荘園バグで小さくなったよ!「...なに、これ」
朝、起きた時に見た僕の手が、何故かいつもより小さく見えた。シャツもダボダボで、胸からお腹にかけて、見下ろすとすっかり見えて、自分の体に異変が起きていることを察する。
「あー...」
これが所謂、荘園バグってこと...!?!?馬鹿なことを考えながら、ベッドから降りる。やっぱりいつもより視点が低い。面倒くさいことになった。とりあえず服を着替えて、(着替える服なんてないが...)ウッズさんを探しに行く。彼女なら、こういうことには強いだろう。
「ブ、ブランドさんなの...!?」
「はい。」
「そ、そうなの...!そうね...この場合はどうすれば...!?」
うーんうーんと唸るウッズさんに、不安に思いながらも僕はある事を思っていた。
...この姿のまま恋人であるビクター君に近寄れば、彼は喜んでくれるだろうか...!?
馬鹿言え彼が子供が好きかどうかも分からないのに。自分でボケとツッコミをしていると、ウッズさんが口を開いた。
「うーん、とりあえず私は今からゲームに行かないといけないから、誰かにお願いしないといけないの。どうすればいいかしら...」
「今はお昼時ですし、ダイニングホールに行って周りに話を聞いてみるのはどうでしょう?」
「そ、そうなの!それなの!ブランドさんありがとうなの!」
ウッズさんも混乱していて申し訳ないという気持ちになった。彼女が僕に手を差し出す。
「転んだら危ないでしょう?」
にこにこ笑いかけてくれる彼女に笑顔を返したいのだけれど、何故だか上手く笑えない。
「...?」
よく分からないまま手を取りダイニングホールへと足を進める。中に入ると、そこにはサベダーさんと、ダイアーさん。エリスさんその他様々なサバイバーに...ビクター。
「聞いて欲しいの!荘園バグでブランドさんが子供になってしまったの。私はこの後ゲームがあって...誰か見ていて欲しいの〜...」
ウッズさんが発した言葉と共に周りの目が僕に向けられる。僕は少したじろいだ。
「俺はごめんだね。子供は苦手なんだ。」
喋り、再びラム肉を食べ始めるサベダーさん。それから次々に用事があったりウッズさんと同じようにゲームがあったりと申し訳なさそうな声が聞こえた。
そんな中、無言でば、と手を挙げてくれた人がいた。
「グランツさん!見ていてくれるの?」
「あっ...あの..」
手を挙げたにもかかわらずいじいじと指をいじり目をそらすビクター君。チラリと僕を見て、また目を逸らした。
「ありがとうなのグランツさん。じゃあブランドさん。」
「よろしくねビクター君」
「...!」
子供の姿だから挙動も子供なのではと思っていたのだろう。僕の発言を聞いて彼は少し驚いていた。僕の手を取りおそらくビクター君の自室へと向かう彼は、いつもと違う顔つきで僕に微笑みかけてきた。
「僕の部屋に向かいますね。」
「ありがとう」
なんだか今日は上手く笑えない。どうしてだろう?こんなにも優しく答えてくれているのに...僕は急に強迫観念に囚われた。
「フロリアンさん?」
「あ、何?」
精一杯笑って誤魔化す。その笑顔は歪んでいて、きっと見ている人からすれば変に映っているだろう。僕は焦る。だけどビクター君はそんな僕を見て、ただ微笑んでくれた。
「着きました。」
ガチャリとドアを開け、中に入るように促すビクター君に、僕は何故か少し緊張した。
「ありがとうビクター君。迷惑かけたよね。」
「いいえ。フロリアンさんの新鮮な所をいっぱい見ることが出来たので嬉しいです。」
「ほんとう?」
「はい」
にこりと笑い、両手を合わせるビクター君。どうぞと椅子を引いてくれる。
「僕はいいよ。」
「そんなこと言わないで」
「...ありがとう」
言われるままストンと座ってしまう。ビクター君はそのままお茶を持ちに奥にいった。
「しばらくここにいて大丈夫ですから。」
「悪いね。ごめんよ。後で埋め合わせする。」
「そんな...いいんですよ。僕はあなたといれるだけで...」
「...うん」
「フロリアンさん?」
「何?」
やはり変だと思われたのだろう。僕がいつもより元気のないことが。
「いいえ、なんでもないです」
「ごめん」
「どうして謝るんですか..?」
ビクター君のお茶をいれる手が止まる。僕は焦った。
「あ、いや、いつもだともっと元気なのに、申し訳ないな〜と思って。」
はは。ビクター君は不思議そうにこちらを見た。
「フロリアンさん。」
「ん?何かな」
お茶を置いて奥から出てきたビクター君は、僕の頬を優しく手で包み込んだ。
「大好きです」
「あ...?」
柔らかい唇が、僕の頬にくっつく。僕は頭に血が上るような感覚を覚えた。
「え!」
「不安に思わなくて大丈夫です...僕が守りますから。」
なんだかいつもより大胆だな...とドキドキしていると、ビクター君が驚いたような顔をした。
「あっフロリアン、さん」
「ん?」
ふと、僕の視点がビクター君より高いことに気づいた。
「な、直った...?」
「え!嘘!まじ!」
嬉しい〜思わずビクター君を抱きしめる。ビクター君は少し苦しそうに喜んでくれた。
「ねえビクター。もう1回キスしよ?」
「あ...ああ..」
さっきの大胆さは消え、いつものように少し怯えた顔でこちらを見上げていた。
でも、小さくなったことで彼の本音を沢山聞けたような気がする。それが嬉しくて、今回のバグはいいものだったなと思えた。