「史彦に避けられてる……」
ノックもなしに双子の弟である傑の部屋に入ると、羂索はベッドに腰かけながらそう言った。両膝に肘をつき、手の甲で額を支えるその顔は苦渋に満ちている。纏う空気は暗く、まるで明日世界が滅ぶとでも言われたような様子だった。見る人──ほぼピンポイントで髙羽のことである──が見たら憐れみを誘いそうな姿だったが、部屋の主である傑は羂索が部屋に入ってきたときから姿勢を変えぬまま、一切振り返ることもせず机に向かいノートにペンを走らせていた。夏の夜の静かな部屋にかりかりと文字が刻まれる音と、テキストがめくられる音がしばし響く。
「史彦に避けられてる……」
何の応えもない傑に向けて、羂索はまたぽつりと声を落とした。その声に反応したかのように一旦、ペンの音が止まる。なにかを思案するような沈黙が三秒ほど部屋を満たした。ことり、とペンが静かに置かれる。
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