救われてえー「ッ、おれは今の今まで死んでいたんです」
最初に断っておくが、新宿歌舞伎町の地面は社会悪の煮こごりである。倫理から外れた有象無象の恥と処世の落とし穴が全面に敷きつめられ、そのうえには物理的に霧散した安酒とオーバードーズの温床と性病の成れ果てとヒトの悪意、そして大量に人間のゴミが横たわっている。それはおれのことである。今日もおれはいつも通り汚れた寒空の下で冷たいコンクリートに後頭部を押しつけながら鈍色の曇天を眺めていた。目に映る季節はこうやって地面に這い蹲るうちはずっと変わらず、今もヤニの浮かぶ曇天の空に無駄な二酸化炭素を吐き出している。息を吸い込むとその煙たい空気に心臓が重たく寝そべっていて居心地が悪く、吐き出すので精一杯だった。ただ、ため息をつけどもそれを拾ってくれる人間もいなければ空気すらもおれのためには存在してないのである。映画館の横道から繁華街に向かううら若い少女たちにさえ、その純できらめきに閉じ込められた永遠の瞳さえ、おれを見る時は冷たく曇るのである。とはいえ泣く元気も絶望する元気ももはやなく、ただゴミという自認だけを頑なに守って、案外気楽な毎日であった。
1005