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    長太郎のことを好きだと自覚した宍戸さんが初恋とお別れする話ですが、書いていて悲しくなったので空行と罫線の後にギャグを入れました。

    #鳳宍
    shinji

    さよなら初恋 長太郎に恋人ができた、らしい。「中等部の鳳くん、最近かっこよくなったよね」「なんか彼女ができたらしいよ」と、クラスの女子が噂していたのを聞いた。
     話が耳に入ってしまった時、ドキっと心臓が天井まで跳ね上がるような感覚がした。嫌だ。すぐにそう思った。なぜそう思ったのかは、わからない。わからないが、机の中のものをカバンの中に詰めて逃げるように教室をでた。
     クーラーの効いた校舎の中だが、なぜか吹き出してくる冷たい汗がじっとりとシャツに張り付いて気持ち悪い。「なんか彼女できたらしいよ」という、クラスの女子の言葉が脳内で反芻する。喉に魚の骨が刺さった時のように、なんだか胸に異物があるような感覚で痛みすら感じる。
     なんでこんなに気になるのだろう。
     恋愛にうつつを抜かしてないで大会に向けて真剣に練習をしろよ、という憤り? 違う。あの鳳長太郎という男は、絶対にテニスを疎かにしない。それは一番宍戸がわかっているはずだ。可愛がっていた後輩に先を越された、という嫉妬? これも違う。じゃあ、なんで黙ってたんだ、という寂しさ? 怒り? これはあるかもしれないが、それにしては感情が動かされすぎているような気もする。
    「宍戸さん?」
     呼びかけられて気づいたら、宍戸は見慣れた中等部のコート近くにいた。中学三年になってさらに身長が伸び、少し大人びた鳳が宍戸に向かって駆け寄ってくる。鳳の顔をみた瞬間、宍戸はぐしゃっと心臓を握りつぶされたような感覚がした。苦しい、なぜか涙がこぼれ落ちそうだ。
    「宍戸さん、お久しぶりです。……お会いしたかった」
     少し低くなった甘い声で宍戸に言葉をかける鳳に、宍戸は直感的に思った。
     ああ、俺は、長太郎のことが好きだったんだ。

     もう少しで練習終わるので、涼しいところで待っていてください! そう言われ、断る隙もなく鳳は練習に戻って行った。ただ一言、「悪い、先帰るわ」と連絡すれば良いだけなのに。一緒にいて苦しいだけなのに、こんな気持ちがバレたら気持ち悪いと思われるかもしれないのに、なんてことを考えてスマホを握りしめていると、急いだ様子の鳳が部室から走って出てきた。
    「よかった、宍戸さんが帰ってなくて」
    「お前、ネクタイがヨレてるぞ」
     よほど急いできたのか、いつもはピシッと着ているはずの制服がヨレヨレだ。ネクタイを締め直し、ボタンを第一ボタンまで止め直してやると、鳳はなんだか嬉しそうに「ありがとうございます」と礼を言った。
    「ったく。高等部でもお前、最近かっこよくなったって話題になってんだぜ。そんなんじゃカッコつかないだろ」
     そう言いながら帰路につこうと歩き始めた宍戸だったが、鳳は下を向いたまま一向に歩き始めない。近寄って「長太郎?」と顔を覗こうとすると、「宍戸さん」と低い声で鳳がつぶやくように言った。
    「あ?」
    「宍戸さんは、どう思っているんですか?」
    「どう? って……」
    「宍戸さんは俺のこと、かっこいいって……思いますか?」
     やけに真剣な目で鳳は宍戸を見つめる。なんだか気まずくなって「俺のことはどうでもいいだろ」と言って校門に向かおうとすると、手首を掴まれる。
     鳳の手は、震えていた。
     彼女に何か言われたのだろうか。それで不安になって宍戸に「かっこいいか」と聞いてきているのだろうか。それなら、自信をつけさせてやらなくてどうする。俺の気持ち以前に、俺は長太郎の先輩だろう。そう思った。一つ大きく息を吸い、吐く。そして、
    「ああ、かっこいいぜ。お前は。副部長になって背負うものができたお前は、いい男になったと思うよ」
     そんなお前のことが好きだ。という気持ちは押し隠しながら、そう答えた。
     すると、鳳は俯いたまま「それじゃあ」と言って、宍戸の方を見る。
    「俺は、宍戸さんの隣に立つ人間として、ふさわしい男になっていますか」
     泣きそうな顔、そして宍戸の手首を掴む力をさらに強めて鳳は言う。宍戸はフッと笑うと、背伸びをして鳳の頭をわしわしとかき回した。
    「ばぁか、当たり前だろ」
     そう、当たり前だ。出会ってから今日まで、鳳と過ごした日々を思い出す。俺がお前にどれだけ助けられたか。
     「ありがとうよ、長太郎」そう言うと、宍戸は鳳の手を振り解いて駆け出した。




