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    noa/ノア

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    noa/ノア

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    [FengQing] 69さんの「風信ぬいを丁寧に揉み洗いして逆さづりで干す慕情」を書かせていただきました。

    #天官賜福
    Heaven Official’s Blessing
    #fengqing
    ##FengQing

    揉まれて干されて「なんだあれは?」
     任務を終えて村はずれの街道を歩いていた慕情は、道端に何か落ちていることに気づいて足を止めた。
    「人形?」
     拾い上げたそれは、布で作られていて、丸っこい頭に、頭と同じくらいの高さの小さな体がついている。慕情は手の中のそれをまじまじと見つめた。その姿にどことなく見覚えがあったからだ。
    「……風信?」
     ぐっと引き結んだ口。くりっと大きな目と太めの眉。衣装もちゃんと風信の茶色の着物に赤い胸当てと、見慣れた姿をしている。
     だれかの落とし物だろうか。だが、すでにそこに持ち主の気は感じられない。泥や砂ぼこりで汚れた見た目からしても、随分長いことそこに打ち捨てられていたのだろう。よく見ると、荷車にでもひかれたのか片脚がつぶれ黒く汚れている。
     しばらくじっと見つめた後、慕情はそれをそっと袖に入れた。

    「それにしても汚いな」
     仙京の自殿に戻ってきた慕情は、手の中の人形を見つめて呟いた。
     汚れた布ものを前にして慕情が思うことはただ一つ。
    「手桶と湯と石鹸……」
     しばらくして戻ってきた慕情は、再び人形を手にとってくるくると全体を観察した。
    「この服、脱がせられるのか。よくできているな」
     洗うときには、外せるものは外しておくのは鉄則だ――そう自分に言い聞かせながら、慕情はその人形から服を脱がせた。少しばかり胸が高鳴っていることからは目を背ける。
     汚れた服を剥がすと、その下に隠れていた部分から、薄い色の肌が現れる。
    「風信、お前こんな色白だったか?」
     フッと笑いながらその体を指で押してみる。しっかり綿が詰まっているらしく、弾力があった。
    「それにしても――」くくっと笑いながら、慕情はその胸元を見つめた。
    「可愛らしい形をしてやがる」指先でハート型に刺繡された桃色の二つの飾りをくりっと撫でる。
     服で隠れるところまで精密に作った職人に賛辞を送りつつ、無意識にその下へ視線がいく。
    「流石に、子供にふさわしくないか」
     つるりとした脚の間を親指で撫でる。
    「まぁ、忠実に再現したら―」ふん、と眉を上げる。「布と中綿がもったいないしな」
     さて、と慕情は袖を軽くたくし上げ、人形と服を湯に浸す。まずは人形本体の方からだ。湯を染み込ませながら、ゆっくりと揉む。近頃はこんなことをすることもなくなったが、昔取った杵柄というやつか、要領は体が覚えている。
     胸、手足、腹と指先で揉み、擦っていると、まるで風信の湯浴みを手伝っているようで不思議な気分になってきた。
    「……気持ちいいか?」
     思わず小声でささやく。だがもちろん、しかめっ面一歩手前といった感じのその顔の表情は、変わることはない。石鹸を掌で泡立てると、服で覆われていた体に比べて薄汚れた顔と髪を丁寧に擦る。頭の頂点にちょんと載った纏めた髪の根本にたまっていた砂汚れは、爪先でこすり落とす。
     しばらくすると、顔も体と同じくらいの明るい色になっていた。
    「次は、脚だな」
     黒く汚れ、凹んでしまっている脚に湯を染み込ませ、石鹸をつけた指でくりくりと揉む。
     部屋には時折小さな水音が響くのみ。
     こうして無心に洗濯をする時間は嫌いじゃなかったな、とふと思い出す。心を苛立たせる日常のあれこれを忘れ、ただ、汚れを落とす事だけに集中する時間。
    「ふむ、このくらいか……」
     ちゃぷんと湯にくぐらせ、左右の脚を見比べる。よく見なければわからない程度に戻っている。
    「さて、風信、歯を食いしばれ」
     にやりと笑いながら、慕情がその体と顔をぎゅっと絞ると湯が滴り落ちた。

    「慕情、ここにいたのか」
     庭の端から顔をのぞかせた風信が慕情の方へやってくる。
    「帝君からの事付けなのだが―」
     そこまで言って足を止めた風信は、慕情の視線の先を見た。
    「……なんだそれは」
     腕を組んだまま慕情はふふんと笑う。
    「お前だ。天日干ししてやっている。有難く思え」
     二人の目の前の物干し竿につるされたそれに顔を近づけ、風信は見つめた。
    「人形? 俺の? これはどうしたんだ?」
     疑問符だらけのその背に、経緯を軽く説明する。
    「しかし―」風信が眉を下げる。
    「なんで逆さ吊りなんだ?」
     人形は、その両足の部分を留め金で挟んで、綱に逆さに干されていた。
    「しょうがないだろう。顔を挟んだら凹む」
     そう言い放つ慕情に思わず風信は肩をすくめる。
    「……なんか、見ているだけで頭に血がのぼりそうだ」
    「その脳の血の巡りが良くなるなら悪くない」
     薄笑いを浮かべて言う慕情に、どういう嫌味だ、と風信はむっとした顔をする。
    「せっかく今日はちょっと体が軽く感じたのにな」
    「そうなのか?」
    「ああ。このところ激務で体が凝っていたいたんだが、今日はなんだか体が楽だ」
     風信は首元に手をあてて頭をくるりと回す。「誰かに揉んでもらったみたいな感じだ」
     慕情は黙って横目でちらりと見た。
    「それに」風信は今度は視線を落とし、片方の足首をくるりと回した。
    「この間、足を痛めたんだが、そっちも良くなっている」
     慕情は思わず眉をひそめた。
     人形を拾ったのは、自分の管轄の地のはずれ、もう少し行くと風信の管轄となるあたりだ。南陽殿の信者が落としたのかと思ったが―
     まさか玄真殿の信者が良からぬことのために使った人形ではあるまいな、という考えがよぎる。
     だが、風信の横に立ってもう一度人形をよく見つめたが、邪気などなったくなく、無邪気な顔が見つめ返すだけだった。二人の視線に耐えかねたように、上下逆さまの頭からぽとりと水が一滴垂れた。
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