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    あかり

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    あかり

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    ※カブミス
    大学生かぶ×軍の特殊部隊隊長みす
    映画みてだらだらいちゃいちゃする話

    ##カブミス

    あなたのすべてになってみたい ソファに二人並んで座っている。恋人たちの距離は近い。
     南の方の薄いビールと、ピザと、ポップコーンが机に置かれ、二人はサブスクライブの映像配信サービスを開いている。
    「俺ホラーは苦手で」
    「そうなのか」
    「苦手って言っても、怖いというよりは、憤りを感じてしまって。フィクションだとしてもただ人が抗えない存在に無為に殺されるだけっていうのが、どうも駄目みたいです」
    「昔の私は、好んで見ていた」
    「そうなんですか」
    「高尚ぶった難解そうな作品を見栄のために何本も見て、仲間内で映画を批評した。褒め讃えられることを求めていた。高尚そうなだけで中身のない作品を見るのは苦痛だったから、人が紙くずのように死ぬだけの映画を観てウサをはらしていた」
     なんでもないことのように言うミスルンだったが、カブルーはそんな生活が毎日続く苦痛を考えた。今のミスルンはひどく不自由だが、少なくともそういった苦悩からは逃れられたと思う。
    「今は、お前と見るならなんでもいい」
     結局、目についた動物の映画にした。
     恋愛映画は当たり外れがあるうえにベタすぎるし、ミステリーはあらかた見ている。アニメ映画はミスルンの年齢的に範疇外だろう。コメディは笑いのツボの違う二人では冷めた空気になりそうだ。結局選ばれたのは北の国で働く犬たちのドキュメンタリー番組だった。流し見していてもさして問題もない。
     最初はワ島の伝統的な闘技であるスモウをテーマにした作品を見せようと思ったのだが、ミスルンはうまく理解できないようだった。
    「太ったオークやオーガが局部だけを隠して何をしようというんだ」
    「彼らはリキシと呼ばれる競技者ですよ。あれはマワシと呼ばれる専用の衣装です。中には200kgを超えるトールマンの選手もいます。彼らはスモウと呼ばれるスポーツで優勝するため過酷な練習を送っているんです」
    「太ったもの同士でぶつかりあう競技とはなんだ」
     といったふうで、あまり理解してもらえそうになかったのだ。カブルーはこの作品が気に入って3回は見た。だが残念ながらミスルンにその魅力を伝えることは難しそうだった。
     
     銀色の毛並みの小さな狼のような犬がそりを引っ張って走っている。
     数は八頭ほどだ。荷と人を乗せて深い雪原の中を走って行く。
    「犬はいいですね。人間に忠実で、よく働く。種族を超えた信頼関係がある」
    「犬が好きか?」
    「いえ、特段。見れば愛らしいとは思いますが、特別に愛情を持っているわけではありません」
    「では他の動物は?」
    「猫は好きかもしれません。彼らは自由に振る舞い、人を愛することもするけれど、警戒心が強いところもあって愛玩するのにちょうどよさそうだ」
    「それなら、ここに撫で心地のいいのがいる」
     ミスルンは笑って隣のカブルーに覆いかぶさると、巻き毛を撫でた。実際カブルーの髪の毛は猫の毛のように柔らかでふわふわとしている。
    「あなただって毛並みの良い猫のようです」
     髪を耳にかけると、切り落とされた耳が目に入る。去勢済みの猫は印をつけるために耳に切れ込みを入れるんだと聞いた。
     灰色の毛並み、黒い瞳の猫。耳を動かして俺のものを舐めて、メス猫みたいに鳴く。
     首輪をかけて飼ってみたい、とは思わない。趣味の悪い妄想だ。
     けれど時にはあなたの主人になってみたいし、あなたの奴隷にもなってみたい。
     そんな関係を楽しみたい。
    「俺に首輪をかけて飼ってみたい?」
    「私にしたいのではないのか」
    「いいえ? あなたは首輪をかけずとも甘い声で鳴いて、俺にすり寄って、舐めて、高い声をあげるでしょう?」
    「性根の悪い。お前だって私に噛みついて、獣のように、腰をふるくせに」
    「まったくです。悪い男につかまりましたね」
    「お前の善性と悪性の比重は絶えず揺れる天秤のようだ」
    「自分では真面目でごく一般的な男子大学生のつもりですが」
    「自覚のないなら尚更たちの悪い」
     俺はサイコパスだと思われているのだろうか? 人を自身の欲のために利用してなんとも思わないような? そんなことはない。人並みにある良心と、人並みにある打算は良心が勝っていることの方が多いはずだし、よしんば打算的な考えに傾いたとしてもほとんど等しいくらいまでしか傾かないはずだ。少なくとも邪悪だと呼ばれるほどのものではない。
    「ふつうの男子大学生ですよ、俺は」
    「150も年上のエルフ相手に欲情して、常に事件の匂いを探し、若い命を危険に晒すお前が?」
     そうだな。それはその通り。俺は常に事件を探している。そのためにこの人と行動を共にし、悪魔の影を追い続けている。
    「少し特殊なだけどふつうの男子大学生です」
    「お前も私も、ふつうの範疇から外れている」
    「ふつうの基準なんてものは都合のいいように書き換えてしまえばいいんです。俺は大学でも優等生だし、友達もいて、社会の規範から外れてはいない。そこに少しスパイスめいたものがあるだけです。あなただってそうだ。立派な軍の肩書があり、市民のために戦うという大義名分がある。そうでしょう?」
    「詭弁だろうそれは」
    「詭弁も使いようです。たとえば興味のない映画に退屈したから恋人とセックスにもつれこむだとか」
    「そうすることとしよう」
     画面では犬が尻尾を振って人間に飛びついている。ソリ引きの褒賞を人間から貰えるから。
     上に乗っていた恋人が口づけをしてきたので、口内を荒らして唾液を飲み干した。
     さして広くないソファに押し倒して、カブルーは青色の瞳を爛々と輝かせた。ミスルンの瞳も、時折銀色に輝いて、猫のように目をすがめて恋人を受け入れた。
     二人は理性という服を脱ぎ捨て、獣の行為に没頭した。
     休日は過ぎていき、自動再生を続けていたサブスクライブサービスの映像がまだ見ていますか? という表示とともに数秒経って停止した。
     後には結露の跡の残るぬるいビールと、乾いたピザが机の上に残されるばかりだった。
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