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    skrk5

    気まま気まぐれ雑食性ですので地雷は自分でよけていって。幻水坊ちゃんはだいたい右側、ルク坊とトラントリオおいしい。 ※ do not use/repost my art※

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    skrk5

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    王様エンドのWリー+ルックの尻切れ短文。じゅうすうねんまえ…(時の流れ…)

     湖面を滑った湿り気を帯びた風が、外の新鮮な空気を取り入れるために開け放った窓から吹き付ける。
     政務の為にしつらえられた意匠を凝らした重厚な机に、乱雑に積み上げた報告書が吹き飛ばされないよう、女官たちが気を使って置いた重石の存在は忘れていない。けれど、つい条件反射であわてて立ち上がる。
     紙束の山を両手で押さえた少年王は、ふいの風で舞い上がった一通の手紙に気づいた。

     窓際の机から、未だに自分には不相応だと感じる豪社な執務室正面。観音開きの大扉を開けて(正確に表現するなら、扉を開いたのは外に控えていた衛兵だったが)入ってきた人物がその右手で捉える様を見届けると、めいいっぱい見開いた目を細め、その人物の来訪が唐突であるのはいつものことだとすぐに思い直して笑顔をつくる。
    「今回もまた急な……お茶くらい準備させてくださいよ」
    「いただくよ。ところでこれ、ルックから……?」
     深緑の外套を片手に首を傾げながら捉えた手紙をしげしげとみつめているティルに、リオウも首を傾けて
    「いや、それはレックナート様から頂いたものじゃなかったかな」
    というので、一瞬目を見開いた後小さく笑いをこぼしたティルは、
    「なるほど、レックナート様の名代というわけか」
     くくく、と抑えきれない笑いをなんとか押し込めようと必死になった。リオウは訝しげな表情のままその横を通り過ぎると、茶の用意を頼む為に扉の外に声をかけようとして、入室の許可を求めるノックに勢いを殺された。
    「陛下、お茶の御用意が整いまして御座います」
    「もう?」
    「はい?」
     馴染みのある女官の声がそう告げる。いくらなんでも以心伝心すぎるだろうと驚くも、あわてて扉を開けば恐縮して頭を下げた衛兵と、苦笑気味の女官を見つけて疑問符を頭上に飛ばした。
    「僕は誰かにお茶を頼んでいたっけ?」
    「いくらご多忙な陛下といえど、そう物忘れが激しくていらっしゃるとは存じ上げませんでした。わたくしは、陛下からは仰せつかっておりませんよ」
     口元に優雅な笑みを浮かべたまま頭を下げた女官は盆にのせた茶器を音も立てず見事な身のこなしで来客用の背の低い机の上に整えると、さっさと退出してしまう。
     注がれたばかりの茶を片手に、ちゃっかり腰かけてくつろぎ始めていたティルは、扉の前で固まったまま動かないリオウの背中に向けて声をかけた。
    「相変わらずだね、シュウ殿は。手土産に城下で買った菓子を持っては来たけど、早速出されるとは思わなかったな」
    「いつも僕には持ってきてくれないよねぇ、お菓子!シュウにあげてたの?」
    「……と、羨まれたから止めてくれと。先ほど、嫌な顔をされたばかりだよ」
     今度は君に直接渡すね。
     意外に甘党ということを最近になって知った軍師殿の、しかめっ面を思い出して苦笑する様子に、納得いかない、というような表情をつくったリオウは、
    「自分で買ったって言ってたのに、シュウのヤツ……!」
     食べ物に対する執着は、庶民だった頃の抜けきらない癖なのかどうなのかはともかく、窓の外に仇敵でも見つけたかのごとく、鋭い目線で明後日の方向を睨み付けた。
     幼子同然の反応が可笑しかったのか、笑い続けているティルに視線を移して、頬を膨らませたまま
    「どうも僕をないがしろにするよね、二人してさ」
     不服そうに呟いた。笑みを抑えきれないまま、ティルが続く。
    「「さ・て、み・も・の・だ。き・み・が・お・う・さ・ま・だ・な・ん・て、と・ん・だ・お・わ・ら・い・ぐ・さ・だ・ね」……だってさ」
    「は?」
    「行の頭にある文字だけ、繋げてごらん」
