探偵の人生整理小さいときはいつもいつも兄の後ろをついて回ったの。
俺のことを守ってくれる兄が格好良くて好きだったから。
ずっと兄の後ろからいろんな人を見ていたの。
後ろからなら、自分が注目されることはなかったから。
ずっと人前に出るのが怖かったの。
好奇の目で見られるのが嫌だったから。
小学校低学年の時に知らないおじさんに手を引っ張られておじさんの家に場所に連れて行かれた。
そこにいるだけでいいからねって言われていろんなお菓子を渡された。
兄もいなくてとても怖かったのを覚えてる。
怖かった、でも、おじさんは優しくしてくれて、俺のこと撫でてくれて、美味しいお菓子もくれて。
たったの2日だけだったけど、俺にとっては優しい人で、一緒にいて本当に楽しかった。
後からあれは誘拐で駄目なことだって教えられたけど、俺は納得できなかった。
なんで?俺は何もされてないのに。
閉じ込められてもないし、乱暴もされてないのに。
ただ優しくしてくれて、お菓子くれて、撫でてくれただけなのに。
俺には納得できなかった。
兄は凄く怒ってたな。
俺が弱くて大人に何も言えなかったからおじさんは警察に連れて行かれたのだろうか。
そう思って自分の性格を変えることにした。
兄に堂々としろと言われたのもあったけどね。
まずは兄の後ろに隠れることをやめた。
兄は少し寂しそうにしていたけど、今思えば俺は自立する為と言い訳をして、兄に心配させたくなかったんだろうね。
逆に弟からはあかにぃかっこいいと褒められたから嬉しかった。
とにかく人前に出るようにした。
人を楽しませれるように、相手の事を知れるように、自分の事を好いてくれるように頑張った。
前髪を切って顔を出そうと思ったけど、それは怖くてやめた。
自分の中を見透かされるのが嫌だったから、だから弱い自分を隠す為に前髪で顔を隠した。
隠したらそれはそれで、ミステリアスでかっこいいって言ってくれる人がいたからそれは良かったなって。
中学、高校と成長していくに連れちゃんと口が回るようになったし、人見知りもしなくなった。
最初に比べて随分成長したと思う。
高校の時に裏路地でゴミ箱の隙間を覗いている不審者と会った。
気になって話をしてみたら探偵だという。
実際に探偵が存在したことにとても驚いた記憶がある。
気になって色々と聞いていたら沢山のことを教えてくれた。
自分の事務所に連れて行って探偵について、探偵になるにはどうすればいいかとか、浮気調査、盗聴器の発見方法とか、タバコの吸い方、酒の飲み方も、本当に沢山のことを詳しく教えてくれた。
本当にいろんなことを教えてくれたのに、どれだけ聞いても女の子にモテる方法は教えてくれなかったな。
色々あったけど、出会ってから大学を卒業するまでそこで助手としてバイトもさせてもらえて、あの人には感謝してもしきれない。
自分のことはあまり人に言わないでくれって言われてるから、こんなに素敵な人がいたってことを周りに紹介できないのが辛いな。
それと、大学の時に叶と会った。
凄い良い人で、パーソナルスペースがしっかりあるタイプの人だった。
俺のことを深く聞いてこなくて、俺がミスしたら助けてくれて、やけ酒にも付き合ってくれて、お互い酔った勢いで付き合い始めたのに凄く大事にされて…怖かったから逃げた。
今まで付き合ったら皆見返りを求めたり、俺のことをステータスだの、キープだの言ってたのに叶はそんなこと言わないし、しなかったから、家族以外でそこまで大事にされるのは初めてで、どうしたらいいかわからなくなって怖くて別れたの。
「朱音がそうしたいなら俺は引き下がる、けど諦めたわけじゃない。やっぱり俺がいいと思ったらいつでも帰ってこい」って、そんな事言ってた。
俺の勝手な理由で別れたのに、それでもまだ見放さずに、税理士の資格までちゃっかり取って来て「事務所開くなら雇え」なんて言うからびっくりして雇っとちゃった。
資料の整理とか経理、事務仕事は何でもしてくれてすごく頼りになる。
叶がいてくれるから俺は現場で動ける。
たまに怒られるし、怪盗を拾ってきた時なんか見たことないぐらい怒ってて本気で怖かった。
枸櫞の前ではそこまで怒られなかったけど「お前が厄介事に巻き込まれるのはいつもの事だけどな、世間を騒がせてる怪盗を拾ってくるとはどういう了見だ!」って二人になった時に言われた。
色々と言い合いになったけど、最終は叶が折れてくれて枸櫞が俺のところで助手をしてくれることになって。
枸櫞と桐島と死ぬほど仲が悪いんだよね。
桐島はね、お腹空かせて道端に落ちてたからご飯あげたらめっちゃ懐かれたの。
俺より年下で、シッカリしてる弟みたいな感じなのかな?
裏社会で違法薬物売って、ギャンブルで日銭を稼いでるどうしょうもないやつだけどたまに擦り寄ってきて俺の上で寝ているところは可愛いどこにでもいるただの家出少年なんだよね。
家族の話は一切してくれないけど、俺には色々と話してる方みたい。
でも、俺と一緒にいたいからって俺を薬物中毒者にするのはやめてほしいかな。
一緒にいてって言ってくれたら俺は一緒にいるのに。
薬はあとが大変だからできる限り使わないでほしいんだよね。
話が脱線したから戻すね。
怪盗しらなみ、蒼海枸櫞は凄い不思議な人なんだよ。
一緒にいても寝れるし、俺の醜態をみても何も言わないし、挙げ句の果てには自分の好みじゃなくて朱音が好きな事をして好きな服を着てとか言ってくるし。
ホントに変わってる、物好きだと思うよ。
何年も自分の好みなんてまともに考えたことなかったからどうしようか。
枸櫞はいつもジャケットとかシャツとか、シルエットがキレイに出る服を着てるからそういうのが好きなのかな?
それなら俺は横に並んでも可笑しくない服?
そう思って上に羽織ってるのを羽織じゃなくて枸櫞みたいにジャケットにしてみたら、凄く治安が悪くなったから流石にやめた。
あとね、凄いいっぱい食べるの。
見てて気持ちいいからいつも食べさせちゃうんだけど全く太らないから凄いなって。
俺の作った不格好なレモンタルトもスコーンも飯も全部美味そうに食ってくれて、洗い物してくれたりもするし、結婚したらこんな感じなのかなって思ったよね。
まぁ、枸櫞はそのうちキレイな奥さんと可愛い子供と幸せな家庭を作るんだろうなって思ってたんだけど、なんかその様子が全然なくて。
ずっと俺と一緒にいてくれてる。
捨てる気配もないし、他の女の影も見えないし、ホントに俺でいいのかな。
ここまで大事にされたら俺は枸櫞から離れられなくなる。
愛してる、好き、ずっと俺と一緒にいて、俺のことを俺より愛して、傷物にして一生側においてくれたら…なんて思うけど枸櫞はこういうことは嫌いだからできる限り言わないように気をつけないと。