私はあなたの虜ですので 二人きりになると、ハインライン大尉が口説いてくる。
当初は操舵士としての知見を求められていたのが、最近はそれだけではない。言葉に、声に、視線に、距離に、違う熱が含まれるようになった。
「ノイマン大尉、次のシフト交代時によろしければ食事をご一緒しても?」
ごく自然に腰に回されそうになった手を、丁重に退ける。
「……近いです。誰かに見られて誤解されたらどうするんですか」
「私は一向にかまいません」
正直、目が眩む程澄んだ瞳に穴が空くほど見つめられるのは心臓に悪い。不快ではないのだけれど……美しすぎるので、当たり障りない返しでかわしたり流すのも限界かもしれない。このままだと任務中に手元が狂いそうだ。
「……この際、聞きますけど。大尉は俺のどこがいいんですか?」
男。元脱走兵。平凡な見目。 ……ナチュラル。
果たしてどこが天才技術者のお眼鏡に叶ったのか。
あんたが言う所の「卓越した操舵技術」以外で具体的に言ってみろ、と挑発する。
「・・・・・・・・・・」
ハインライン大尉は、はっとして口を開くが、すぐに視線を彼方へ巡らせて考え込んでしまった。あれだけ息巻いてたくせに。「やっぱり」と顎を上げてふん、と吐き捨てる。
「すぐに答えられないなら程度が知れるということでしょうか」
どうせ一過性の熱病のようなものだろう。彼にとって、これまで自分の周りにはいないタイプの変わり種にハマッただけ。所詮ブームなのだ。
(……あれ?なんでこんな「予防線張っておいて安心」みたいに感じてるんだ?)
「さて、どうしましょう、」
「何が」
ううむ、と顎に手を添えて考え込んでいたハインライン大尉が、ようやく悩ましげに口を開いた。
「好ましい点が沢山ありすぎて、何から言ったらいいのかわからないのです。あなたと二人きりになれる時間は限られているので、思っても言うのを堪えていました。私が語るノイマン大尉の魅力を聞いて、そのへんの馬鹿共が興味を持ってしまうのも嫌でしたし」
とのたまう白い唇を塞いでやりたくなった。
「あれで堪えていた……?」嫌な予感がする。
「でもノイマン大尉がそうおっしゃるなら、これからは思った時にその場できちんとお伝えすることにします。それに……そうしたほうが、私の好意をより理解してもらえるかもしれませんので」
どうやらちっっとも私の気持ちは届いていなかったようですし、と彫りの深い美貌は凄味を増した。
それから。
「大尉は箸の使い方がお上手ですね。私はまだ慣れませんが、細かく動かせる手つきに惚れ惚れします」
「今の!その!指差し確認する時の横顔が凛々しいです……ッ! 一緒に小さく頷く所も……」
「そうやって作業の合間に時々ハロを撫でてくれているでしょう? ノイマン大尉は厳しいように見えて、身内というか側にいるものにはとてもお優しいんですよね。微笑ましいですが、私は今猛烈に嫉妬しています」
等々。
周囲に第三者がいようがおかまいなしに、ノイマンの一挙手一投足にときめくたびにその場で称賛するハインライン大尉が各所で目撃されるようになった。
もちろん、「言うんじゃなかった……」と、耳まで赤くしながら必死に逃げ回るノイマンの姿もセットである。