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    SOUYA.(シメジ)

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    SOUYA.(シメジ)

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    📕彼春寄りかもしれん
    美冬のお話は毎度切なくて温かい。

    ##彼春
    ##彼ただ

    ―――ねえ、知ってますか十又さん。俺結構寂しがり屋なんです。強がりなんです。弱虫なんです。……知ってますよね、それを、情けないと一喝して俺を立ち上がらせてくれたのは貴方ですもんね。
    なのに、立ち上がった俺の隣に貴方は居なくて俺、寂しいんです。強がるんです…弱くなるんです。

    強く、なったはずなのに。刀を握る手はもう震えていないはずなのに。
    貴方が隣に居ないだけで。とても冷たい風が吹き抜けて。あの時―――。
    走らなければ良かった、なんて。誰かが聞いていたら怒られそうな事をよく考えます。俺も戦っていたら結果は、未来は、変わっていたでしょうか。

    バチン、と。強めに額を小突かれて我に返った。
    「……祈梅さん……」
    「辛気臭い顔、止せ。酒が不味くなる」
    そう言って猪口に入った酒を一気に飲み干した彼は何考えてやがる、だなんて心配する。昔より丸く、優しくなった彼にそれでも俺は何でもないですよ、と笑った。

    なんでもないのだ。昔の事を、思い出すのはよくある事で。昔の、辛い事を思い出すのもよくある事。それを笑い話に出来るまで表に出すなと言ったのはあの黒猫だ。だから、そんな大昔の誰かさんの言葉に従って。少し大人ぶっても。俺より大人なこの人には分かってしまうらしい。

    「お前が飲みたいっつったんだろィ」
    「……飲みますよ」
    「ンな顔で飲まれちまう酒も可哀想だなァ」
    「………………」
    ハァ、と酒臭い息を吐いた祈梅さんは窓の枠に凭れ掛かる。落ちますよ、と注意してもどこ吹く風だ。…機嫌が良いらしい。久々に上物の酒が手に入ったからだろうか。

    「お前が何考えてンのかは大体分かる」
    「…………」
    「俺ァ、こんな事エラソーに言えるタマじゃねェが…」
    と仰け反った祈梅さんの顔を月が照らす。その口角がくいっと上がった。
    「ソイツが望んだ死なら受け入れろィ」
    自虐を含んだ笑みは酒と共に飲まれて見えなくなった。

    彼は俺の過去を知っているし、俺だって彼の過去を知っている。殺された誰かも殺した誰かも。傷ついた事も傷つけた事も。その時の感情も劣情も。
    「……分かってますよ。…何度も、何度も。自分に言い聞かせてきましたから……よく、よく…分かってます」
    ただ、それ飲み込めきれないだけなのだ。

    別れも済ませた。再会も約束した。これ以上悲しむ事なんか何一つ無いはずなのに。……涙すら、もう出てこないほど吹っ切れているはずなのに。
    「勘違いすンな、受け入れろっつーだけで忘れろなんて言ってねェ。悲しんでいい。泣いていい。…ただ、ソイツが望んだ死だけは否定すンな」

    この人は、大人だなぁと時々どうしようもないほど思い知らされる。馬鹿にしてる訳でも見くびっている訳でもないのに。時折、その『差』がひどく恐ろしいものに見えてしまいそうになるのだ。
    すごいなぁ、なんて月並みの事を思いながら俺は酒を呷る。すごい、敵わない…そういう所は血筋かな…。

    多分、あの人も同じような事を言いそうだ。顔も喋りも全然違うのに、こういう時は兄弟だなぁ、と感心してしまうのだ。
    「……オイ、今変な事考えたろィ」
    「いいえ、特に何も」
    「おい美冬、こっち見ろ」
    「あ、ツマミが少なくなってきましたね、追加頼みます?」
    「オイ……っ!」

    ―――なんて。言ったら絶対に機嫌を損ねるだろうから言えそうもない。言うつもりもないけれど。
    ああ。今日は。あの黒猫の為に飲み明かそう……。

    End
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