依存しちゃった「かわいい〜ウケる」
巻いた黒髪ロングの女子高生が、前にいる同じく高校生のボロボロになったマティアスの写真を撮った。マティアスの周りには数人の男子高生が。そのうちの一人が、マティアスの髪を掴み顔を上にあげた。
「おれもこいつ可愛いと思うw」
「うわ〜本当すか?きしょくない?」
ヘラヘラと笑う周りに、マティアスはうんざりして周りの人間から目を逸らした。
「おい」
ぐりん、と男がマティアスの顔を男の顔に近づける。
「何よそ見してんだよ。何様のつもり?人でもねえ化け物のくせによ」
「っ...」
さすがに傷つき思わずマティアスの頬に涙がこぼれる。化け物、化け物...??私が?そんな...そうか。
マティアスの顔の左半分は火災の影響で焼けただれている。目すらもないその顔は、確かに人とは思えない見た目をしていた。
「う...うぅ..」
「あ〜」
キマる〜。ギャハハと笑い合う男女に、マティアスの心は壊れていった。
「ちょっと。何してるの?」
「は?あっ」
やべえ逃げろ!!マティアスの掴まれていた髪はほどかれ、すぐにマティアスをなぶっていた男女は逃げ去ってしまった。
「大丈夫?マティアス君」
涙が止まらず、下ばかり向いていたマティアスの背中をさするのはフロリアン・ブランド。この学校で一番の善人と呼ばれている彼は、どんな人にも優しく、そのおかげで人望があった。彼らはフロリアンにこのことをチクられることを恐れて逃げたのだろう。フロリアンはマティアスの気が済むまで背中をさすり、そばにいた。
「す、すみません...ありがとうございます...」
「いや、いいんだよ。怖かったね。よかったら一緒に帰ろう。」
泣き止んで正気に戻ったマティアスに優しく微笑むフロリアン。マティアスはそんな彼の優しさに、また涙がこぼれそうになった。
「ど、どうして私のことを助けてくれたんですか...?」
「ん?見かけたら、助けないと。」
さも当然かのように笑う彼に、マティアスはほんのちょっと勇気を貰った。次は、警察に通報しよう。そう誓いスマートフォンを握りしめる。
「...いつも、あんなことを?」
帰り道へ向かう中、フロリアンがぼそりと呟いた。
「あっ...は、はい..うん..」
「そっか。」
急にマティアスの胸元が熱くなる。フロリアンが、マティアスのことを抱きしめていた。
「!?あっ..え」
「つらかったね。ほんとうに」
「あっ...あ..うぅ..」
また涙がこぼれ始めたマティアスの涙を、フロリアンはそっと拭った。
「これからは絶対に君を傷つけさせたりしないから。何時でも僕のクラスに来てね。」
「あ...」
そんなことできない。だって彼は、人気者だから...人気者が化け物と一緒になんて...
「ありがとう、ございます...」
上辺だけの感謝を述べ、マティアスはそっぽを向く。フロリアンは、そんなマティアスを見て、自身の肩を持ち上げた。
「マティアス。見て。」
「?」
見ると、フロリアンが、顔に巻き付けていた包帯を取った。
「!?ふ、フロリアンさ」
「僕も君と同じなんだ。」
「いっしょ...」
「うん。だから絶対に、僕は君を助けないといけない。神に誓って言うよ。」
「あ、あ...」
うれしい...うれしい。言葉だけかもしれないけれど、その言葉すらかけられたことがなかった。だから...
「ありがとうございます...」
「うん。明日からは君の家に毎朝伺うよ。」
「え!?」
「これからよろしくね。マティアス君!」
翌日から、本当に彼はマティアスの家に通うようになった。帰りも一緒で、いつの間にかいじめていた彼らも、マティアスから距離を置くようになった。
マティアスは、それからずっと毎日が楽しくて仕方なかった。が。
それは突然に起こった。
「せっかくだしお邪魔していい?一緒に勉強したいなと思って。」
「うん!いいよ」
マティアスの家には人が居ない。両親とマティアスの弟、ルイは今海外にいる。
「どうぞ。」
「ありがとう。失礼します。」
ルンルンでお茶を入れに行こうとフロリアンから背を向けると、急に腕を引っ張られた。
「マティアス」
気づけば、マティアスはフロリアンに抱きしめられていた。
「え!?フロリア..」
振り向くとすぐにその口はフロリアンの唇に塞がれ、舌をねじ込まれる。
「んっ、んぅ...」
息が出来ずに暴れるも、フロリアンの力には敵わなかった。
「っはあ...はあ、はあ」
閉じられていた口がようやく解放され、何をしているの?と聞こうとする。その前にフロリアンに強く胸を押され、床に押し倒されてしまった。
「な何を」
「マティアス大好き。ずっと好きだったんだ。君がいじめられる前から」
「え...!?」
何...いじめられる前から...?いじめられてた時ではなくて?分からず、混乱する。フロリアンはマティアスの空いていた両手に自身の手の指を絡めた。
「君が悪いんだよ。君が可愛いから」
「っ...!!」
マティアスは、いじめられる度に、かわいい、とよく言われていた。だからそれにすごく抵抗があった。
「あの...かわいいは」
「かわいいマティアス。かわいい。かわいい」
「っ...」
反射的に涙が出てくる。やめて欲しい。本当に。
「そうだよね。嫌なんだもんね。マティアス。可愛そうでかわいいマティアス」
「なに..っ...!?ま、まって」
フロリアンがマティアスの服をまさぐり始める。フロリアンの目を見る。もう、人ではない何かだった。
「やめ」
「大好きなんだマティアス!愛してる!!」
「ど、どうしたの..」
ズボンを脱がされ、抵抗も出来ずにそれを扱かれる。驚きすぎて、勃ちもしない...が、一緒に扱き始めたフロリアンのそれは、もう限界にまで達しそうになっていた。
「本当に何...やめ、やめて」
「マティアスっマティアス...」
はあはあと部屋中に声が響き渡る。マティアスは静かにそれを待つしかなかった。
「あっ..」
達したらしいフロリアンは、そのままマティアスのことを抱きしめた。
「マティアスかわいい。」
「う、づ..」
かわいい、と言われる度に心が痛む。怖い。つらい。痛い...あのころの痛みが体に響くようだった。
「マティアス。」
「何...」
「僕は、マティアスがかわいいって言われることに恐怖心を抱いていることを知ってるよ。」
「じゃあなんで」
フロリアンがマティアスの顔を見て笑った。まるで人を殺すみたいな顔で。
「何でだろうね。でもこれからも、君は僕から離れられない。そうでしょ?マティアス」
「ぁ..」
確かにそうだが...今はただただ混乱していた。
「マティアスを守れるのも、傷つけられるのも僕だけだ。もう僕だけのものだ。マティアス。あはは」
「..」
なんか...やばい。
早く逃げないと、逃げないと...立ち上がろうとする足は恐怖で動かなかった。
「悲しいよマティアス。僕たち友達じゃないか」
「ともだち」
「そうだよ」
いつもの笑顔に戻ったフロリアンは、まるでさっきまでマティアスと勉強をしていたようだった。
「マティアス。これからもよろしくね。絶対に一緒にいようね。いっぱい楽しいことしよう?」
「う、うん...そうだね」
怖いけれど、今更離れようとしたって、彼の周りが僕を白い目で見て、またいじめられるだけだ。それに、フロリアンは、初めて僕を心配してくれた友達なんだ。嘘かもしれないけど、それだけは事実でしかない。もう逃げられないと、確かにマティアス自身も感じていた。
「好きだよ。フロリアン」