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    RE_734

    @RE_734

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    RE_734

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    2019年に別垢で壁打ちしていたほんのりさまいち風味の壁打ちリプツリーをそのままコピペしました。完全に自分用メモ。
    小説という形態ではありません。CP要素を期待しすぎてもちょっと。だらだら暇つぶしに活字を追いたい人向け

    #ヒ腐マイ
    hypmic bl

    同じ日をループするサマさんの話。同じ一日をループし続けるサマさんの話。数度目のループで車の中で聴いてたおはブクロが全く同じことに気付いてしまって自分が同じ一日を繰り返していることに気付くの。

    読み上げられるリスナーのMCネーム、ふつおたの内容、二郎と三郎のコメントは同じなのに、一郎だけ毎日違うことを言い続けることにループを認識してから3日目くらいで気づく。電子媒体に記録を残そうにも一日経つと消えてしまうし、紙に書いて置いておいてもやっぱり消える。

    日付が変わる瞬間を迎えれば何か分かるかもしれないと、普段余裕でテッペン超えるまで起きているから余裕だろうと時計を見ながら日付がこえるのを待つんだけど、猛烈な睡魔に襲われて毎回眠ってしまって気づいたら同じ日付の朝を迎えるんだよ。明日の自分への申し送り事項はできないの。

    銃兎さんと理鶯にも連絡を取るんだけど、二人とも同じ一日を過ごしていることに気付かない。勿論舎弟も気づかない。何の証拠も残せないことにぞっとするんだよ

    でもある時うっかり自分の指を紙で切ってしまった事があって、次のループを迎えたときに朝になるとすべてリセットされていた世界の中で、自分の指の切り傷だけは残っていて、これだと気づく。ループを自覚している自分の身体に記憶が蓄積されているのと同じように、自分の身体は時間を巻き戻らないの。

    だから物凄く古典的な手段だけど、試しに自分の手にマジックで文字を書いて朝を迎えたらちゃんと残っているんですよ……。ニュースのテロップ、新聞の見出し、本当に些細なものをあちこちから引っ張ってきてどこまで同じかを検証してる最中に、気付いちゃったんですよ。

    おはブクロで一郎だけが違うことを言っていることに。ずっと、電波に乗せてヘルプを出し続けていたことに気付いて、気づいた時には車のキー持って靴に足突っ込んでたんだよね。未だに覚えている萬屋までの道のりを、一晩前とは違うことを話す一郎の声を電波で聞きながら車かっ飛ばすんです。

    ハマからブクロまで車を走らせてる間に勿論番組は終わるんですけど。萬屋に一郎が居ることは分かっていたので(朝から依頼が入ってる時は番組途中で抜けたりする)、とりあえず萬屋の扉を叩くんですよ。会えばお互い分かる確信があったので同じことを認識している誰かに会って安心したかったんだろうな。

    扉の向こうからガタンって聞こえたかと思うと、あちこちにぶつかっているであろう音をさせながら足音が近づくものだから焦ってた気持ちも忘れてこいつ大丈夫か…ってちょっと落ち着く。勢いよく開かれた扉と、喜色の乗ったきらきらした目を引っ提げて一郎が出てくるからサマさんびっくりしちゃうな…。

    びっくりして固まるサマさんに「…お前かよぉ」って吐き出す一郎の声色に安堵をばっちり見てしまうんだな。条件反射で失礼だなって頭をはたくんだけど、それでもそんな声寄越されたのなんて久しぶり過ぎて何とも言えない顔するよ。しょうがないよ。

    ずるりとその場にしゃがみ込んだ一郎が「……来るのが遅えよ」って言う声に、強がりとほんの少しの震えが混ざってんのに気付いてしまって「これでも飛ばしてきたんだよ」つって頭かきまぜてやんのね。はーー漸く貰った台詞を勝手に回収しました!!

    とりあえず、ってことで事務所入って情報交換。サマさんはループ自体に気付いたのは五日前。一郎はもう少し前からだったってことが判明。
    「いや、ループモノなんて鉄板ネタだろ」オタクは何言っているかよく分からないって顔されるけど、数日前からちらほらこの事態を調べ始めていたらしかったのね。

    一郎自身はまず始めに二郎と三郎に確認を取ったんだけど、二人とも気付いてなかったんだよね。一つ目の違和感は日付、二つ目は聞き覚えのある二郎と三郎のやりとり、決定打はおはブクロの同じ内容のリスナーからのお便り。身近な人間に確認を取ってもきょとんとされるばかりなの。

    あ、こりゃおかしいのは周りじゃなくて俺では?と思った一郎、違法マイクの可能性もあるしぶっちゃけ喰らうだけの心当たりはごまんとあるわけですよ。そうと決まればじゃくらいさんに連絡だと思い立って、連絡を取ろうとしたんだけども。

    「…したんだけどさあ」
    「んだよ」
    「左馬刻、寂雷さんと連絡つくか?」
    「あ? つかなかったんか」
    「ああ」
    「まあ、あの人も忙しいからな」
    「……忙しくて連絡がつかないとか、そういうんじゃねえんだよ。なんか、変で」
    「変?」
    珍しく歯切れの悪い一郎の言い方にサマさんはちょっと違和感を感じるの。

    せんせが仕事で忙しくて出られないなんて今に始まった事でもないし不思議でもなんでもなくね?と思うんだけど、俺の(スマホ)が都合悪いだけなのかどうなのか判断がつかなくてよ、ってもごもご言ってるから試しにサマさんも先生に電話かけてみんの。メッセージアプリは気づきにくいので電話ね。

    でもいざかけてみたらプププッて音がして『現在この番号は使用されておりません』ってアナウンスが流れてくんの。あれ?って思う。だってサマさん自身はつい最近先生の番号にかけた覚えがあるし、その時はちゃんと繋がった記憶があるから。黙って番号変えるってことは考えにくい。

