勝手にデュオ「お前、今、何を聴いている?」
ミレニアム事務所の掃除をする秘書(仮)な小十郎に、義喜は声をかける。
「こちらを……」
小十郎は持っていた音楽プレイヤーを差し出した。政宗に勧められた最新式のものらしい。
中身もまた、政宗が好きそうな曲ばかり。
その中の1曲に義喜は目を止めた。
「これは?」
「こちらは、拙者と政宗様をつなぐ曲であろうと感じたのでございます」
義喜は続きを促す。
「40年以上も昔、拙者のソロカバー曲が発表されたくらいの頃の曲だそうですが、若者に人気のダンスグループがカバーした動画を、政宗様は夢中になってご覧になっていました。それで拙者も動画サイトを探してみたところ、奇抜な外見のバンドのカバーを発見しまして、これも政宗様がお気に召しそうだと聴いてみたら、そのバンドのオリジナル曲にたどりつき、なんと拙者のソロカバー曲の歌詞の引用が!」
「それで、オリジナル版を聴いているってわけだな」
わかったので強制終了。そしてこちらのターンだ。
「お前、政宗とこれを歌え」
え、と小十郎。
義喜には気持ちが見える。やっと政宗様と二人きりで歌を歌える……しかしこれでは拙者に政宗様を合わせさせることになるのでは?……政宗様が輝けるように全力でサポートに……やはり政宗様の輝かしさに……
「お前がさっき言ったことがすべてだ。やれ」
***
「おお、あれをお前と」
数日後、義喜に呼び出された帰り道の政宗の目は輝いていた。
さっそく作戦会議。
政宗の部屋に小十郎を呼ぶ。
二人で課題曲を聴きまくる。オリジナル版・政宗が聴いたダンスユニットのカバー版・小十郎が聴いたバンドのカバー版・アニメ版・ドラマの挿入曲版……他。
おお~やっぱカッケェな。 なんだよこの恰好のやつら!……ってうえぇっすごくね!? おなごの声のもあんだな~…… あ、こんなやつ見たことある……などと声を出して視聴する政宗を、小十郎は目を細めて眺める。
「……って、我ばっか見て、お前、ちゃんと曲研究してる!?」
「政宗様と歌うのですから、政宗様のお姿を拝見しながら見ることが一番の研究です」
「はは、いつもどおり」
政宗は小十郎を手招きした。
主の求めのままに顔を寄せる小十郎。
唇を寄せられる。
唇と唇を絡める。
カチン、カチン、音がする。ふたりがそれぞれ身に着けている首飾りがぶつかる音。
十秒近くたっただろうか。
「……邪魔だよな」
首飾りに手をかける政宗。
「お外しいたしましょう」
その手を、少し浅黒い手がそっと包む。小十郎の手。
「……う」
いつになっても慣れない金属の冷たさに、政宗は一瞬身を震わせる。
「……おまえも、とって」
はっ、といつもより低く熱を持った声が、今度は小十郎の胸に4つの手を運んだ。
長いキスの途中で首飾りを外した
「ハイヒール、とは、謙信殿が履いているあの靴ですね」
「この青ってさ、我……この色だと思うんだ」
小十郎のシャツの色。
小十郎の髪の色。
政宗の左目の色。
***
進捗を聞いてきた光秀と幸村に、小十郎はこう答えている。
「言葉が出ません。言葉が出ない代わりに、手を強く、それでいて傷めないように優しく、お導きする以外にないのです。胸が苦しく、せつなさがとまりません」
一方政宗は、利家と謙信を呼び、こう打ち明けた。
「あいつと我、多分ずっと同じ気持ちでいたんだと思う。あいつの目、もうまっすぐに見られないかもしれん、片目しか見えなくてよかったと思ったよ。せつねえよ」
(Romanticが止まらない)