    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━




     なんでこうなってる? 校舎裏、宍戸は鳳の腕の中で暑い思いをしている。

     長太郎の手を払おうとしたのだが、力の差で振り解くことができるわけがなかった。そのまま鳳に校舎裏まで腕を引かれ、カバンから手紙のようなものを取り出して差し出されたかと思うと、こう言われた。
    「俺と付き合ってください!」
     おそるおそる手紙を受け取って中身を見てみると、ポエムのような文章がぎっしりと書かれていた。「付き合ってください」の意味を正しく理解させるにはちょうどいいほどの愛のこもった文章(ポエム)だった。
     なんだか拍子抜けだ。さっき鳳への恋心を自覚して、鳳から何個か質問をされて……? 
    「お、おう……?」
     断る理由もなければ、暑さでだいぶ頭が回らない状態になっている。半ばヤケクソになってそう答えると、鳳は子犬のような顔をして「ほ、本当に付き合ってくれるんですか? 宍戸さん」と言った。
    「なんか、なんでここに連れてこられたのかわかんねえし? 俺、こういうポエムとか苦手だし。だけど、俺、お前のこと」
     言い終わらないうちに、鳳に抱き寄せられ、今に至る。

    「俺、告白する時は少女漫画みたいに校舎裏でラブレターを渡すって決めてたんです」
     鳳は宍戸をさらに強く抱きしめる。
    「ねえ、宍戸さん。『俺、お前のこと』の続き、言ってください」
    「……あちいよ、離せ」
    「ふふ、言うまで話しません」
    「……そもそも、お前も言ってねえだろ。その、好き、とか」
    「そうでした。宍戸さん、俺、宍戸さんのことが好きです。宍戸さんは?」
    「俺は……」
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    CAN’T MAKEwaveboxにいただいたお題を書きました!ありがとうございます!
    ギャグ書くのってむずかしいね……。

    ▼いただいたお題
    こんばんは!両片思いか鳳さんの片思いでキスしないと出られない部屋…とか…見てみたいです😢💗🙏
    キスしないと出られない部屋「そっちも何もなさそうか?」
    「はい、出口や壁を壊せそうなものは見つからなかったです」
     氷帝学園テニス部3年宍戸亮と2年の鳳長太郎は、だだっ広い部屋に閉じ込められていた。放課後、2人は部活動のために部室へ向かったのだが、入室した瞬間まばゆい光によって目くらましをされ、気付いたらこれだ。
     部屋にはソファやベッドといった、生活するのに必要最低限の家具しか置いていない。入ってきたときにはあったはずの扉は、確かにそこにあったというのにすっかりなくなってしまっている。床と壁はコンクリート打ちっぱなしのような材質で、壁には大きくこう書いてあった。

    『キスしないと出られない部屋』

     このような珍妙な部屋に閉じ込められ、外との連絡手段も出口もない。最初、2人を襲ったのは恐怖心だったが、人間とは不思議なもので、こうも外に出る手段がないと一周まわって冷静になってくるものだ。どうにか脱出方法はないか、壁に書いてある表記を無視して探し回っていた。だってキスして出られる部屋なんて現実離れしたもの、存在するわけがないのだから。
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