    スマホを耳に当てたまま、眉間に皺を寄せるサマさんに「な。繋がらねえだろ」っていう一郎は、サマさんと似たような表情をしてるんだな。
    「この状況に関して、俺なりの考えがいくつかある」
    「…言ってみろ」

    「ひとつ。『今日』するはずのなかった行動を取ろうとすると、『今日』の帳尻を合わせるように実行できない事が出てくる」
    人差し指を立てる一郎の手を眺めながら、この現象に覚えがあることを思い出すサマさん。

    電子媒体に残そうとしたメモが日を跨げない、紙に書き遺したはずの文字が翌日になると消えている。自分が実験してみた事だった。
    「それと同じように、電子媒体を介して『今日』するはずのなかった行動を取ろうとすると何かによって阻止されるって訳か」
    「そうだ」


    続けるぞ、と言って今度は2本目の指を立てる。
    「ふたつ。寂雷さんがこのループをしている『今日』にそもそも存在していない」
    「どういうことだ」
    何を言っているのかよく分からなくて思わず鼻に皺の寄るサマさんに、そうカッカすんじゃねえよとお茶の入った湯呑差し出してくるのね。呑気か。

    「まあ、アニメとかだとよくあるんだけどな」という前置きに一瞬(出た…)みたいな顔をするサマさんを華麗にスルーして話は続くよ。
    「俺達みたいにループに気付いていない人たちが、俺達を騙す為に作られた何者かによる『作り物』だった場合、わざわざこの世の中すべての人間を作る必要はねえんだよ」

    「手間だしな。俺たちが関わる範囲内だけの人間さえ作っておけば『今日』は成立するんだから、関わらない人まで作る必要はなくなる」見てきたみてえに言うな「よく分かんねえが、取りあえず『今日』会うはずのなかった先生は、『俺たちの今日』には存在しなかった、ってことになるんだな」
    「そうそう」
    「ということは、だ」
    「うん」
    「その仮説については『今日』そのものが何者かによって作られた箱庭のような作り物だという前提があるってことになる、な」
    「そうなるな。……○○しないと出られない部屋思い出すなあ…」
    「あ?」
    「いや、こっちの話」

    そして可能性が低いけどと前置きをされて上がる三本目の指。
    「みっつ。本当に寂雷さんがスマホの番号を変えただけだった、ってオチ。まあ絶対にありえないとも言い切れないしな」
    「まあな。でもその可能性はほぼないだろうな」
    「ああ」
    っふー、と一息ついて、ぬるくなった湯呑に漸く口をつけるの。

    よくもまあこんな非現実的なことに巻き込まれてここまで思いつくな、ってちょっと関心するんだよ。でも一郎曰くこの手のループモノとやらは「テンプレだから。仕掛けた側もこういう発想が在るだけだろ」って割とけろっとしてんだよね。さっきの安堵の色は何だったんだよとは思わなくもない言わんけど

    一郎は誰か一緒に居るとメンタル的に強くなる子だと思うので、サマさんと合流して安心して冷静になるんだろうな……。サマさんは割とちゃんと普通の感覚を持っていると思っているので普通に混乱はしてるよ。いや、普通です。顔に出していないだけで。

    「みっつめの線は薄いから置いておくとして、だ」いちろが何を言わんとしているかが、分かる。「この事から」彼の言葉を引き継いで「先生と連絡が取れないことにより、この繰り返している世界の仕組みが推測できるってんだろ」と続けるサマさんは、自分が酷く現実とかけ離れたことをいってんなと思うの。

    そうだ、と頷く一郎は「世界なんていう大袈裟なもんじゃないかも知れないけどなぁ」とぼやきながら「規模が非現実的すぎだもんな…」とサマさんの思っていたことをそのまま口に出すのね。頭つながってんのか。いや、同じような体験をして思考が似てきているだけだろう。


    「そもそも」ここにきて漸く煙草を咥えるだけの余裕が出てきた。ここに来るまでそういえば一本も吸っていなかったサマさん。ジッポを出したところで一郎が灰皿を出してくる。客用だろう。遠慮なく灰を落としながら「おめーが立てる仮説の立証が先生だけってのは幾分か弱すぎんじゃねえか」って問う。

    そう、立て続けにありえない事が起きているものだから、言われるものをそのまま咀嚼していたけれどやっぱりサマさんでもおや?とは思う訳ですよ。
    「それな。」と同意を示した一郎は、まあ今の現状がだいぶありえない事の積み重ねみたいなもんだから、突っ込んだってしょうがねえんだけどよと前置きをひとつ置くと、実は、と神妙な面持ちで端末の電話帳を見せてくる。 画面に映し出されていた名前は、予想はついていた。

    「乱数か、」
    「あいつも繋がらなかったよ」

    寂雷さんと同じように、と続ける一郎の声を聞きながら口に咥えたフィルターを噛みつぶす。本来連絡を取るつもりのなかったやつに連絡を取ろうとすると本当に阻止されるのだろうか、と眉間に皺を寄せながらサマさんは考えるんだけど。 「いや、銃兎と理鶯には連絡取れたぞ、」って事に思い至るのね。

    それこそ2回目くらいの今日で真っ先に試したの。繋がったよね。それこそ銃兎に言った時は「何言ってんだお前」って鼻で笑われた後に違法マイクでも食らったかって言われるし、理鶯に言った時は「デジャヴュ、というやつか」って言われたんだよね。顔も合わせたけど何の違和感もなく会えたんだよ。

    「俺も二郎と三郎には休み時間狙って連絡したらすぐ返事が返ってきたぜ」って言う一郎、身近で連絡を頻繁に取る相手に連絡取ったところで、これくらいの【誤差】じゃあ阻止はされないんだろうな、って続けるの。

