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    もすけ

    もすけのポイピクです!

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    もすけ

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    昔エックスにてワンライに投稿したものです。既にエックス内では削除済み。大昔にイベントで販売した冊子(本に出来る時間はなかった…………)で載せたものになります。

    うさぎカフェに行ってみた        うさぎカフェに
               行ってみた
           
           
           
              ワンライお題:ウサギ、好物
              
     

    「爆豪、これ行くぞ」

     轟は携帯の画面を爆豪の目の前にずいと出した。
     反射的に見たそれに対し爆豪は眉間に深く皺を寄せる。
     そこにはウサギカフェ〇〇と言う字面と共にもふもふとしたウサギが数匹写真で載っていた。

    「なんで俺がこんなとこ行かなきゃなんねーんだよ」
    「俺が一緒に行きたいから、ダメか?」

     小首を傾げたまま轟は聞いた。
     恋人の可愛らしいお願いを叶えてはやりたい。とは言え、男二人でほぼ女性しか居ないであろう空間へ行くなんて、周りの目が気になりすぎる。
     しかも二人とも体育祭で顔が割れているときた。
     うーんと爆豪が悩んでいると、轟は呟くように
    「口田の部屋にいるウサギを見て一回触ってみたかったんだ」と一言。
     眉毛を下げ、そんなことを言われてしまっては

    「だーーー!!分かったよ、行ってやんよ!!」

     行かないなどと言えない爆豪であった。


     日曜日。午前十時。
     外出届けを学校に出して、電車に揺られ数駅。
     最寄駅から携帯の地図アプリを頼りに目的地へと向かった。
     十分程歩くとマンションの間にひっそりと佇むビルのニ階に、そのウサギカフェはあった。
     階段を登って轟がおずおずとドアを開けると、いらっしゃいませーと言う声と共に緩やかな音楽で出迎えられる。

    「何名様でしょうか?」

    「二人です」

    「ではこちらへどうぞ」

     轟を先頭に誘導された場所に向かうと、簡易的な仕切りをされたスペースに椅子二つと座布団二つ、そして机が置いてあった。
     轟は座布団へ、爆豪は椅子に座る。
     他にも客は数人居たが、スペースが区切られているからか周りを気にならずに済んでとりあえず爆豪の心配は杞憂に終わる。
     店員が机にあるメニューを置いて「当店は初めてでしょうか?」と二人に尋ねた。

    「はい、ウサギ自体触るのが初めてで」

    「ウサギちゃん触る機会ってあんまりないですよね、臆病な子もいますが人懐っこい子もいるんで大丈夫ですよ。当店では初回の方のご利用が一時間のみになりますので、今回は一匹を三十分ずつ交代してニ匹のウサギちゃんと触れ合って頂きます。まずどのウサギちゃんにするか、本の中からニ匹選んで頂けますか?決まりましたら近くにいるスタッフにお声掛け下さい」

     そう言い店員は二人の元を去った。
     轟は机にある『ウサギのスタッフ紹介』と言う本を手に取りページを捲る。

    「お。爆豪見ろ、すげぇモフモフのもいるぞ」

    「それはアンゴラウサギってんだ」

    「アンゴラ…?良く知ってんな」

    「ったりめーだ」

     ふんっと鼻を鳴らしながら得意げだ。確かにページの紹介文にアンゴラウサギと書いてある。
     それにしても数が多くてどの子にしようか、と轟が悩んでいると隣から「こいつ」と爆豪から指名が飛んできた。

    「お、この子がいいのか?」

    「おー。轟もはよ選べや」

    「分かった」

     数枚ページを捲ると、真っ赤な瞳のウサギが目に入る。
     ギラギラと燃えるような爆豪と同じ色に惹かれて「この子にする」と呟いた轟の横から、爆豪はそのページを覗いた。

    「こいつ、気性が荒く触れ合うのが難しいですって書いてあんぞ。いいんか?」

    「コイツが気に入っちまったからいい。じゃあ店員さん呼ぶぞ。あの、すみません」

     近くに居た店員さんに決まったニ匹を伝えると、アルコール消毒をして少し待つように言われ待つこと五分。
     轟の選んだウサギを抱えて店員がスペースにやってきた。

    「お待たせしました。こちらはネザーランドドワーフと言う種類の杏仁くんです。目のお色がルビーアイドホワイトと言う色になってます。杏仁くんは気性が荒く動き回りとてもパワフルなので、抱っこは難しいと思いますが気が向いたら撫でさせてくれるかもしれないので根気よく接してあげて下さい。ウサギはおでこから背中にかけて撫でられるのが好きで、お腹や足、尻尾や耳を掴むなどされると嫌がるのでご遠慮下さい」

    「分かりました」

     真っ白の毛に赤いまんまるな瞳、小柄な体躯で頭の上にはちょこんと小さな耳が乗っている。
     そんな杏仁くんは、店員さんの説明通りダダダと走り回って落ち着きがなかった。
     時折ぴたりと止まって鼻をヒクヒクと動かしてはまた走り回る。

