甘やかすのは得意でも甘えるのは苦手な宍戸さんをどうにか甘えさせたい長太郎の鳳宍 宍戸亮は鳳長太郎を甘やかすのがうまい。宍戸は狙ってやっているつもりはないのだが、鳳のしてほしいことを叶えてくれる。ほしい言葉をピンポイントでくれる。鳳はそんな宍戸のことを尊敬し、自分もこうなりたいと思っていた。そう、憧れの宍戸さんのように、自分も恋人である宍戸さんのことを甘やかしたい、甘えてほしいと、そんな風に思っているのだ。
「甘えてほしい? 俺が、お前に?」
「はい、そうです。俺に精いっぱい甘えてほしいんです」
宍戸の前で両手を広げて「お願いします!」と言う鳳をよそに、宍戸は鳳の頭をくしゃりとなでた。
「なんでそんなこと急に言うんだ?」
「だって、俺だって宍戸さんのことを甘やかして、たまにはかっこよく決めたいんです」
鳳は眉を下げて笑う宍戸に、頭をくるくるとなでられるがままにされ、うつむきながら言う。
「お前はかっこいいから気にすんな」
「はい……。でも……」
鳳はという男はまっすぐだ。そして、一度「こう」と決めたら意地でも捻じ曲げない。宍戸が鳳の頭から手を離したタイミングで、再度両手を広げ、「さあ、お願いします! 存分に甘えてください!」と言った。
「……甘えるって、具体的になにすればいいんだよ」
「そうですね、俺だったらこうします」
そういうと鳳は、宍戸の胴に巻き付くように抱き着いた。宍戸の胸あたりに耳をあて、「宍戸さんの心臓の音が聞こえます」と言った。宍戸は、あきれたように笑うと、鳳の頭を愛犬をなでるときと同じような手つきで、ゆっくりとなでた。
「安心します……」
なんだかもう、このまま目を閉じてゆっくりしたい。チチチと鳴く鳥の声、頬を撫ぜる風。幸せだ……。
「幸せ感じている場合じゃないっすよ!」
「ッ、っくりした……」
鳳がハッとした顔をして、先ほどまでさえずっていた鳥たちが吹き飛んでいってしまうほどの勢いで起き上がる。
「今日は宍戸さんに甘えていただくんです、よろしくお願いします!」
今日何度目かの両手広げに、宍戸はたじろいだ。腕を組み、深く考えるそぶりを見せる。頬をぽりぽりと搔き、目をそらす。そして、帽子をかぶりなおしてみたり、ジャージの襟を直してみたりする。……明らかに時間稼ぎをしているように見える。
「宍戸さんもしかして」
「ああ、激ダサな話だが俺は……」
「俺に甘えるの嫌……ですか……?」
鳳の表情が曇る。そう、そうですよね……、と言うと、鳳はいかにも"自分傷つきました"といった表情で広げている両手を下した。
「すみません。俺、宍戸さんのこと考えずに……」
「だあああ! ちげえよ!」
宍戸は鳳に突進する。そして、ゆっくりと鳳の手を取って自分の頭の上に乗せると、自身の両手を鳳の背中に回す。
「し、宍戸さん!?」
鳳はおそるおそる宍戸の帽子を取り、頭をなでた。丁寧にゆっくりと、頭頂部から耳のあたりまでなでおろすと、宍戸は鳳の胸に顔をうずめて言った。
「……こういうの、慣れてないんだよ。ばーか」
真っ赤に染まった、少しだけ覗く宍戸の耳や首を愛おしく思った鳳は、宍戸の髪にそっとキスをした。