知りたい(仮)これは自身の臆病さと、ほんの少しの好奇心だった。
高槻の恋人と言う立場になって、はや半年。
間違いなく自分は甘やかされていた。
大学では今までと同じようにしているものの、講義中に向けられる視線の甘さが全く違うし、何かにつけて研究室に呼び出されては、一緒に帰ろうと言われる日々だ。
2人でいる時も、尚哉のしたいことを言葉巧みに聞き出しては、叶えてくれる。
歪む音を忌避して、これまで人と深く関わってこなかったからか、自分の気持ちを素直に話すのは苦手だった。『いいよ』と頷くその声が歪んだらと思うと、どうしても口が重くなる。
だから、2人きりで過ごしている時であっても、いつも高槻が水を向けてくれて、やっと少しの要求を口にするので精一杯だった。
けれど、高槻の声はいつだって綺麗なままで、その内容を呆れられたり、怒られたりしたことは一度も無い。そんな優しいあの人は、尚哉が何か失敗した時でも、必ず笑って許してしまうのだ。
一度、高槻が気に入っているグラスを割ってしまったことがあったのだが、怒られるどころか怪我の心配しかされなかった。
高槻は、尚哉が水をこぼしても、外出を嫌がっても、急に泊まりたいと言ったときですら、本当に嬉しそうに微笑んでいるのだ。
『僕にはもっと迷惑をかけたって良いし、我儘も好きなだけ言って良いんだ。それが危険な事じゃない限り、僕は君が何をしても、怒ったり否定したりしないよ』
付き合い始めたばかりの頃に言われた言葉だ。
あの優しい恋人は、どこまで自分を許してくれるのだろう。
馬鹿らしい考えだとは思っていても、一度火がついた気持ちはなかなか冷めることがなかった。
肯定も心配も、決して歪まない高槻の声を信じているのに、どこかでやっぱり拒絶されるんじゃないかという不安が付き纏う。
甘やかされていると分かるからこそ、どこまで自分を受け入れてもらえるのか知りたかった。
ずっと一人でいる筈だった自分は、もう誰かの隣にいる温かさを知ってしまった。今更、孤独に過ごしていたあの日々に戻ると想像するだけで、心臓が軋むような痛みが齎される。
だから確かめるのだ。
たとえ恋人になったとは言っても、自分が高槻の全てに触れることが出来るとは思わない。
触れられたくない場所。
許容できない範囲。
踏み越えてはいけない線を知っておけば、きっと少しは自分も安心できる。
そうして一人頷いた尚哉は、どこまでも自分に甘い高槻の限界を知るために、何をすれば良いのか考え始めた。