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    あかり

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    ※カブミス
    転移術の暴走により隊長を介護することになったかぶのはなし

    ##カブミス

    カブミス事件簿24時「転移術の暴走?」
    「そ。お前、メリニのダンジョンで隊長の転移術抑えて絞め落としたろ? 暴走が収まるまで抑えといてくんね?」
    「確かに対処法はわかりますけど、誰でも出来ますよ」
    「それはトールマンだからだろ? エルフの力じゃ隊長止めるのは無理! つーことで任せた!」
     フレキは断る暇もなく走り去った。
     残されたのは両手に袋を被せられた状態で手首を拘束されたミスルンだけである。
     兎にも角にも現状を把握せねばならない。カブルーはため息をついてミスルンへ問いを投げた。
    「経緯を説明してもらえますか?」
    「破棄されたダンジョン内で正体不明の物質に接触した。結果魔力が高まり自意識に反して転移術が発動するようになった」
    「その物質はどうなったんです?」
    「私に接触したのち消失した。吸収したと言ったほうが正しいか」
    「何らかの魔力の塊のようなものだったのでしょうか。まあ、現物がなければ何もわからずじまいということですね」
    「そうなる」
    「転移術の暴走はどの程度ですか?」
    「触れたものが意識しないまま転移する。どこに飛ぶかはわからない」
    「それは……かなり危険ですね。ミスルンさんの転移術は非常に強力ですから、対処が必要というのは確かなんですが……俺ができる対処と言えば接触面を多くするくらいで」
    「それでいい」
    「……四六時中くっついていろと?」
    「そうなる」
    「一応仕事があったりするんですが」
    「縄か何かで縛っておけばいい。あとはくっついておく」
    「国家の機密も扱うんですけど」
    「耳と目を塞ぐ魔術をかければいい」
    「…………わかりました。このままにはしておけませんし、民間人に被害者が出たら大事ですから。縄は痛そうなので、シーツを破って縛りましょう。ダンジョン内でなければある程度の自活はできるんですよね?」
    「うん」
    「なら、報告を必ずしてください。特に食事……は一緒に取るとして、排泄ですね。この際恥は捨てます。俺の排泄にも付き合ってもらうしかありません。不快でしょうが我慢してください」
    「うん。平気だ」
    「もうひとつ。暴走している状態で、他の魔術の行使は行えるのですか?」
    「行える。ただ使用時の出力が常より大きい」
    「ふむ……考える限り魔力量が単純に体内で増えてコントロールできなくなっている……と考えるのが妥当でしょうか……」
    「わからない」
    「とにかく詳しく調べてもらいましょう。頼りになる顧問魔術師もいますから」

     とにかくこの体勢は視線を集める。
     ミスルンはカブルーの前に前に固定されており、ちょうど赤ん坊を抱きかかえる母親のような姿だった。幸いなことにミスルンは表情も変えず大人しく歩いた。
     城を歩くと誰もがギョッとした目でカブルーを見て、忙しさについに狂ったのかと言わんばかりだった。
     一人ひとりに事情を話すわけにもいかないが、とりあえず王とヤアドにだけは事情を説明する必要がある。
     玉座の間にいくとちょうどよく二人は話をしていた。他にも大臣が何人かいて、やはり皆一様にカブルーがエルフを抱きかかえていることに驚愕の表情を浮かべている。 
    「か、カブルーそれってミスルンさんだよな……?」
    「はい。破棄されたダンジョン内で活動中に、内容不明の物体に接触した結果転移術の暴走が発生するようになったとの報告を受けました。暴走は自身でコントロールできず、どこへ転移するかわからない危険なものです。国民への安全性を確保するためこうして対応を行っています」
    「それが対応なのか……?」
    「接触面が多いと転移術は使用することができません。ミスルンさんの従者であるフレキに対応を希望されたため国の役人として承諾しました。仕事は機密内容を扱うため、ミスルンさん本人から耳、目をふさぐ魔術の行使許可を得ています」
    「いや、でも、その状態で仕事は無理じゃないか……? 別の人間に対応を任せるとか」
    「人に任せたい気持ちは山々なのですが、ミスルンさんは特殊な体質を持っているので、対応方法がわかる人間でないと衰弱などの可能性があり危険です。転移術の暴走についても同様に転移術への知識が必要になります。俺であればそのどちらもクリアできます」
    「石とか、木にくくりつけるとか……」
    「西方エルフの貴族にそんなことをすれば戦争になりますよ!」
     ヤアドが額に青筋を浮かべて怒る。
    「だよな……。カブルーは頼りになるし任せたいんだけど」
    「光栄です」
    「でもそれがいつまで続くかが問題なんだよな……?」
    「これは予想になりますが、ミスルンさんが接触した物体は一時的に魔力量を高めるものだったのではないかと。そのあたりは宮廷魔術師の見解を聞きたいと考えています」
    「では早速宮廷魔術師を呼んでこさせましょう」
     ヤアドが近くにいた兵士へ命令を下す。
     何かわかればいいが、機能を停止したとはいえ迷宮はいまだイレギュラーの多い場所だ。
    「うーん、なるほど……ヤアド、カブルーに何日か休みを与えることはできるだろうか?」
    「え?」
    「そうですねえ……カブルーに任せている仕事は多いですが、今の状況では仕事にならないでしょう。火薬の塊のようなものを抱えたまま宮廷にいること自体が危険だと愚申いたします」
    「そうだな。というわけだカブルー。宮廷魔術師からの調査を一通り受けたら、君は何日かミスルンさんの対応にあたってくれないか」
     そういうわけで、宮廷魔術師にひととおり検査を受けたカブルーは、いきなり仕事の山から解放されヤアドが手配した郊外の一軒家へ住まわされることになった。

