの、カブさん」
    「なんだい」
    「また二人で来ませんか?」

    アオキ君の言葉に思わず顔が綻んだ。
    この年下の友人はなんともかわいいことを言うんだ。

    「もちろんだよ」

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