    ああ、だから舎弟に突然電話しても繋がるんだなと思うんだけど、それでもいまいちルールがつかめない。
    「自分たちの身近なやつには連絡は取れるけど、少し離れると連絡が取れなくなる、ってことか?」
    「一応そういう仮説だな」

    1回目の『今日』ではそもそもお互い会う予定はなかったんだよ。まあそれなりに壁はなくなったのでつい先日もTDD組で顔合わせとかはしたんだけどね。そこだけ抜き出せばサマさんだってらむとも先生とも条件は変わらないはず。それなのに何の問題もなく会えるとはどういう事か、
    「俺とサマトキが合うのは予定調和に組み込まれていたって事か?」
    ――んな都合の良いことあるかよ、と言いたいのはやまやまだけど有り得ないとは言い切れないのね。
    「もし、俺とお前が会うことが予定調和に組み込まれていなかったとしたら」
    「それは、」

    もしかしたら寂雷さんも乱数も、俺たちと同じようにこのループする一日にとらえられていることにならないか。閉じ込められた本人たちだけがこの世界で異質なのであれば、異質な自分たちの持ち物はこの世界の電波をとらえられなくても不思議じゃあない。

    言いたいことは分からないでもない、が、掘ろうとすればするほど深みにはまって分からなくなっていく気がするのね。まわりくどい。試せばいい。サマさんは自分のスマホを取り出すと一郎の番号にそのままかけてみる。目の前にある一郎のスマホが鳴るか、鳴らないか。

    ―――ヴーッ、ヴーッ
    「『はい、』」
    目の前にいるいちろと、スマホ越しから聞こえる声。ちゃんと繋がってる。
    「繋がるな」
    「うん」
    確認だけしてぷつんと通話を終了させると、すっかり短くなった煙草を灰皿に捩じ込むの。

    「とりあえず、ループする今日に閉じ込められていると自覚するやつに連絡がつかない説はいったん消えるわけだな」
    「ああ」

    ちょっと整理しようぜ、っていちろがメモ帳とペンを引っ張り出すのね。さらさらとペンで書かれていく文字をサマさんはとりあえず目で追うだけにとどめる。
    ・寂雷さん、乱数→つながらない
    ・二郎、三郎、入間さん、毒島さん→繋がる



    身近な人には繋がる?

    「まあちょっと検証が少ないけどな」
    「うちの下のモンには繋がるぜ」
    「ほーん」
    「あとお前他のやつにはやってみたんか?」
    「そういや寂雷さんと乱数がダメって分かってから試してなかったけど……」

    と続けながら自分のスマホをぽちぽち操作する一郎。流石萬屋と名乗るだけあってざっと視界に入るだけの件数がけた違いなんよね。
    「この時間なら一二三さんと帝統なら繋がるんじゃねえかな」 っておい、知ってんのかよ。


    いやー、人間焦ると簡単なことが思いつかなくなんのな。って言いながら徐に耳にスマホあてはじめるいちろ。
    「あ、もしもしだいす?」
    ちらりとサマさんに視線を送る一郎に、視線で促しながらシブヤのギャンブラーには繋がるんだなと一郎の手元のメモを引き寄せるサマさん。

    「おう、俺いちろうだけど。おー、元気かよ。あのさあ、ちょっとらむだ連絡取れねえんだけど知らねえか?ああ……うん、おう、そうか。……ありがとよ。」
    有栖川、と几帳面な文字でさらさらと付け足して、繋がるグループに付け加えるの。


    「ああ、なあ最近変わった事とかねえ?……いやちょっと気になっただけだから。ないならよかったわ。おう、じゃあな」
    案外あっさり終わった通話画面をオフにする。暗くなった画面を見つめて二人そろって一言。
    「「繋がるな」」

    「いや、まじかよちゃんと繋がるじゃん!」俺の仮設の立証が崩れたあってぼやく割には全然へこたれていない様子の一郎ね。
    「もう一件くらい試してみたらいいんじゃねえの、」って言いながら、ホストあたりとか暇だろってサマさんが付け足すの。まあ確かにリーマンよりは連絡取りやすいよな。

    「じゃあ一二三さんに電話してみっかあ」って言いながら電話帳開くから、サマさんはこいつ知らない連絡先ないんじゃねえのって顔して眺めるの。ひふみといちろもなんかあったらよろしくねーくらいの軽さで名刺交換とライン交換を済ますので。

    「あ、もしもし一二三さん?おう久しぶりーつっても1週間ぶりくらいじゃね?」から始まる会話があまりにも軽快すぎて思わずそのままちょっと眺めてしまうんだけど、いやいや目的忘れんじゃねえよと視線を飛ばすのね。分かってると言わんばかりに瞬きだけで返ってくるんだよなあ。


    「ちょっと訊きたいことがあってさあ。うん、……寂雷さんと連絡取れっかなって思って。ああ、やっぱり?じゃあ忙しいんだな」って続けながらサマさんの手元にあったペンを引き寄せながら「一二三→寂雷☓」の文字を書き足すんですよ。ああ、こいつからも連絡は取れないと。


    繋がる、の括りにもひふみの名前を付け足しながら「そういや最近ちょっと変わった事とかあったか?おう、無いに越したことはないんだけどよ。……うん、じゃあな」ぷつっと受話器を置くアイコンを押しながら「だいすとほとんど変わんねえな」って。

    「っていうことは繋がらねえのはせんせとらむだだけになるな」
    一郎の手元のメモを覗き込みながらサマさんが呟いて、一郎がうーんって呻る。
    「やっぱり二人も巻き込まれてる可能性が高くなってくんだけど、」
    とりあえず共通点でも出すか?って言われたところで明白なんだよね。

