『キイ家でのレツ』
キイ家は落ち目の降霊術師の一族。今では「霊が視える気がする」「何か声が聞こえた気がする」程度の霊能力しか持たない。このまま緩やかに力は失われ、凡人になるのだろう。
力が弱いので今は没落貴族である。
そんな最中に突然生まれたのがレツ、もといレイズだった。
術師一族であるので魔力のあるなしは感じることが出来た。赤子のレツは呼吸が止まる程の魔力の圧を放っていた。
親族たちは思った。「この子は一族復興の切り札となる」と。レツの誕生。みな喜んだ。
この二ヶ月後、元々体の弱かった母親が亡くなる。我が子の異様を思い知ることなく。
レツが成長すると赤子の頃では気付かなかった特徴が見え始める。
レツは虚空を眺め、まるで何かを目で追うかのような仕草をすることが多かった。時には何も無い場所を「さも何かが居るように」手で払い除けることもあった。
ある時、レツは家族にこう訴えた。「ぼく、ちがうおへやでねたい。夜にはあたまが3つおちてころがってくるからどけなきゃだめだから。おにいさまのおへやのしょうめんのおへやはしずかだから、そこがいいです」親族は薄気味悪さを感じつつもレツの言うようにしてやった。
レツには膨大な魔力だけでなく、霊能力も備わっているのだと親族は理解した。一族の復興がより確実なものになると喜んだ。
しかし親族は霊能力をほぼ有していない者ばかりだったので、レツが得体の知れないもののように思えて距離を置きがちになった。
それでもレツの側に居る人は居た。祖母と3番目の兄・ダストである。祖母はレツの次に霊能力が強く、レツが視ているものをおぼろげでも理解してくれた。
ダストはレツと2歳年の離れた兄で、15歳ほども年上の長男と次男に相手にされず、さみしい思いをしていた。歳の近いレツを可愛がり子分のように連れ歩いた。