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    yu__2020

    物書き。パラレル物。
    B級映画と軽い海外ドラマな雰囲気になったらいいな

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    yu__2020

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    学生時代に一時の気の迷いで関係を持った(と思ってる)アズが卒業後、ジェイドから手紙を貰って助けを求められて彼らの居る田舎の屋敷へ向かう、的な話。

    コージーミステリー殺人は容易ではない
     

     コンパートメントの中には一人しかいない。
     これから向かう場所はこの時期は観光客も来ず――その場所に観光客が来るかも甚だ疑問ではあるが――始発駅で見かけた乗客達はどんどん降りていったようだった。
     アズールは四人が座れるコンパートメントを見渡し、手元の鞄から手帳を取りだした。挟み込まれていた封書を手に取って中身をもう一度開いて眺める。
     書いた人間の人となりが分かるような、きっちりとした、それでいて流れるような筆の運びを見つめてアズールはもう一度それを読み始めた。

    『親愛なるアズール様
     突然の手紙を出すことをお許しください。
     ジェイド・リーチと言う名前を覚えているでしょうか。或いは、フロイド・リーチという名前はどうでしょうか。どちらかでも覚えていたのでしたら幸いです。
     このような手紙を出すことになるとは正直思っていませんでした。ですが、事は急を要します。どうか、あなたの慈悲に縋らせて貰えないでしょうか。
     この手紙があなたの元に届いたとき、僕達兄弟がまだ生きているか、正直分からないのですが、それでも、死んだ後あなたが僕達の願いを叶えてくださったなら、きっとあなたの欲しい物をご用意します。
     あなたが学生の頃から叶えたかった願いのため、奔走していることを知っています。
     そのために必要な物があなたには無いことも。
     学生時代、あなたの人間に対する洞察力、たぐいまれな発想力、そして弛まぬ努力を惜しまない姿に感服しておりました。
     あなたであれば、今僕達、より正確には僕達一族が悩まされている問題を解決できると確信しております。
     今、僕達は一族の当主であった祖父の遺言状の公開の会議に出るため、祖父が亡くなった日まで住んでいたマナーハウスへ来ています。
     チケットを同封しますので、ご興味あればどうぞ屋敷に来てください』

     ジェイド・リーチ、それにフロイド・リーチという名前に、アズールは学生時代に会った彼らの姿が脳裏に鮮やかに浮かんできた。
     他の学生よりも頭一つ高かった双子の青年達の事はアズールはある程度話には聞いていた。借金までして有名な大学に入ったのは、彼らのような有力な学生達とのパイプを作る為でもあったからだ。
     数年前の出来事の筈だったが、それは今でも簡単に思い出すことが出来た。
     図書館でレポート作成で必死にラテン語の文と辞書を見ながら過ごしていたときだった。
    「ここ空いてる?」
    「……ええ、見ての通りですよ」
     顔を上げたアズールは、そこに立っている人物を見上げて眉をひそめ、すぐに視線を落した。彼はアズールの目の前に座ってパラパラと同じ講義の物らしいラテン語の本を手に取って、顎に手を当てて考え込んでいた。
    「……ねえ」
    「なんです? 僕に手伝って欲しい、とでも」
     彼はにやっっと笑って
    「よくわかってんじゃん」
    「……僕がそういう事をしている事はそれなりに知られていると思っていますから」
    「いやじゃないんだ」
    「ええ、だって、僕が流してますから」
     アズールは目の前の青年の手から本を取ってじっと見つめて、さらさらとルーズリーフに走り書きをした。
    「どうぞ」
     書き付けた翻訳文を、青年はラッキー! と言って手に取ろうとし、ぱっとアズールは腕を上に上げた。
    「おやおや? あなたまさか無償で貰えると思ってるんですか?」
    「げ、やっぱ金取るの?」
    「ええ、対価は必要ですよ? 例えば掃除を他人にさせることや料理を人に作らせることと、何が違います?」
    「はーい分かりました。払います」
     財布から紙幣を取り出した青年に、アズールは紙切れと交換で手に取って、紙幣を手に微笑んだ。
    「取り敢えず今回は良いでしょう。次からは、その妙な変装をしないで来るように。ジェイド・リーチ」
    「……!」
     ガタン、と椅子が後ろに倒れる勢いで立ち上がったジェイドは、驚いた顔でアズールを見つめた彼は、髪をかきあげた。分け目のメッシュが元に戻り、彼はどうして、と呟いた。
    「あなた方、目立つので何度か見かけた時に観察をしたことがあるんです。双子でよく似ているというのでどんな物かと。ああ、勝手に観察していたのは……謝りますよ」
     アズールは、にやりとジェイドを見上げてペンで差し
    「種が分かれば大したことがない話です。ジェイド・リーチとフロイド・リーチ。双子ですが全くの個別の人間ですからね。あなた、考え事をするとき顎に手を当ててる事が多いんですよ。フロイド・リーチは考え事をする時、どちらかというと頭を押さえたり天井の方に視線を逸らす事が多かった。それに、本物の彼はそもそも椅子にきちんと座りませんよ」
     そういったアズールに、ジェイドは思わず吹き出して
    「それは……確かにそうでしたね。ああ、まさかそんな情報で僕達を見分けるとは……」
     笑った拍子に涙が出たのか、ジェイドは目元を拭って
    「ああ、こんなに笑ったのは随分久しぶりです」
     と随分晴れ晴れとした笑みを浮かべてアズールに手を伸ばした。
    「改めて、僕はジェイド・リーチ」
    「アズール・アーシェングロットです。フロイド・リーチは?」
    「ああ、多分机に座っているのがいやで庭で寝ているますよ」
    「何故僕に声をかけたんです?」
    「少し興味があったんです。学内で、レポート作成の代行をしている学生がいると。それもかなりの物を作っていると知りまして。それだけの事をしていながら、どうやら成績も良いらしいと聞いて」
    「それはどうも」
     適当に返事をするアズールに、ジェイドは顔を近づけてきて
    「でも、僕が一番感じ入ったのは……僕達を観察だけで見分けたことですね。あなたのその洞察力は素晴らしい。とても興味深いです」
     覗き込まれては仕方が無く、アズールはジェイドと目を合わせた。
     そう言えば、この双子は目の色素が左右で違うらしい。蠱惑的ですらあるその金色の瞳をアズールは思わず見つめた。
    「ねえアズール。どうでしょう、このあと少しお話をしませんか」
     フロイドもきっと喜びます。
     そう言ってジェイドの手がアズールの腕に触れ、ゆっくりと掴んできた。
     断る事など考えず、アズールは勿論、と頷いた。