    「ヒプノシスマイクが使える、ディビジョン代表チームリーダー、元TDD」
    律儀に指折り数える一郎に「俺たちもだけどな」って被せるサマさん。
    「やっぱり?」
    「やっぱりも何もビンゴだろ。心当たりが多すぎて考えるのもめんどくせえけどな」
    だよなあと吐き出しながらずるずるとソファに崩れる一郎。

    「この際犯人とかもはやどうでもいいわ……」
    「それな」
    どうせどっかで俺ら4人でボコったんだろ、いちいち覚えてられん。とまあ全く反省するそぶりも見られない二人ね。一郎はメモした紙を眺めながら「あー、一人で悩んでるよりはよっぽどましだな。TRPG感出るし」とかぼやきはじめるの。

    Q:一郎ってTRPGとかやるんですか?
    A:さぶちゃんに付き合って長めの卓とか平気で一緒にやるタイプでしょうね。アイディア値と目星が高めな感じするもん。

    そんなわけで「とりあえずこの路線で行くと俺たちはせんせたちと分断されたことになる訳だが」「分断どころか存在してなさそうだよな」

    このループし続けている『今日』に、と続けられる言葉を聞いて「……『箱庭』か」ってサマさん。漸く初めの方に話した話題に話が戻って来ました。
    「……作りもんかどうか、試してみっか」
    「どうやって、」
    今まで『今日』が誰かに作られた空間のようなものの可能性は感じていたけど立証する術が思いついていなかった一郎なんですね。
    「この『今日』自体が作られた空間、あるいは見せられている『幻覚』でもいい。ただ、作りもんにしろあまりにも再現度が高すぎる」
    「ああ、」
    ここ何回か今日を繰り返してみたけど、二郎と三郎の性格だったり見た目に違和感もなかったし、繰り返している今日を認識していない点を省けば言動にも何ら不自然な点はなかったんだよね。それはサマさんがじゅとさんやりおちゃん、舎弟に対してもそう。
    「大分前だな、らむだに聞いたことがあんだよ。『一番リアルな幻覚を見せるなら僕ならその人の記憶をベースにする』ってな」

    「俺たちの記憶をベースにつくられた、幻覚の『箱庭』……ってことか」
    ふむ、と口に手を当てる一郎。
    「俺達の記憶ベースかどうかを確かめるんだったら、単純だが俺たちが知りえない事を訊いて答えられなければクロだな」
    自分たちの記憶ベースに作られた幻覚なら自分たちの知らない事は知らないか、なるほどなとサマさんは思う訳ですよ。とりあえず試してみっかとまたスマホの画面を触るいちろ、今日ほんとにスマホと紙とペンしか使ってないね……。
    でもこの繰り返す一日のベースが自分たちだと気づいてしまったので動き回る必要はないんですよ。 って事で
    「誰にかけんだ」
    「じろちゃんかなー」
    授業中に被ったところで俺の電話なら出るから大丈夫だいじょうぶっていう。まあ緊急事態なので。

    「あ、もしもし二郎?急に悪いな。今ちょっとだけ大丈夫か」
    いつもと変わらない声のトーンで電話かけ始める一郎、サマさんにも声が聞こえるようにってわざとハンズフリーにして通話をしてる。
    『どうしたのにいちゃん、大丈夫だよ』
    電話口から聞こえる二郎も変わりなさそうなかんじ。

    「大したことじゃないんだけどよ、次の授業なんの教科だ?」
    なんの変哲もない、それこそ電話する必要すらないような質問なんだけど、それにこそ意味があるんですよ。さすがのいちろも二郎の全教科までは把握していないので。知らないからこそこの質問に意味がある

    『え、……何?なんでそんなこと――ザザッ……きくの……ザッ……しらな――ザザザ、ザッ』
    途端に困惑したじろちゃんの声と不自然に混ざりはじめるノイズ音に、思わず二人の表情がちょっと固まる。
    「いや、リビングに古典の教科書置きっぱなしになってたからよ。使わないならいいやと思って」
    『――ピッ ザザザッ ああ、うん、大丈夫だよ』
    「ならいいんだ、それだけだったわ。じゃあな」
    声のトーンを変えずに通話を終わらせた一郎が、ふーっと息を吐き出すのをみてさっきのはでまかせだったんだろうなと思うサマさん。

    ほんの少しの静寂を持って。
    「……」
    「……ただ単に電波の悪い所にいたとは考えにくいな」
    「……そうだな」

    途端に困惑した二郎の声も一郎が引いたとたんに止むノイズも怪しすぎて思わず眉間に皺が寄る二人。
    「とりあえず銃兎あたりにかけてみるか」
    さすがに理鶯ちゃんだとマジで電波の悪い所にいる可能性が高いので。
    「入間さん忙しいのに繋がるのか?」
    「まあ出ると思って掛けりゃいけんだろ」

    そういう『世界』らしいので。 スマホの電話帳からじゅとさんの名前を呼びだしてコール3回。もちろんこちらもいちろに声が聞こえるようにハンズフリーで。
    「おうじゅーとお。お前今からする質問に答えろや」
    『急に何横暴な電話寄越してきてんですか』

    なんでも答えられるわけではないと承知の上でしょうに、って声も聞こえるんだけどそりゃしょうでしょうね職業上。
    「いやそんな大してやべえ質問じゃねえから。お前昨日うち来た時間違えて俺のジッポ持って行ってねえか」
    あ、ほんとにどうでもいい質問ですね。

    『――は?あなた何言って……――ザザッ ザッ……ですか……ガガッ』
    ああ、またノイズが入る。
    「ああ、今ねえならいいわ」
    『――ザッ そうですか』
    「おう」
    先を促さなければノイズがとれる、うん。通話終了画面を二人で眺めて
    「クロだな」
    「そりゃもうわかりやすいくらいに」

