未来から宍戸さんがやってきた!(雑なあらすじ)
宍戸に片想い中の鳳長太郎は「宍戸さんと俺」の相性を確かめるべく自室で恋占いをしていたところ、ひょんなことから10年後の宍戸亮を召喚してしまった! 少し大人びた宍戸に、鳳はドキドキがとまらない!!
「なるほど。恋占いをしていたら、俺を召喚してしまったと」
「はい……すみません」
「長太郎、今お前何年生だ?」
自身を25歳の宍戸……そう名乗った人物は、鳳にずいっと顔を近づけて聞いてくる。諸先輩方や同期に言わせると宍戸さんとの距離が近い、とのことだが、この宍戸はいつもの1.5倍くらい距離が近い気がする。この奇特な状況でも余裕そうな艶っぽい笑みは、鳳の知っている"宍戸さん"ではない。それでも、ほのかに香るミントと顔にある古傷が鳳の直感に"この人は宍戸亮だ"と訴えかける。しかしながら、大好きな宍戸さんだと思うとどうも意識してしまう。心なしか少しいい匂いがする気もするし。
「あ、あの、えっと、中2……です……」
鳳は目を逸らして答えると、「なんでこっち見ねえんだよ」宍戸は鳳の顔を両手で挟んで自身の方へ向かせる。情けない心臓の音がバクバクと響く。宍戸さんのまっすぐな目が、通った鼻筋が、ぷっくりとした唇が弧を描く様子が、視界に入ってくるだけでたまらない気持ちになる。頬が熱いが、右頬にひやりとしたちいさな金属のようなものがあたって気持ち良い。ちいさな金属?
「し、宍戸さん」
失礼します、と言って、宍戸の左手薬指を確認するとやはり"それ"があった。絶対にあって欲しくないと思っていた、宍戸を縛る楔。
「し、宍戸さん、あの」
「なんだ? 長太郎」
ふわりとした笑顔を浮かべた宍戸に、鳳の落ち着きを取り戻していた心臓は激しい律動を再開する。いけないいけない、確認したいことがあるんだ。そう自分を律して、宍戸さんの目を見る。すると、宍戸は悪戯っぽい笑顔を浮かべ、四つん這いになって鳳ににじり寄ってきた。
「や、やめ、宍戸さん」
宍戸は何も言わず、鳳に近づいてくる。ゆっくりと目を閉じ、唇を少し突き出して……。
「だ、だめです。ファーストキスは宍戸さんとって決めてるんです!」
フッと笑った宍戸は、今度は耳元に回ると甘酸っぱい声で「俺だって宍戸だぜ」と言う。吐息を感じて耳まで熱くなった鳳の頭は、すでに回転せず静止した状態になっている。確かに。宍戸さんなら大丈夫かも? と考えてしまうくらいに。
覚悟を決めた顔をして、宍戸の肩を掴む。ドキドキと早まる鼓動に身を任せ、軽く目を閉じて宍戸さんの方に寄っていく。唇にふにっと何かがあたる。思ったよりちょっと硬い気がする。
ああ、宍戸さんごめんなさい。俺は宍戸さんとキスしてしまいました。
「マセガキ」
その声と同時に、額にパチンとした痛みが走る。「痛……」と言って目を開くと、宍戸の手と自分がキスしていて、宍戸のもう片方の手にデコピンされたことに気づく。唖然とする鳳を置いてけぼりにして、宍戸はコロコロと笑い転げた。
「ははははは! 本当にするわけないだろ」
ひとしきり笑って満足した宍戸は、「お前のそれはとっとけよ」と言う。少し残念なような、安心したような気持ちだ。でも、からかわれたのは素直に嬉しくない……と思う。
ちょうど鳳がむすっとした顔をしたタイミングで、宍戸の身体が透け始めた。宍戸も鳳も、この状況に慣れてしまったのか察する。宍戸が元いた時代に帰るのだと。
鳳は宍戸の左手をとって、「元いた時代に帰る前に教えてください」と言った。薬指にある指輪をゆっくりと引き抜きながら鳳は言う。
「あなたのことを振り向かせるには、俺はどんな言葉をかけたらいいですか」
もう少しで指輪の裏のイニシャルが見える。そんなところまで引き抜いたが、宍戸が勢いよく指輪をひったくると元の指に戻す。そして、鳳のよく知る宍戸と同じ笑顔を浮かべて言った。
「秘密だ!」
ジリリリリ。目覚ましの音。ここはどうやら布団の上。夢を見ていたようだ。
「宍戸さんがすごくいじわるだった気がする」
そうひとりごちると、宍戸との朝練に向かう準備をした。
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「夢ですか?」
「ああ、10年前のお前に会ってた。可愛かったぜ」
「ひどいな、俺の宍戸さんは。今の俺は可愛くないですか?」