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    noa/ノア

    @eleanor_dmei

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    noa/ノア

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    [風信&南風✈] 今回はびしょ濡れ南陽ペア&🍞イチ風信機長。空の上で書いた上空の部分と、地上部分の品のなさの落差が激しいです。

    #天官賜福
    Heaven Official’s Blessing
    #風信
    windGod
    #南風
    southerlyWind
    ##風南
    ##パイロットAU

     パイロットになって良かったことは何か──
     そう聞かれたら答えは色々あるだろう。だが、毎日のように空の上の景色を眺められること──そう答える者は、南風だけではないに違いない。最前列で眼前に広がる光景を見られるのは、操縦桿を握る者だけの特権だ。何度同じ場所を通っても、一つとして同じものはない光景。
     もちろん操縦中は見とれている訳にはいかないし、雲の表情は運行の判断材料として冷静に見つめねばならない。それでも、目の前に広がる光景に、感嘆する気持ちを抑えることなどできない。
     ──ふとそんなことを考えながら、南風はサングラスを上げ、操縦席の窓の向こうを見つめた。
     無限に広がる青い空。上の方にいくにつれて濃くなっていく青のグラデーションは、今自分が地球の外周を飛んでいるのだと実感させてくれる。
     さっきまでは羊の群れを上から見たかのように雲が連なっていたが、今は脱脂綿を引っ張ったかのような雲の合間から、下に広がる農地が見える。
    「お、玄真航空」
     左の窓の外を見ながら風信機長が呟く。左のほうに目を凝らすと、青い空をバックに飛ぶ飛行機が小さく見える。だがあまりに小さくてその機体の色までは見えない。
    「よく見えますね」
    「俺は視力がいいんだ。あの澄ました飛び方は絶対玄真航空だな」
     いや、それは流石にどんな視力でも見えないだろうと南風は笑いをこらえる。
    「そろそろ客室にアナウンス入れますね」
    「ああ、頼む」
     スイッチを操作して口を開く。少し前まではひどく緊張したものだが、最近は随分と慣れてきた。空を見ながら、乗客たちもこの光景を楽しんでいるだろうか、などと考える余裕もある。一通りアナウンスを終えて計器に目を戻す。
     いつの間にか、目の前に広がる雲海は白さと厚みを増し、隙間なく二人の視界に広がっている。
    「夕焼けとか夜明けの空もいいんですけど、やっぱりこの青と白のコントラストが好きですね」
    「南陽航空の者としてはそこは茜色の空、じゃなくていいのか?」風信機長が言う。
    「いや、まぁ確かに青はアチラの色ですけど」
     南風が言うと風信機長もサングラスを上げて前を見ながら、冗談だと笑った。
     どんな色の空も、その笑顔の輝きには敵わないけれど──南風は心の中でそっと付け足す。
    「でも、わかる。俺も好きだ」
     そう言ってちらりと合った目の色だけはいい勝負だが。
    「やっぱり空ってきれいですよね」
     南風が漏らした言葉に、風信機長が「ああ」と答える。目の前の景色は、別段珍しい光景という訳でもなかったが、南風の唐突な感慨も無碍にしないのが風信機長だ。
     機長なら、目を奪われるような光景だってたくさん見ているだろうし、目の前の空を見ながら、ちゃんと航路のことだけを考えているのかもしれない。
     だがそれでも、いつだって南風の言葉に耳を傾け、しっかりと受け止めてくれる。思えば、初めて会った時からそうだった。風信機長はもう覚えていないかもしれないが。
     ちらりと横目で隣を見る。同じものを見ながら、相手が何を考えているのかは、わからない。
     分厚い雲だけが、上を飛ぶ二人の気持ちを受け止めながら白くきらきらと輝く。
     だがそうして青い空と白い雲の間にいると、つい忘れてしまうのだ。
     その雲の下に、晴れ渡った空はないことを。