    「多分電車に乗って知らない駅まで行って降りる、とかやってもダメだろうな」
    「無駄足だからやんなよ」
    「やらねえよ」
    正直怖いしな。
    「これ電話越しだったからノイズ音だったけど、目の前で聞いてたらどうなってたんだろうな」そっちのが怖えだろ、と思っても言わないのがサマさん

    「幻覚の線が濃厚になったけど、やっぱ違法マイクだろうなあ」
    「もう便利道具みてえに使うのやめてやれよ……」
    「正直心当たりはごまんとあるからさっきも言ったけどこの際犯人探しはあとだ」
    「どっちがわるもんだかわかんねえ台詞吐くな……」


    「幻覚ってほぼしっかりした方向性が見えた今らむだと分断されたのが悔やまれる~~~~!!あいつの専門じゃん!!」
    「だからさっさと先に抜けた可能性もあるけどな……」
    「じゃくらいさああん……」
    「せんせもさっさと脱出してそうだもんな……」

    「外部から干渉してもらって解いてもらうのが手っ取り早いが、正直な話らむだとせんせが俺たちのこの現状に気付いてなかったらアウトだよな」
    「……そういう縁起でもないこと言うな……。外部干渉に気が付いてないだけかもしれねえだろ……」
    「どんだけお前前向きなんだよ」


    だってほら、要するに脳に干渉してるわけだからマイナス思考になったら多分一番駄目なやつじゃん……ってもそもそ答える一郎に、まあそうなんだけどなと思うサマさん。
    『思い込み』だけで人間は死んでしまえることを知っているので。

    たとえば有名な話、目隠しをした人間に「これは氷です」と伝えて氷を手に触れさせる。次に「これはアイロンです」と伝えて吹きだす水蒸気の音を聴かせた後に、熱せられてすらいないただのボールペンを手に触れさせる。すると本当にアイロンを当てられたと勘違いした相手の手には火傷が出来る実験の話、精神力だけで負けたら本当に出られなくなってしまうので、一郎のちょっとご都合主義すぎではって発言はこういう時は助かるんだよな。突っ込みを入れているときはめげずに済むし。 そう、どこかに幻覚を解く鍵なり外部とのつながりがあるはずなんだよ。それこそスマホで電話するみたいに、って都合の良いことを言ってると一郎のスマホが鳴る。
    画面を見ると「……らむだだ」飴村乱数のたった四文字がこんなに希望をもたらしたことが今まであったか?(失礼)
    「らむだあ?!?!」
    「うわうるさ!!」
    思わず大声を出したサマさんに対して一郎も大声出す…
    「いいから早く出ろ!」
    「おう、」

    「もしも『おっそーーーーーーーい!!!!いつまで待たせんの?!気づくの遅すぎじゃない?!?!』お、おう、悪い」
    出た途端にこっちの会話聞こえてたんかってくらいの大声でらむさんの怒声が突っ込んでくるもんだから一瞬スマホを遠くに投げたくなったよね。

    「いやだってそんなご都合主義起こると思わねえじゃん……」
    『うるせえええええ!!お前それでもブクロのリーダーか?!?!つーかサマトキも気づくのおせえええええ!!』
    「うわうるせえ……」
    相当やきもきしてたらしい乱数さん、この中で一番テンションの値が高いんだよ…ずっと待ってたので。

    『いい?多分うっすら気づいたかもしれないけど!ボクがここでいちろーたちに伝えられるのはいちろーたちが気づいた事だけなんだよ。ヒントは出せるけど直接的には伝えられない』
    「はあ?それってどういう意味だよ」折角喋れてるのにそれじゃ意味なくないか?

    『分かりやすく実験するよ。僕がこの幻覚から抜け出すためにやったことは ―――ザザッ ガガッピーーー……ザ、ザザッ だよ』
    「何言ってるか聞こえねえよ」
    『つまりはそういう事なんだって!直接言おうとすると伝わらないんだってば!』
    だから今から言うことをよくきいてね、分かるはずだよ

    『今いちろーとサマトキいるのは幻覚の世界なのは分かるよね?』
    「ああ」
    『要するに身体自体は眠っているんだよ』
    「つまりは肉体を伴っていない精神だけの世界みたいな?」
    『そうそう、認識が早くて助かるよ』
    いや、それは多分そいつがちょっと特殊だから話が早いだけだと思うとは口には出さないでおく

    『だからね、今いる幻覚の世界の肉体と精神を切り離してしまえばすぐに戻ってこられるよ』
    「はあ?」
    『うーん、分かりにくいか。要するに ――ザザッ じゃえばいいんだけど』
    「肝心なところが聞こえねえ……」
    『そうなんだよねえ、大丈夫、――ザザッ でも ……ないから、』
    「あーー?」
    『大丈夫だいじょうぶ、割とどうにでもなるよ。ボクもじゃくらいも大丈夫だったし。そろそろ切れそうだからじゃあね、早く起きるんだよ』
    まるで明日の待ち合わせの時間でも決めるかのような気軽さで終わったらむさんからの通話は、かけ直してみても圏外アナウンスが流れるだけなんですよこれが。

    「あいつこんな時ですらこんなにマイペースなんてことある……?!」
    「まああるんだろうな、乱数だし」
    伊達にTDD時代からお付き合いしてないですよ、慣れの境地でしょうね。多分普段ならもうちょっと沸点低くても今はそんなことに構っていられないので。

    「それよりさっきアイツが言ってたこと、」
    「思っていた以上にすんなり出られそうな感じするよな……」
    電話かけてきた怒涛のテンションはともかくとして、大分軽い感じだったよな。
    「この世界での肉体と精神を切り離す、だったか…?」
    「禅問答じゃないんだから……」