     噛み殺したような笑いを語尾にくっつけて、すいっと優雅な動きで空を切り手紙を差し出される。仕方なしにそれを取り、広げると、一度読んだ手紙の内容をもう一度確認した。
     言われた通り、文章の頭文字を追いかけていたリオウの眉が、だんだんとつり上がっていく様子に我慢しきれず噴出したティル。それには目もくれず、手紙から勢いよく視線を外すと、
    「あんの根性悪……!言うに事欠いて、これは無いんじゃないの!?」
     窓の外に向けて叫んだ。
    「簡単な言葉遊びにも気づけないなんて、君の浅学が重臣連中に嘆かれるのも当然だよね。『少年王』も外見と中身が見たまんまじゃあ、どうしようもない」
    「ルック、言葉が過ぎるぞ」
     いつの間にか。本当にいつの間にか、ティルの向かいに陣取って、茶を飲み菓子を食んで寛ぐ風使い。
     真顔で窘めるティルを無視して素知らぬ顔のまま、口の中にある菓子を飲み下し、
    「この茶菓子は悪くないね」
     などとのたまった。
     開いた口が塞がらないとは正にこの事!と、ルックを指さしながら二の句も告げず、腕を上下させて驚きと怒りをどこにぶつければいいのかの判断しかねたリオウは、
    「それ、僕のお茶とお菓子だぞ!ルック!!」
     抜けきらない昔の癖で、開口一番に自分の取り分を勝手に横取りされたことへの抗議を叫んだ。
    「リオウで遊ぶと、後でシュウ殿から報復があるよ」
     口元を笑みのカタチにするので、あまり危機感の無い警告を発するティルは、何処から取り出したのか自分たちが食べているものと同じ菓子をリオウに差し出して、苦笑。
    「お茶は、僕が淹れ直したので許してもらえる?」
     首を傾げたティルとは逆方向に首を曲げるリオウは、
    「許すも何も、僕が怒ってるのはルックに対してですから。お茶はいただきたいです!ティルさんの淹れるお茶、好きです」
     そう返すと、鋭い目線でルックを睨み、憮然とした表情を向けた。
    「……食べ物の恨みは怖いんだぞ、ルック。さっき、風で手紙を飛ばしたのもルックの仕業だろ。覚えてろよ!」
    「覚えておくよ。少なくとも、君よりは優秀な記憶力だからね」
     事もなげに切り返したルックは、口元だけの笑みを浮かべて
    「寧ろ、覚えておくだけでいいの?――ああ、それよりもこのお茶の銘柄教えてよ。結構美味しい」
     などと言うものだから、苦笑気味に外野にまわっていたこの場では最年長(といっても、三人の年齢差はそれぞれ一年違いで、外見には逆転現象が起こっている)のティルが両手で制止する。
    「二人とも大人げないな、いい加減にしないとお茶が冷める」
     至極まっとうな意見だった。けれど、その声も聞かずに足取りも荒く詰め寄った。
    「この城の茶園で育てたお茶だよ。お褒め頂き光栄だねぇ、元魔法兵団長殿」
     悠々とふんぞり返ってお茶を飲んでいたルックの、顔面直ぐ前でにっこりと微笑んだリオウは更に続ける。
    「序に僕の菜園で採れた野菜も出そうか?どうせなら持って帰るといい。僕の畑の野菜は、どんな腕が悪くて味覚音痴な人が料理しても、美味しいまま食べられるからねぇ」
    「へぇ。――君、自分が味覚音痴だって自覚があったんだ」
    「だから、どうしてそうなるんだよ! あーーーーもう! 味覚音痴はおまえだっ! 作ったもの片っ端からマズイマズイって失礼にも程があるだろーーー!」
     地団駄を踏むリオウは、ルックの鼻先に人差し指を突き付けて
    「勝負だ、ルック!今日こそ決着をつけてやるぅぅぅぅ!!!!!」
     声高に叫ぶ。その声は、城の最上階から階下まで響き渡り、昼下がりの城内の喧騒が一時静まり返ってしまうほどの大音量だった。
     昼時でにぎわっていた食堂にたまたま居合わせた戦時中から働いていたウェイトレスが、城主の雄叫びに条件反射で走り出す。入り口付近に据え置かれていた銅鑼まで来ると撥を手に、大げさに体をしならせて盛大に打ち鳴らした。
     騒音と形容しても遜色ない唐突な音に、事態をのみこめない者たちは狼狽え、あるいは料理をとりおとし、食器を割ったりと右往左往する中、戦時中からの恒例イベントに慣れていた人々は一様に歓声をあげると、誰に指示されるまでも無く、いそいそと自主的な会場設営を開始する。

    「料理対決だ!!!」
    「設営班どこ行った!」

     久方ぶりの戦いの火蓋がいま、切られたのだ。

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