    「ふってわいた休暇……とよんでいいんたろうか……」
    「お前は忙しそうにしていたからな。王も気を使ったのではないか」
    「そうですかね……」
     カブルーはミスルンを腕に抱いたまま話す。
     郊外の家は手入れされておりそう悪くないものだった。食料や生活に必要なものは城から使用人が運んできてくれる。
     幽閉とも、監禁ともいえる措置かもしれないが特段外に出て歩きまわることは禁止されていない。そもそも周囲に人が住んでいないので、危険もそうないからだ。こんなに自由な囚人もいまい。
    「あなたとこうして何日も……何日になるかはわかりませんが、過ごすのは迷宮ぶりですね」
    「うん」
    「あの時は必死で、ゆっくり話す機会もなかったですし、話でもしましょうか」
    「私とはなしても愉快な話題はでてこない」
    「いいんですよ。俺は人が好きなので、どんなことでもいいんです。とりとめのないと思うことでも自分では意味の感じられないことでも」
    「うん。ならば、いい」
    「調査の方はどうです?」
    「悪魔は無限とつながる限りまた生まれるかもしれない。その前兆がないか毎日見ている。他にはモンスターの調査に。最近はセンシと破棄されたダンジョンへも行く」
    「へえ。センシとですか。意外です」
    「彼は現地での食材調達に長けている。ダンジョン内の暮らしが長いおかげか排泄物などの衛生的に問題があるものの処理もかってでる」
    「現地での食材調達って……モンスター食ですか……?」
    「そうだ。センシが調理すると一般的な食材とそうかわらず食することができる。物資補給が現地で行えるのは助かる」
    「…………あまりミスルンさんに食べてほしくはないんですが」
    「なぜ」
    「……その人の血肉が食で作られるのなら、人体組織にモンスターが入り込むような感覚というか……」
    「消化され、排泄物となるだけの食材にそこまで人間を変える力はない」
    「ですよね……」
    「お前に」
     ミスルンは一旦言葉を区切って考える素振りを見せた。
    「お前に、感謝を伝えようと、ずっと、思っていた」
    「なんのですか?」
    「あの宴の際に……私の、吐き出したものを、受け止めてくれた。慰みを与え、再起の機会をくれた。だからずっと、言わなくてはと、思っていた」
    「俺は俺の思うことを言っただけです。立ち上がったのはあなたの力だ」
    「そうか……」
     ミスルンは自身を抱くカブルーの手にそっと手を重ねた。その仕草に、カブルーは思わず心拍数の上がるのを抑えきれなかった。
    「お前には、特定の女は、いるか」
    「……いいえ」
    「私は……中年の男で、お前から見ても、醜いだろう。欲のない身で、不自由もかけるだろう」
    「いえ、あなたは……十分魅了的です。俺は、そう思います」
    「私を、抱けるか」
    「……ええ、きっと世界の誰より優しく、あなたを抱けるでしょう」
    「ならば、このひとときだけでも、そうしてくれないか」
     抱きかかえられた体勢から首を伸ばして振り返り、上目遣いに自身を見つめるミスルンに、カブルーはそっとキスをした。かさついた皮膚を舐め取るように。

    「おー! 解決したか! ヨカッタヨカッタ。これで安心だわ」
    「まあ、よかったですけど……なんだろうこの腹立たしさは……」
    「ありがとなートールマン! 隊長の面倒見てもらって!」
    「はあ……まあ、何事も起こらなくて幸いでしたよ」
    「うんうん。街を守るのは役人の仕事だしなー。つわけで引き取って帰るわ。じゃあなー」
    「あ、」
    「なんだよ? なにかあんのか?」
    「いえ、なんでもないです。ミスルンさんも、それでは」
    「うん。協力感謝する。後ほど礼を届けさせる」
    「いえ、フレキの言うように街を守るのは役人の仕事、ですから」
    「…………また」
    「はい」
    「ここへ来てもいいか」
    「っ! 勿論です。いつでも、来てください!それと、近々食事でも」
    「おいトールマン、うちの隊長ナンパすんなよ」
    「ナンパではありません。異国間での親交を深めるだけです」
    「たいちょー! こーいう男は他にもわんさか女いるんで、ひっかかったらダメすよー?」
    「そうなのか」
    「……特定の相手はできました。そう思っています」
    「そうか……そう、思うか」
    「はーーーあっ! やってらんね。先帰りまーす。トールマン! お前隊長送ってこいよ!」
     フレキはふたりの間に流れる色めいた空気を察してさっさと出ていってしまった。
    「あなたと結ばれたとそう思っても構いませんか」
    「かまわない」
    「これからも、会って、食事をともにし、あなたを抱いても、かまいませんか」
    「私も。そうしたい、のだと思う」
     これがミスルンの、はじめての欲だった。
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