    幽体離脱的な?とかなんとか首をひねる一郎に、乱数の干渉でちょっと気が緩んだサマさんが新しく煙草に火をつける。
    「案外簡単だったりしてな、死んだら魂の重さが抜けるって言うし」
    「ああ……あ~~~~~~、なるほどな……」
    冗談交じりで言った言葉に思った以上に一郎が納得の色を示すのね。

    ……出られない部屋方式ね……とかまた一人で納得してるから、いやいやそこよくわかんねえところで納得すんなよって思うわけ。
    「しんでもしなない、ね」
    「は?」
    「いやー、やっぱり一人で考えるより早かったわ!ありがとなさまとき」
    「お前今めちゃめちゃやべえところで一人で納得してんぞ」

    大丈夫だいじょうぶ、とこっちもまたさっきのらむさんを彷彿とさせるような気軽さで言うのね。O型みんなそんなかよとかちらっと失礼なことを思わなくもないサマさん。
    「さまときのソレ、案外正解かもしんねえぜ」

    意識を切り離す、程度なら多分寝るだけでもいいと思うんだけどよ。でも俺たち実際何度も寝てるけど一向にここから出られてないわけじゃん。要するにここの身体に意識がくっついてるんだよな、結局。だったらそれこそこの世界で死ぬくらいが多分もっとも正解に近い、はずだ。

    死んでこの世界の理から抜けてしまえば出られるってんなら案外簡単かもな。それこそこの今日を繰り返し続ける世界では『いない事』になってるっぽいし。先生と乱数ならこの法則に真っ先に気付いてさっさと抜け出せてるのも肯ける。

    なんてことを、こともなげに語るものだから暫く黙って聞いてたサマさんは「お前、詐欺師に向いてんじゃねえの」って思わず口に出す。これくらいの軽口を言ってないとちょっと平静は保っていられない。
    「ははっ、そうかもなあ。でもやってみる価値はあんじゃねえかなって思ってよ。」

    ここでは『死んでも死なない』みてえだし、と笑う一郎に、やっぱりお前は普通じゃねえよ、って返すんよね……。
    「マイクで攻撃受けたはずなのにマイクを出さずに脱出しなきゃなんねえとはどんな皮肉かね」
    「人のメンタル強度舐めてんだろうな、こちとら元伝説だっつーの」一郎、お前元気な。

    「帰ってきて自宅がスプラッタ現場になってたらさすがのじろちゃんさぶちゃんもびっくりするからうちはやめよう……」
    「やめてやれ……」
    いや、つーかお前その辺の筋モンより潔すぎねえか?!
    「この階からの飛び降りも正直足の骨折だけで生き残る可能性が大きいのであまり向いてない」


    「そんな淡々と自宅を自殺現場に選ぶんじゃねえ……」
    「まあとりあえず今はいいか!どうするさまとき、今日飯食ってく?泊って行ったところで多分起きたらあんたの部屋だろうけど」
    眉間にぎゅっと皺の寄るサマさんと対照的に、一郎はめんどくさい会議終わったくらいの切り替えの早さなんよね。

    SAN値の差を感じるよね……。サマさんのが圧倒的にやばい仕事もこなしてきたし割り切るだけのメンタルもあるんだけど、多分TDDメンバーの中では一番普通だと思っているので口では流してても現時点で大分げんなりしてるしSAN値チェック失敗して大分削れてるタイプ。かわいそうに……。

    一郎は逆ね。口ではうわっとか言うのに割と平気。平気だな、と思うことによってだいじょうぶになる自己暗示型だけどダメージも少ないし、今回は「ああ、同人界隈でよく見るあれね…」と「しんでもしなない」って言う明確な確信が得られてしまったのでもう完全に大丈夫ですね。SAN値無傷。

    もうこの後用事無いなら泊ってけば?っていうざっくりしたお誘いの元、正直『今日』やることなんてやってもやらなくても一緒なのでなんだかんだで泊るサマさん。帰宅してきたじろちゃんとさぶちゃんとの攻防戦は今回は割愛で。おにいちゃんの「ちょっと依頼でなー」っていう言葉で収めました強い。

    日付もあと1時間もしないで変わろうかって時間帯。いちろが何も言わずに家を出ようとするからサマさんがどこ行くんだ、って引き留めんのよね。
    「別に来てもいいけど、あんま気持ちのいいもんじゃねえよ」って言われんの。ちょっとそこのコンビニまで、くらいの軽装でさ目的地も決まってるみたいな。

    「流石に自宅をスプラッタ現場にしたくないのもあるけど、刃物で自殺もしたことねえから確実な方法で行こうと思って」って言いながら、いつの間にか廃ビルにたどり着いててね。ここ、鍵外れてて入れんだぜ、って外階段に繋がる錆びついた格子扉を開くの。これから何をやろうとしてるのか分かるんだよ、

    4階でもなあ……まあ、5階くらいなら確実だろ、って言いながらずんずんあがってくわけ。 ――カン、と目的の踊り場に足を乗せた一郎が「なあ、これあんた最後まで見んの?」って振り返って訊いてくる。別に見たくて見てるわけじゃないんだけど、ここまで来ちゃったらしょうがないじゃん。

    「まあ俺なんかよりよっぽど慣れてると思うからあんま心配とかしてねえけど」って言いながら、踊り場の手すりを音もなく軽々と乗り越えるのね。
    「これ、俺の死体が翌朝残らなかったら俺らの勝ちだから、すぐ来いよな。絶対、呼ぶから」

