はやく人間になりたい!掌編AIノベリスト
モノ子は激怒していた。黒州が買い物にいこうと言い出したにも関わらず遅刻したうえ連絡もつかないからだ。
「あのやろう、どういうつもりだ」
集合場所のフードコートにてハンバーガーをむしゃむしゃとむさぼりながら黒州を待つ。だが五分たっても十分たっても現れない。
「くそっ!」
バンッ! テーブルを叩きつける。そのときだった。
「きゃああああっ!!」
女性の悲鳴が聞こえてきた。どうやらこのショッピングモールで事件が起こったらしい。
「なんだ?」
気になったモノ子はその悲鳴の方めがけて走り出した。もしかしたら黒州が何かしでかしたのかもしれない。
そんな不安を抱きつつ彼女は声を頼りに向かう。するとそこには……。
「え? なんだよこれ」
化け物が暴れていた。緑色の肌をした巨人のような体躯。長い腕には鋭い爪が備わっている。身長はおよそ三メートルだろうか。
そしてもう一人。黒い学生服を着た少年が化け物の攻撃をひらりひらりとかわしながら説得を行っていた。
「ねえやめましょうよ~~。チカラまかせに暴れたって疲れるだけですって~~。ね? 話し合おうよ。僕たちはわかりあえるはずだから」
「ウガアアッ!」
まるで聞く耳を持たない怪物はそのまま拳を振り上げた。
「まずい!」
このままでは逃げ遅れた人たちにも被害が出てしまうだろう。そう判断したモノ子は近くの柱に隠れて自らの肉体を変化させる。
「おいっ、こっちを見ろ化け物!」
大声で叫ぶと同時に赤いオーラをまとった右手を振るう。すると衝撃波が生まれ、化け物に直撃する。
「グガッ!?」
吹き飛ばされる緑の化物。そのまま地面に叩きつけられ動かなくなった。
「ふう……なんとかなったか……」
そして黒州に向き直る。彼は無傷でヘラヘラとふざけたように微笑んでいた。
「いや~~無事でなによりなにより~~。いかんせん僕じゃあチカラがでなくてね」
「お前なぁ……」
モノ子は呆れた表情を浮かべるもすぐに怒りの形相へと変わる。
「それよりお前のせいで人が怪我するかもしれなかったんだぞ! わかってんのか!?」
「ああ大丈夫だよ。そこは気をつかったし。それにほら見てごらん。化物だって血の一滴すら流れていない」
確かに彼の言うとおり、倒れた化け物はピクピクと痙攣しているものの外傷は一切ないようだ。
「どういうことだ?」
「そりゃまあ化物だしねぇ。僕らと同じように回復力も高いんじゃないかな?」
「なるほど……」
納得できるようなできないような話ではあるが、なっている以上理解せざるをえない。
「にしても買い物できなさそうだねえ」
のんびりと黒州が告げる。鏡やカメラにうつらない種族とはいえ人目につくのはよくない。
「お前がとっととこなかったせいだろ!」
「はっはっは。だからさっき謝ったじゃないか」
「ちっ」
舌打ちをするモノ子。だがこれ以上ここで言い争っていても仕方がないと判断し、二人はその場を離れることにした。
「それじゃまた学校でね」
「うるさいバカ!」
こうしてモノ子と黒州は別れた。その後。二人が出会ったフードコートにて一人の少女が倒れているのが発見された。意識はなかったが呼吸はしており脈も安定していたことから化物に襲われていたのではないかとされた。