紫電の剣戟目端に見慣れた猫の影が走ったのを、ヴィランは見逃さなかった。
「……ああ、ヒーローのお出ましだ」
ぐすぐすと泣いていたヴィランはまるでスイッチを切り替えたようにぴたりと泣き止んだ。
「まさか…俺のために…?そうかそうか、悪役としてあまりに情けない俺を放っておけなくて御登場という訳だ。なんて優しいんだろうな、彼は…。」
口元を揉みほぐし、いつも通りの笑顔を作り上げてナイフを構え。
「やあヒーロー待ってたよ!やっぱりお前は、俺を、僕だけを見てくれてるんだね…!!」
「だーっもう!いつも言ってますけどただの任務の一環ですからね〜!自惚れないでくださ〜い!」
そんなヴィランにヒーローは大声で叫びながら正面きってナイフをぶつける。
「ふふ、そういうのってツンデレっていうんだろ?ライトノベルで読んだよ。分率も俺の丁度好きな塩梅だ…いつもありがとう♡」
剣戟の隙に飛んできた投げキッスを真顔で避けた。
「うっわ。コイツ全然元気じゃねえか。ツラ出して損したわクソが…!」
嬉しそうに笑むヴィランと悪態をつくヒーロー。姿格好は同じだが、その立ち位置も表情も、まるで正逆だ。
「ああ。…お前の顔を見たらすっごく元気になったんだ。こうして会えて、本当に嬉しいよ…!」
「へーへーご無事で何より!病床に伏せってるメガネの美少女以外からはあんま聞きたくねえお言葉をどーも!」
「ヒーローにホームランを打って欲しい少年も言うかもしれないのに?」
「いやクソガキは自分で助かれよ」
と言いそうになって口をキュ、と閉ざした。確かに勝手知ったるヴィラン《じぶん》しかいないしこれは明確に夢だが、それでも今は任務中だ。
「ッスゥ……!あ!ところでさ!お前本当にもう平気なの?さっきまでだいぶヤバそうだったじゃん」
「なんだか情けない所を見られたものだね。もう平気だよ。それに、…僕の事情なんて気にする事はないだろう、ヒーロー。」
「え、お前にはいつ何時でもシャキッとしててもらわねえと困るんだけど」
「え」
いや当たり前だろ…と顔を覗き込み、ゴーグル越しに目をしっかりと合わせて、
「俺はお前に、完膚なきまでに勝たなきゃいけねえの。そこに言い訳とかそういうノイズは入って欲しくねえの、俺は!」
「………!」
「そう…俺は悪を絶対にぶちのめす、絶対的ヒーローなんだけど。」
───その辺、お前はどうなの。ヴィラン氏。