    じゃあ、またあとで。

    「―――いち、」

    重心を背中に倒した一郎が、音もなく暗闇に吸い込まれたのをみてヒュッと喉の奥が鳴る。反射で伸ばした手がいちろの手を握れるわけもなく手すりを掴むだけなんよ。 翌日ってお前、繰り返されてるんだから明日は来ねえだろ、と声を出せたのは、上ってきた階段を降り切ってからだった。


    どう帰ってきたのかも覚えていないしなんなら歩いている最中に日付が変わって『今日』に引き戻されたのかもしれない。目が覚めたら自室のベッドで転がっていた。今生で三本指に入るくらいには最悪の目覚めなのは間違いない。スマホの日付は相変わらず『今日』のまま。

    ラジオアプリでおはブクロに周波数を設定すると、相変わらず同じ言葉を言い続けるじろとさぶ。その中に一郎の声は、無いんですよ。ないのにそのまま進行される。一度聞いた内容とそっくりそのまま同じなのに、一郎が喋ってたところが全部ない。そもそも居ない。

    昨晩(と言ってもいいのだろうか、昨晩も『今日』である)、一郎が堕ちたすぐ後に落下地点を確認した。物が落ちるような音もしなかったし、一郎もいなかった。何かに掴まれるような場所はなくあの高さから落ちて無傷とはいかないはずだったのに。

    血の一滴どころか塵ひとつなく。そこには何もなかったかのようにただただ綺麗なコンクリートの地面が広がっていたのを覚えている。だからこそ、あの場所を選んだのだろうということも。 そして今、まるで元から『今日』に存在していなかったかのようにして扱われている山田一郎。

    思わず電話帳アプリを起動して一郎の番号を引っ張り出す。動きが鈍くなった指で、通話ボタンをタップして耳に押し当てると聴こえてきたのは『この電話番号は現在使われておりません』という無機質な音声ガイドだけ。乱数と、先生と、全く一緒。痺れたような右手でスマホを耳から引っぺがすとソファに引っ掛けたままの上着だけ羽織って車のキーをひっつかんだ。

    ラジオの音声を聴いてから、ずっと右手が痺れたように小刻みに震えているのね。自分も案外ああいうの弱かったんかね、と誰に言うでもなく鼻で笑うと誤魔化すようにハンドルを握る。向かった先は昨晩一郎が飛び降りた廃ビルなのね。

    朝になっても見通しは悪くて、人通りもあんまない感じ。でもそれこそ死体が転がっていたら一発で分かるので一応、見に来たの。意味はないと分かっているけど。一郎がやった手順通りに、錆びた鉄格子の扉を開いて外階段を上っていく。ああ、そういやあいつ呼ぶ、って言ってたけどどうすんだろうな。

    ―――カン、 5階の踊り場に足を乗せたその時に、朝からずっと感じていた右手の痺れが酷くなる。いや、これ、痺れて震えているというよりは。 嘗て妹の手を握ってやっていた時に似ているといえば似ているか。如何せんでかいし力が馬鹿強いけども。

    「なんだお前、朝からずっと、呼んでたんじゃねえか」

    分かりにくいわ、と鼻で笑うと、助走も付けずに音もなく手すりから身体を滑り落とした。

    ***

    落ちた、と思って衝撃を待つと、硬い地面の感触はなく自分が横たわっていたのは糊の利いた真っ白なベッドの上だった。自室の天井ではない、清潔感のある白を基調とした天井と照明が目を焼く。
    「―――っあ、もど……っ、た?か?」
    喉が乾燥して声が張り付くが、ちゃんと出る。それより
    「―――おい、手ぇ痛えんだけどよ、馬鹿力」
    右手をあほみたいな馬鹿力で握りしめたままシーツに突っ伏す黒髪を、犬の如くわしわしと掻き回す。ずっ、と鼻を啜る音がしてから「……来るのがおせえよ」って言うんもんだから「これでも飛ばしてきたわ」ってはじめと同じやり取りをする。

    「すぐっつったらすぐだよ!俺の死体がないのを確認してその場で死ね!!」
    「俺様はお前と違って慎重派だからきちんと現場確認してから来たんだっつーの!」
    「誰が慎重派だよついこの間まですぐ突っ走ってたのどこの誰だ!!」
    「あぁ?!」みたいな賑やかなやり取りをぎゃんぎゃんしてたら「いい加減君たちここが病院だってことを考えなさいね、」って賑やかな声を聞きつけた先生に窘められます。

    「……っス」
    「……すみません」
    しょんとして静かになるサマさんと一郎を見て、よろしい、とにっこりする先生。
    「気分はどうですかさまときくん、どこか体の異常はありませんか」ちょっと失礼するよ、と一言。ベッドの隣にずりずり椅子を持ってきて一郎の隣に腰掛ける。
    「どっかの誰かさんのせいで右手が痛え」
    「うるせ」
    おちょくった表情のサマさんに唇をつきだして眉間に皺を寄せる一郎。先生がはいはいと軽くいなして間に入る。 咽、心音、手足の痺れをさっと診ると問題なさそうで良かったよ、ってほっとした顔で笑うの。

    「さて、二人とも揃ってて丁度良いからここで話を聞かせて貰おうかな。自分達の身に何が起こったかは把握しているかい?」
    左馬刻くんは目が覚めた早々で悪いね、と付け加えると側にいた看護師に彼に水を持ってきて貰えるかなと言って下がらせるのね。

    「多分違法マイク喰らって昏睡させられたところに、」
    「同じ一日をひたすらループし続ける幻覚を見せられてた、ってとこっすね」
    サマさんの言葉を引き継いだ一郎に、うん と頷く先生。
    「大凡の認識はあってるね」飴村くんにも聞いた通りだね、と付け加える。