     列車が大きく揺れ、アズールは物思いから覚めて窓に目を向けた。
     湿原地帯を抜けた先の、牧草地が広がる平均的な田舎町の駅で、アズールはキャリーケースを下ろしてコンパートメントから出た。駅に降り立ち、寂しさすら感じる静かな駅に一人立って、アズールは若干途方に暮れて辺りに目を向けた。
    「アズール」
     呼ばれて振り返ると、駅のホームの外側から男が一人手を振っていた。
    「フロイド」
    「あは、アズール久しぶり-!」
     手を振るフロイドは、以前と変わらない様子で、言ってはなんだがピンピンしていた。
     アズールはキャリーケースを転がして改札を出て、駅舎の外に出た。車を止めて待っていたフロイドは、アズールに両手を広げて抱きついて肩を叩いた。 
    「……死んだんじゃないんですか」
    「ひでっ! いや、ひょっとしたらって話でさぁ。ジェイド一体どんだけ話盛ったんだろ……」
     頭を掻いて、フロイドは車にアズールの荷物を積みこんだ。
    「ジェイドはどうしてます?」
    「ジェイドは今留守番ー。オレらのどっちかが家に居ないとちょっとまずいんだよねぇ」
    「まずい、とは」
     助手席に乗って、アズールはどういうことかと問いかけた。フロイドは、少し考えてから車を走らせて
    「……オレらがいない間に誰か死ぬかもしれないからね」
     と事もなげに答えた。
    「……死ぬって」
    「ジェイドがちゃんと話してくれると思うけど。オレは覚えてないことが多くてさぁ。でもアズールが来てくれて良かったぁ」
     へら、と柔らかい笑みを浮かべたフロイドに、アズールはかっと頬に熱が走って思わず助手席側の窓に目を向けた。
    「……不幸があったと、聞きましたが」
    「そう。オレたちのじいちゃん。何事も無ければ順当にうちの親父が当主様になるはずだったんだけどー、今親父捕まってんだよねぇ」
    「……はあ?」
     思わずフロイドに顔を向けると、彼はニコッと笑みを浮かべ
    「あ、オレの方やっと見た」
    「……っ、あ、遊びに付き合う気は無いんですよこっちは」
    「親父が捕まったのは本当ー。でもさっきからアズールオレに目を合わせないじゃん。なんか困る?」
    「そんな、事は……」
     無い、とはっきり言う事が出来ずに、アズールは俯いた。耳まで赤くなっているのが自覚できる。なぜ、この男は平気でいられるのだろう。
     車も殆ど通らず、言ってしまえば家もあまり無い牧草地の真ん中を突っ切る道の途中で、フロイドは突然車を脇に寄せて止めた。
    「オレ、結構楽しみにしてたんだけどな」
    「……」
     こちらに身体を近づけてきたフロイドに、アズールはいたたまれずに黙りこむ。
     脳裏を、あの、若くどうしようもないほど馬鹿だった頃の記憶が蘇る。
    「ここら辺、どうせ人来ないから大丈夫だよアズール」
    「そ、ういう問題じゃないだろ!」
     顎を押さえて顔を近づけてくるフロイドに、手を突っ張ろうと一瞬抵抗したが、結局押さえ込まれてフロイドの唇が唇に押し当てられるのを感じた。
     ――違う。押さえ込まれてなど……
     本当に抵抗すれば離すだろう。この二人はそういう奴らだ。
    「……っ、ん……」
     一時の気の迷いだと思い込んでいたこの数年の努力など、大した意味は無かったのか。
     アズールは角度を変えて深まる口づけを受け入れながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。

     暢気なスマホの着信音が流れ、フロイドはアズールから顔を離して、大きく息をついてから悪態をついた。
    「なあにジェイド」
    「ああ、良かった。アズールとは合流できたかと不安になって……思わず電話してしまいました」
     ふふふふ、と含み笑いが聞こえてくるスマホに、フロイドは思わず舌打ちをして
    「今から帰るから」
    「……おや、列車に遅れはなかったはずですから、寄り道をしなければそろそろ着くはずですが……」
    「……ジェイドさぁほんと偶に嫌なやつだよねぇ」
    「何のことでしょう」
     電話を切って、投げるように後部座席にスマホを放り投げ、フロイドは運転席に座り直した。
    「はーぁ。ジェイドが怒るから取り敢えず家に行くね」
    「……ええ」
     口を拭って、アズールは窓を開けて外の空気に頬を当てて冷やしながら、小さくため息をついた。

     
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    書いて満足
    後何も考えてない
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