どこまで行こうか夜の果て ワンドロ:どこまで行こうか
夜の果て
※エックス 未掲載分
「なぁ爆豪」
「あ?」
さぁベッドに入って寝ようって時に、轟はとびきり甘い声で恋人に声をかける。
「星を見に行かないか?」
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車を飛ばしておよそ三十分。一番近い山の頂上へ二人はやってきた。
車から外へ出ると、冷たい風が頬を撫でて吐いた息が白くなる。
「クッッッソさみぃ」
「爆豪は寒いの苦手だったな。ほら」
そう言いながら轟は甲斐甲斐しく爆豪にマフラーやら耳当てやらでもこもこにして、少し満足気に笑った。
「ふ。可愛くなったぞ」
「うっせー!可愛くねーわ!!」
と、言う割には外さないらしい。モコモコのまま爆豪は轟の手を引いて近くの草原へ腰を降ろす。
「[#「」は縦中横]〜、はよ満足しやがれ」
「お。頑張る」
轟は暫く座っていたが、上を向くのに疲れたのか静かにその場に寝転んだ。
爆豪も同じように横になる。
「風呂入ったのにな」
「そう言うなら寝転ぶんじゃねぇ」
二人の真上では星がぴかぴかと輝いており、瞬きをするとより一層綺麗に見える気がした。
轟は野原を背にしたまま、右手を空へと向け指さす。
「あれがベテルギウス」
「知ってンわ、冬の大三角だろ。あっちがシリウスで、こっちがプロキオン」
「おお、よく知ってんな」
「常識だわ」
「さっき読んでた本で冬の大三角ってのがあるって書いてあった。そしたらどうしても見たくなったんだ。それに、爆豪と一緒ならもっと綺麗だろうと思って」
言いながら冬の大三角を指でなぞっていく。
ゆっくりと三角形が完成した時、近くで星が流れて消える。
「お!爆豪!見たか?流れ星だ!」
「一緒に空見とんだろーが、見えたわ」
「すげーな、流れ星観れるとは思わなかった。
なぁ爆豪」
「……な」
なんだ、と爆豪は言ったつもりだった。何故つもりになってしまったのかと言うと、轟が爆豪の手を引き、立ち上がらせたからだ。
ぐらり、と爆豪の足元が揺れて轟にしがみつく。轟は涼しい顔で二人の足元に氷結を使い、柱のように縦に伸ばしていっているところだった。揺れの正体はこれだったみたいだ。
氷はどんどん上へ上へと伸びていく。
「おい、轟!」
「爆豪、俺たちどこまで空に近づけると思う?」
「知らねぇ、っくしゅ」
「あ、わりぃ」
氷が上に伸びるのがぴたりと止まり、ワンルーム程の広さを作った。その真ん中で二人、手を繋いでいる。
「寒かったよな」
「ったりめぇだろうが…」
爆豪は歯をガチガチと言わせている。
ずいぶん高いところまできてしまった、少し酸素も薄く凍えるような寒さだ。
多少寒さには耐性のある轟も白い肌をより一層白くさせていた。
「お前と誰もいない世界へ行ってみてぇ」
「そしたらヒーローできなくなるぞ、いいんか?」
「お前と二人だったら、それも悪くねぇかもな」
どこまで本気か分からない轟の顔を見つめて、爆豪はふっと笑みを溢した。
「轟」
「なんっ…んっ…」
爆豪が轟の唇を奪う。寒さのせいかあまり感覚はない。触れるだけのキスが終わり、お互いの顔が離れていく。
「おら、さっさと帰んぞ。帰って、もっぺん風呂入って、ベッド入ったら…」
俺ら二人の世界だろーが。と、轟は耳元でそう囁かれて顔を真っ赤に染めた。言った本人はと言うと「ははっ茹で蛸みてぇ」とケラケラ笑っていた。
氷を二人で溶かして、車を飛ばして三十分。
帰路に着いた二人は風呂に入ってベッドに横になった。なんとなく、触れ合ったまま眠りたかった轟が口を開くよりも先に爆豪が轟を抱きしめて、そのまま二人は夢の世界へと旅立った