『闇鍋本』裏話 自己解釈『サイケデリック・エモーション』
テーマは『破滅願望』と『演劇』でした。
爆弾というモチーフはかなりパフォーマンス性の誇張だと思ったので、社会を板上に見立てて道化を続けざるを得ない爆弾魔の話にしようと思いました。演劇をテーマにしたのはメタ的に長台詞という演出を入れたかったのと、爆弾魔自身を役者に見立てて彼のパフォーマンス=爆破行為を虚構として際立たせたかったからです。私は爆弾魔をひどくかわいそうな男だと思っているので派手さと悲劇性を同時に演出するために、とにかく台詞は統一性がない不安定さに勢いをつけることを意識しました。彼の暴力衝動の開花は青年期の初めの中学3年生くらいをイメージしていて、青年期の初めから止まっている精神年齢から幼さも際立たせたかったです。
ちなみにこの時点ではまだ爆弾魔+刑事で、爆刑は爆弾魔が初めて舞台を降りることができた今の時点から、こっからです。続編ありかも!と思っています。
『かわいそうなひと』
純粋無垢へのアンチテーゼだー!!劣悪環境で育ったジョンくんには人外の吸血鬼と対峙してちゃんと醜い人間でいてほしかった。何もかも教えてもらっていないから、自分の抱える欲望も悩みも希望もうまく認識できていないジョンくんの『かわいそう』は明らかなのに、ジョンくんは吸血鬼さんの永遠の孤独を最も『かわいそう』だと思っていて結末は彼らにとって二重で悲劇であり救いなんだよねという話を意識しました。
純粋無垢へのアンチテーゼだったので、土台を揃えるために童話や古典を意識して文章は硬めに書きました。
反省点は時系列が死ぬほどわかりにくかったことなんですが、 出会う→寝室に通うようになる→嵐の夜に吸血鬼と体の関係を持つ→村人に殺されかける→吸血鬼になる です。読みにくいのはほんと、すみません。もうちょっと丁寧に描写すればよかったーーと思っているのですが吸血鬼二人になった後では人間と吸血鬼だった頃の初めての交わりは永遠に再現性を持たない、というところに萌えていました。
『マーブル・ドラマチック・アイズ!』
去年のJBで出したもので、初めて書いたモモユキです。気に入りすぎているので再掲しました。モモさんがユキへの感情について謙虚なふりをしているがかなり傲慢なところが好きです。愛の長台詞を「啖呵切っちゃった」と思っている春原かわいいね。
『涙のメカニズム』
涙のメカニズムは戸川純の曲なんですが「かなしいものそれはあなたの沈黙 切ないものそれはわたしの言葉よ」という歌詞に引っ張られ、いつの間にかこんな話になっていました。
元々は同居時代にユキさんへの感情を自覚する話と悪夢を題材に書いたものの別の二つの小説でした。ユキさんは一切喋らないけど現実、あの時代をままならない感情で乗り越えたモモの切なさを全面にかけてよかったです。モモさんの愛の形骸がいくえにも積み重なって、今の彼らがいるんだよーーと思います。「オレの愛は何度も死んで、何度も生まれ変わったよ」ということが全てなんですね。
『ショートコント・なまもの・三部作』
書いてて一番楽しい話たちです。読んでいても楽しんでいただけるんじゃないかと思います。
持論なんですが、ショートコントって途端に思想の強さを盛り込めるものだと思います。あり得なさを断定することがギャグになるし、真剣であればあるほど面白くなりますからね。モモがナマモノの自分と競り合っているのを見るのが本当に好きです。ノンフィクションはこれだよ、という気持ちを込めて3話目を書き下ろしました。お付き合いいただきありがとうございます。
『エンジェル・ピーチ』
女である折笠千斗が破滅人生すぎて、危うさが男である場合の比じゃないな、と思います。だからこそ女の彼らは破滅的でその場の陶酔を強めるようなセックスをするんだよね。本音を煙に潜らせてしまうようなところも好きです。ワンライの再掲でした。
『背骨に棲みつくもの』
注意書きしたって百虎はももとらだよ、と怒られる覚悟で書きました。ただやっぱりヤクザのモモさんである意味を考えたとき、暴力は避けて通れないものだと思います。爆弾魔の危うさとはまた違って、ヤクザの百は生きるのがきっと上手だからユキのことを大切にできるはずなんですよ。加虐癖に骨まで浸かった男の、知らない倫理を真似て愛を規範にのめり込ませる健気さを演出するために一方でちゃんと暴力に塗れていないといけなかったしそれは性欲である必要があったんです。とらおくんごめんね。
『魔性のしぐさ』
何もいうことないです。エンタメです。
ぶりっ子じゃないモモさんってかなり粗雑な攻めだな、と思ってバンドマン設定でその辺りを補強したつもりです。
『それは、プラトニックたらしめる遺憾』
オメガバースに対するレジスタンスでした。強すぎる規範と本能性を前に、手を出さないことがむしろ強靭な愛と定義できるのでは?という話。でもあり得ない性への興奮を想像上で共有する瞬間がセックスするよりエロいと思うんだーーーー
『キューティーハニー』
おまけに書いたモユちゃんでした。モモの顎でロッククライミングするユキの想像力がかわいくて好きだよ。というか、モモのことを心底かわいいかわいいと思っているユキの目が一番節穴で一番真実なんだーという話。