珍しい相談相手天気のいい昼下がりのカフェで、片目を前髪隠した似た髪型、似た雰囲気を持つ二人が顔を突き合わせてお茶をしていた。
「で、先輩相談なんですけど」
「シャンパンは入れないからな」
「断るのはや、ここは俺の店じゃないですって。と言うか相談内容は違うんですけど」
「そうなの?それはごめんね?さぁ、早くその相談とやらを教えて」
せっかちだな、とコーヒーを飲みながら紫雲は鉄扇に話す。
「高身長の碌でもないイケメンに飼われてるってマジですか?」
「んふふふ、タイム、まって、なにそれ」
いきなりのとんでもない質問をされると全く予想を指定無かったのだろう。
鉄扇は飲もうとしていたコーヒーカップをカシャンと音を立てて机において質問の意図を聞くが、紫雲からは「風の噂で聞いたから気になって。ほら、先輩の恋人運の無さは学生の頃から有名でしたから」となんてことのないように返される。
「仮に、俺がその高身長の碌でもないイケメンに飼われてたら何が聞きたかったの?」
「相手の人がクズ男ならホストが向いてるだろうし、俺働いているの店に来ませんかっていうスカウトですよ」
「残念ながら、紫雲が考えてるようなクズじゃないよ。なんなら、非の打ち所がないぐらいには腹立つ見た目も中身も完璧なイケメンです」
「…その手の先輩の証言は余り信用できないんですけど」
「ここの会計払ってくれるって?ありがと」
軽口を叩きながらコーヒーを飲み、紫雲はシフォンケーキ、鉄扇はレモンタルトをそれぞれフォークで一口サイズに崩しながら口へと運ぶ。
「で、冗談はここまでです。冗談抜きで金が必要なんです。先輩、3日間だけ俺の店に在籍してください。ちゃんと報酬は色を付けますんで」
「悪いけど、それだけならお断りだよ」
鉄扇は紫雲が何かを隠しているのを知ってる。
今日ここに来た理由は、この男が普段、客に隠しているモノを暴きに来たのだ。
「なんの為に金が必要なの?女?誰かに貢ぎたい人でもできた?それとももっと贅沢がしたい?仕事を辞めるための貯金を作ろうとしてる?理由は?なに?なんのため?」
ギラギラとした目で目の前の獲物を見据える。
ここで逃すものか、全てを曝け出せ、その感情を見せろ、と。
その圧に気圧されたのか、紫雲ご少し気まずそうに残り少ないコーヒーに口をつけ目をそらしながら話す。
「…気になる、人、ができ、ました」
まさか紫雲の口から気になる人なんて、信じられない。
信じられない、が予想以上に面白い話が出てきた。
これなら手を貸してもいいかもしれない、あわよくばその紫雲のお相手を見たい。
そう思ってしまえば早かった。
鉄扇の中ではこの話を承諾する方向で根掘り葉掘り聞いてやろうと詰めていく。
「へぇ、あの紫雲がね…その人に貢ぎたいの?」
「平たく言えばそうですね。二人で過ごせる別荘かなんかを買おうと思ってまして」
「それで?」
「先輩を呼んでイベントを開きます。昔、先輩が働いてたときの店の売上凄かったの知っですからね」
「あぁ、あれね。アレは調べものしてただけなんだけどなぁ」
「そんな事はどうでもいいです。先輩を餌に俺は姫を増やします。客寄せパンダになってください」
「ストレートに言い過ぎでしょ。でも、いいよ。その話ノッた」
鉄扇の返事に紫雲はホッと胸をなでおろす。
虚継に新しい画材だったり、二人だけで旅行だったりと貢ぎたかったのは本心なのだ。
確か今の紫雲でも、ある程度の金はある。
だが、それだけで虚継を養って行けるわけではない。
今の仕事ができるのにも期限がある。
若いうちに出来るだけ金を稼いでおかなければいけないと、最近少しの危機感が芽生えた。
誰かを養いたいなんて、そんな事は初めてのことで本当に出来るのかはわからないがやるしかないと腹はくくった訳だ。
さて、目の前の好奇心モンスターに色々と嗅ぎ回られる前に仕事の説明をしてここから出る為に頑張ろうか。