    「走るか……」
     空を見上げて風信機長が言う。
    「そうですね……」南風も頷く。
     整備士と相談があり、やってきた格納庫。だが二人の用事が終わったところを見計らったように、雨が降り出した。
     室内の連絡通路もあるが、巨大な格納庫の反対側まで戻らなければならない。この入り口からなら、少し走れば空港の建物に入れるはずだ。
    「行くぞ」機長の合図で二人は飛び出した。
     十メートルも行かない内に、突然雨がさらに激しさを増して、二人に襲いかかる。風も強い。すぐに半袖のシャツが体に張り付き、靴がグチャグチャと嫌な音を立てはじめる。
     這々の体で、なんとか通用口の扉に辿り着く。風信機長がIDカードをかざす。だが扉は反応しない。
    「あっ……」ガラスドアの中を指差す。
     ドアの内側の貼り紙には無常にも「故障により締切」と書かれていた。一瞬悲壮な顔を見合わせて、また雨雲の下へ走り出す。悪態をつく二人の声も雨音にかき消される。
     次の入口までは遠い。非情な雨と風に無心で耐えながら全速力で駆け、なんとか建物の中に滑り込んだ時には、二人とも悲惨な姿になっていた。手ぶらで来たのでタオルやハンカチも持っておらず、額に張り付いた髪を掻き分け、手足を振って水滴を落とすくらいしかできない。
    「更衣室だな」風信機長がつぶやく。現在の二人にとって、目的地はそこ以外考えられない。
     たまに廊下ですれ違う人から哀れみの視線を受けながら更衣室にたどり着くと、すぐさま二人は濡れて重くまとわりつくシャツを脱ぎ捨てた。
     二人とも濡れネズミ状態だが、風信機長のほうがひどい。そういえばずっと風上の方を走ってくれていたことに南風は今更気づいた。
    「シャワー浴びたいな」風信機長が言う。
    「お先にどうぞ」南風が促すと、「悪い、それじゃあ」と風信機長は更衣室の横のシャワー室へ行った。
     南風もとりあえずタオルで拭こうとロッカーを開けた。ズボンも見事に中までグチョグチョでパンツも替えたいくらいだ。
    「あれ、そういえば機長、タオルと着替えは……」持って行っただろうかと振り向いたところで、シャワー室のドアが開く音がして足音が戻ってきた。
    「全部もってくの忘れてた」戻ってきた風信機長がロッカーを開けて中を探る。
    「あ、やっぱり――」そう言って横を見た南風は思わず目を丸くした。
     機長はズボンは中で脱いだらしく、パンツしか履いていなかった。
     男性しかいない更衣室で、それ自体は問題ではない。ないのだが――
    「機長って、パンツ、赤なんですね」
     風信機長が履いているのは、太ももまで覆う長めのボクサーパンツで、濡れているせいでほとんど黒に近いが、濡れるのを免れたところから察するにおそらく元は濃いめの赤だ。腰のゴムのところに有名ブランドの名前が踊っている。
    「ん? あ、ああ、なんとなく気分が上がるし、見えないとこだし」
     普通は、と付け足す声を聞きながら、南風の頭には、ある言葉が浮かんでいた。
     ――巨陽航空。
     南陽航空は昔、俱陽航空という名前だった。だがある時、有名な航空雑誌が「巨陽航空」と誤植したのだ。しかも大きな特集記事で。
     その頃、長距離路線開拓に積極的だった俱陽航空は、機体の大きい機種を多く持っていた。
     そしてその呼び名は、瞬く間に航空関係者から一般人まで広がった。曰く――
     ――デカいのが好きな”巨陽航空”と。
     言い出したのは玄真航空の奴らに違いないと、南陽航空の社員はいまも信じている。
     社員からの猛烈な要望もあり、その後合併などがあった折に、現在の「南陽航空」に社名を変更したというわけだ。
     昔話として聞いただけのその言葉が、なぜ今、南風の頭をよぎったのか。
     それは、見てしまったからだ。
     僅かな時間とはいえ、思わず風信機長の「その部分」に視線が引き寄せられてしまったのだ。
     濡れてぴったりと貼りついた伸縮性のありそうなその薄い生地は、その中心に見事な隆起と影を浮き上がらせていた。
     南風は思わずにいられなかった。
     ――あれは間違いなくトリプルセブン(ボーイング777)だ。いったい、「離陸」したらどれくらい――
     そんな発想が頭をよぎり、南風は額から首まで一気に熱くなるのを感じて、瞬時にロッカーの方に顔を逸らした。風信機長も慌てて背を向ける。
    「いや、あ、すまん、こんな格好で……」
    「いえ、見ちゃってすみません」小さな声で囁くように言う。
    「その……お前だと見られても嫌じゃなくてつい……」いや別に見せたいとか変な意味じゃなく、ともごもごと風信機長が言うのが聞こえる。
    「う、嬉しいです……」そう言ってから、この状況を喜んでいるように聞こえる気がしてロッカーに頭をたたきつけたくなった。
    「じゃ、じゃあ浴びてくる。すぐ済ませるから」背を向けたままそう言って去る風信機長の耳も赤かったような気がしたが、気のせいかもしれない。
     他人の男性のなんて気にしたことなどないし、興味もない。それなのになぜ――。
     なぜこんなに胸がドキドキしているのだろう。
     ロッカーの扉に頭をもたせかけながら、さっきの困惑したような風信機長を思い出す。失礼な奴だと思われただろうか。下品な奴だと思われただろうか。
     四本線が輝く制服に包まれた風信機長の姿は、南風にとって羨望と尊敬の対象だ。だが、その下の薄く日焼けした肌に包まれた体に、自分はそれとは違う意味を感じてしまっている。その指の動き、風に揺れる髪、陽光を反射して明るく輝く目、近づいた時に不意に感じる匂い――そのすべてが、南風の心を心地よく震わせ、上昇させる。ましてや、その指が触れ、その胸に抱きとめられたら、抗いようもなく自分の肉体が反応してしまうのだ。いきなり駆け回り出す心臓、熱く火照る皮膚――。
     異性だろうと同性だろうと、他人の体にそんな反応を感じたことはない。
     冷たいロッカーの扉に額を強く押し付ける。
     だが、さっきのあれはどういう意味だろう。「南風なら嫌じゃない」というのは。
     もしも、風信機長も同じように自分のことを見ているのなら――
     ――嬉しい。
     だが機長は、絶対に自分からそんなことは言わないだろう。
     風信機長が、その心の内で何を考えているのか、たまにどうしようもなく知りたくなる。だが、それと同じくらい、知るのが恐い気持ちもあるのだ。
     雲をぬければ、上空には青空か星空が待っている。どうやったら、いつ雲を抜けられるか、操縦しているときなら計器が教えてくれるのに。
     目を瞑って飛んでいるかのような不安。だが、その向こうにはきっと、あの上空の青空にも敵わない笑顔がある。天気図も計器もないからこそ、心の底でそう信じずにいられない自分がいた。
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