お転婆子爵令嬢は冷徹辺境伯に愛される(稲さに) 幼い頃は、よく庭の低木樹の間に隠れて侍女たちから逃げていた。当時はかくれんぼだと思っていたのだが、大人たちからすると肝が冷えるものだっただろう。それくらい彼女はお転婆だった。お転婆お嬢様だった彼女がある日いつものように“かくれんぼ”をしていた時に見つけたのは、低木樹の影に隠れて泣いている男の子だった。
『どうしたの?』
彼女は警戒もせず話しかける。漆黒の髪に美しい薄鼠色の瞳を持つ少年は彼女を見上げた。大きな涙がぽろぽろとこぼれる姿は愛らしさを際立たせる。まるで小動物のような雰囲気の少年に、彼女はきゅんとしてしまった。左の頬骨にある黒子がどこか艶やかさを纏っているようだ。手元に木刀らしきものがある為に、どこかの部隊の見習いなのだろうと思う彼女。
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