セックスしても出られない部屋「ついに、指示を受けられない上、理解の範疇を超えた部屋が来たな」
「良かったね、來人。ここにお前の墓標を建てようか」
「待った。まだここで死ぬつもりはない……なんとか、出られる方法を考えてみないか?」
「僕はもう疲れたんだ。幸いベッドはあるし、とりあえず寝るよ。もうこんな遊びには付き合ってられないよ」
「それには俺も同意するが……」
「何をしても無理なんだよねえ。立て続けにこういうことが続くと、流石の僕としても思考を巡らすことすら面倒だ」
「だけど、出られないと困るだろう?」
「……君はそうかもね。僕は今回はお手上げ。おやすみ。解決したら起こしておくれ」
「潜……!」
「……」
(さて、どうしたものか)
(潜はこんな調子だし)
(これまでを整理しよう。一度目は『セックスしないと出られない部屋』、これは結局潜のペッティングで出ることができた。次は、『愛していると言わないと出られない部屋』、これは「愛してる」と言葉にはしなかったが、これも潜のアクションで出られることができた)
(つまり、潜の行動が何かしらの引金になっている……?)
(今回の部屋は『セックスしても出られない』つまり、逆説を述べるのであれば『セックス【は】しなくてもいい』ということだろうか?)
(何か代替行為が必要だろうか……もしくは部屋の鍵は開いている……? いや、開いていない。押しても引いてもビクともしない。)
(超常現象的力が働いているのか……? だとしたらギミック――儀式的な何か突破口があるかもしれない)
(考えろ――行為の反復? 復唱? 再現性の保持……?)
(儀式、呪い、成就、三位一体……?)
(三位一体……トリニティ、完全無欠……)
(完全無欠の、行為、愛……或いは……)
「潜、悪い」
「……は?」
「起きたな」
「起こされたんだけど?」
「悪かった」
「來人、お前今、僕の唇に触れただろう」
「ああ、キスをした」
「……は? なんのために?」
「それを証明させてくれ。……あ、開いてる」
「……この面倒な部屋の開け方、わかったってことかい?」
「そうだ。これは、殆ど『呪い』に近い」
「へぇ。普段なら興味なんてちっとも無いけど今日ぐらいは聞いてあげる。どういう事象だと推理したんだい?」
「まずこの部屋は『セックスをしても出られない』それは逆説的に、セックスは不要であるということ。しかし、何かしらの証明、――儀式が必要であると考えた」
「それがキス? 王子様がお姫様を起こすように?」
「そう、その通りなんだ潜」
「……は?」
「これまでは行為を全て潜発信で行われていた。俺は何もしていない。この行為の反復を俺がする必要があるんじゃないかと考えた。具体的にペッティング、愛の言葉」
「……もういいよ。出られるなら早く出てしまおう。また閉じ込められても面倒だからね」
「いや、聞いてくれ。だから俺は、キミに口付けた。言葉にはしていない。願いを込めて」
「……ふぅん。そう」
「ああ、キミに向けられた気がするんだ」
「その先は聞きたくないから。もう僕は行くよ」
「……そうだな」
(完全無欠のトリニティ――キス、愛、キミの魂に触れること。本当の条件はわからない。でも扉は開いた。ひとまず、俺は潜にそれを向けられた。なら、この部屋も悪くなかったかもしれないな。)