    「やっぱり乱数もあの被害には遭ってたんだな…」
    「うん、まあ彼は専門みたいなものだしね。何事もなくけろっとしていたよ」
    私も起きて真っ先に彼に確認を取ったしね、という先生もやっぱり同じマイクからの攻撃を受けたようで。

    「飴村くんによるとあのマイクの効果は相手に強い幻覚を見せて昏睡させること。精神干渉による錯乱、相手を衰弱させることを目的としているものでね。時間をおけば戻る、と言うようなものでもなくてある一定条件をクリアしないと目が覚めない仕組みになっていたらしい。」「
    まあ今回私もあめむらくんも、あの精神世界で死ぬ事がキーだったわけだけれど、左馬刻くんも一郎くんも一緒で間違いないかな?」
    「ああ」
    「そうっす」さらさらと手元の紙に何かをメモすると、先生はありがとうと頷くの。

    「二人の今の証言は参考としているまさんに提出しても?」
    「問題ねえ」
    「大丈夫っすよ」
    仮に断ったところで既に先生も乱数も同じような証言をしているだろうし、そもそも断る理由がない。
    「もう銃兎にも話いってたんか」
    「まあ昏睡状態の君たちを回収してから2日程経ったからね」

    あとでチームメンバーにも連絡を入れてあげるといいよ、と付け加える先生に適当に相槌を打ちつつ、そんな気はしていたけどあちらと現実では時間の流れが大分違っていたということを改めて実感するのね。あちらでの一日がこちらでは経った数時間だったりする。


    サマさんの体感としては一郎がこっちに戻ってからそんなに時間をおかずに後を追ったつもりだったのに、思った以上に一郎が心配していたのはそういうところにあるんだよな。こっちの体感と向こうの体感が違うので、下手したら左馬刻が一人でまた1週間とか取り残されたのかと思ったの。

    乱数からの通話で遅い!と怒っていたのもそれが理由です。心配の裏返しだったのね~素直じゃないけど。
    「そういや寂雷さんたちはどれぐらいで戻ってこれたんすか?大分早かったみたいっすけど」
    「時計を見ていたわけじゃないから正確ではないけれど、攻撃されたその日のうちにだったから数時間くらいじゃないかな」
    「それ1回目くらいで気づいてんだろ」
    「普段動かしている身体とちょっと違ったからね」
    とこともなげに答えられてしまって、この人たまに常人離れしすぎて堅気なさそうに見える

    んだよな……って静かに思う左馬刻。思うだけにする。
    「幻覚だと気づいたからね…。目を覚まさなくてはと思って手持ちのメスで一発だよ」
    「そんなにこやかに言う事っすかね」
    「プロだからね、一瞬だよ」
    「得意げか」

    「あとは真っ先にシブヤのゆめの先生からあめむらくんの連絡を受けてね……。外部干渉でちょっと起こしたんだよ。彼だったからすぐ戻ってこれたって言うのは大きいけどね」
    「外部干渉、」
    「乱数が俺たちにしてきたみたいなやつか?」とかサマさんと一郎がふんふんと話を聞いてるけど、この場合はぶっちゃけ物理でした。乱数の容態を見て、ああ、これも同じですね……って言いながら徐にマイクを出すと思いきや軽めにでこピンから始まり、じわじわ拳でこめかみを圧迫するって言うめちゃめちゃ痛みに訴えかけて普通に起こしました。らむさんにはキレられました。二人にはあえて言わなかったけど

    「因みに今乱数は?もうあいつのことだからぴんぴんしてシブヤに戻ってると思うけど」
    「ああ、彼なら今回の犯人を特定してお灸を据えに行ってるよ。」
    幻覚でボクに喧嘩売ろうなんていい根性してるジャンとか何とか言って、意気揚々と出て行ったのを見送ったらしい。

    「つーことはせんせはもう犯人が誰だかは知ってんのか?」
    正直出るまでは何人なんかどうでもいいとは言ったものの、面が割れればこちらとてお礼参りにくらいは行きたくなる。
    「いや?知らないよ。TDDに恨みのある人間だったらしいけど、正直心当たりがありすぎてわからないからね」あんたもかよ。

    「正直言って運が良かったから出られたようなものの、普通のメンタルの人がいくら精神だけでの世界とは言え自殺をして無傷とはいかないものなんだよ。それこそ人は思い込みで死んでしまう生き物だから、」
    だからこそ今回の襲撃は私も軽くは流せなくてね、と続ける先生。

    出来るだけ違法マイク取締りの為に奔走している警察にも情報提供は徹底的にだすし、「あめむらくんの復讐にも口出しはしませんでした」 口調は酷く穏やかだけれども、それこそ血の気の多さは決して隠し切れてはおらず、にこやかに緩められた口元と反して目の光は全然甘くない。まあ、いいんでねえの

    「プロフェッショナルからのキツ―――――いお灸を据えられて反省すりゃあいいんじゃないっすかね!」一郎的にはこれで万事解決。もう乱数がやってくれてんなら多分あれ以上は自分たちにはできないからいいみたいです。サマさん的にはアレにストッパーを付けずに送り出した先生は大分キレてんなと。

    「うん、そんな感じでね。今そこで眠っている人が今回の主犯さんだよ。探してたんでしょ?あげるよじゅーとサン」
    「こっちも犯人を捜す手間が省けて大変ありがたいんですがね。ところでこちら、いつになったら目を覚ますんですか?こちらも尋問、――もとい事情聴取をしなくちゃいけないんでね」

    「ああ、ちゃんと向こうの自分を殺せたら、戻ってこれるよ」

    ***

    おつかれさまでした!!ひとまずこれで終わりになります!長かった~~~~~!!!お付き合いいただきましてありがとうございました!!!

    「同じ日をループするサマさんの話」もとい「自分を殺さないと出られない部屋に閉じ込められたサマさんの話」でした。



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