    「爆豪、ウサギってこんなに動くんだな」

    「おー。元気だな」

     轟が触ろうとそっと手を伸ばすが、杏仁くんは後ろ足をダンっと鳴らし、音を立てて飛んでいった。

    「お、爆豪、今のなんだろな?」

    「あれは警戒してるか怒っとんだわ。ダンピングっつーんだと」

    「ダンピング?爆豪は何でも知ってるんだな」

     ふん。と爆豪はまた鼻を鳴らした。轟がウサギカフェに行きたいと言い出した時から、爆豪が実はこっそりウサギについて勉強していた事を轟は知らない。

    「轟、まず警戒されねぇようにテメェのことを杏仁に教えろや」

    「分かったやってみる」

     杏仁くんが止まり鼻をヒクヒクさせている時を見計らい、しっかりと赤い目を見つめながら轟は口を開いた。

    「さっきは怒らせちまったみたいでわりぃ。俺は轟焦凍」

    「ちげぇ!!」

     思わず椅子から立ち上がった爆豪に、轟は「お」と声を出す。

    「匂いだ!匂いを教えんだよ!」

    「おお、そうか。杏仁くん、俺の匂いは…なんだろな、井草か…?」

    「そうじゃねぇ!!!!」

     立ったまま再び叫んだ爆豪に通りかかった店員が「お客様、静かにお願いします…」と申し訳なさそうに言い、それを聞いた爆豪は言われた通り静かに椅子に座る。

    「だから、こうすんだよ!」

     爆豪は控えめなボリュームで杏仁くんの鼻先に手の甲を近づける。
     ふんふん、と鼻を動かした杏仁くんの頭にそのまま手の甲をスライドさせニ、三度その頭を撫でていく。

    「どうだ」

    「おぉ!爆豪すげぇな」

    「ったりめーだ」

    「俺もやってみる」

     爆豪のやった通りにしようとしたところで店員からの「お時間です」とアナウンスされそして杏仁くんは抱かれて奥へと行ってしまった。

    「触れなかった…」

    「次あんだろ」

    「そうだな…」

     しゅんとした轟を、見かねた爆豪が口を開く。

    「次の奴は人気ナンバーワンだからよ。ぜってー触れるだろ」

    「お、そうか」

     それにしてもこんなところまで一番にこだわるとは、彼らしいと言うか何というか。なんだか可愛いなと思って轟はふふと笑いを溢す。

    「何笑ってんだよ」

    「爆豪のことすげぇ好きだなって」

    「なっ…!?」

     突然の言葉に顔を赤くした爆豪は、轟から顔を背ける。そんなことをしているうちに店員さんは次のウサギを抱えてやってきた。

    「お待たせ致しました、ミニレッキスと言う種類のきなこちゃんです。この子は人懐こくて撫でられるのが大好きです。ミニレッキスは短毛でビロードのような光沢が美しいのが特徴なので、触り心地もすごく良いですしたくさん撫でてあげて下さい」

     ストン、と床にきなこちゃんが降ろされる。
     茶色い毛に黒っぽいブラウンの瞳。少し大きめの体躯であまり動くことなくのったりとした印象だった。
     先ほど爆豪がやっていたように、轟は手の甲をきなこちゃんの鼻先に近付ける。
     すると、そこにすっとすり寄ってきた。
     そのまま恐る恐る手のひらでおでこに触れ背中まで撫でると、きなこちゃんは気持ちよさそうに目を瞑った。

    「爆豪!」

    「おお、良かったな」

    「すげぇぞ!なんか、いい絨毯みたいだ!」

    「どんな例えだよ」

     ふっと笑った爆豪もきなこちゃんに触れると、成る程轟の言っていることも分かるな、と爆豪は思った。

    「おら、轟。もっと触ってやれや」

    「おお」

     先ほどと同じようにおでこから背中にかけてゆっくり撫でるとまた目を瞑ったきなこちゃん。
     撫でているうちに身体がぐでんと地面へと広がった。それを見て轟は目を丸くさせる。

    「爆豪、ウサギ、溶けてるぞ!」

    「なんだそりゃ」

     くつくつと笑いながら、ウサギを撫でている轟に気付かれないように爆豪はそっと携帯のカメラ機能を起動した。
     カシャ、と音が鳴ってまんまる瞳の轟が爆豪を見る。

    「お。ウサギ撮ったのか?」

    「おー。可愛く撮れたぞ」

    「爆豪も可愛いって思う感情があったのか…?」

    「おいこら、喧嘩売ってんのか」

     毎日思ってんわ、ボソッとそう呟いた言葉は轟の耳には届かなかった。

     -----

     と、言うのが先日の話。
     爆豪は談話室で切島、上鳴、瀬呂と言ういつものメンバーで過ごしていた。
     他の三人が会話を弾ませている中、一人爆豪だけが穏やかな顔で携帯画面を見つめており、それに気付いた切島が「爆豪何見てんだ」と声をかける。

    「あー、そうだな。俺の好きなもん」

    「爆豪の好きなもんか、辛ぇもんとか?」

    「そんなとこだ」

     人に見せるつもりは一切ない。こんな表情の轟を見ていいのは俺だけだ。と、爆豪は轟とウサギが一緒に写った写真を誰にも見られないように優しい表情で見つめた。
     
     
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