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    iya_iyakis

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    iya_iyakis

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    刀剣女士のやつ① 刀剣女士の存在が確認されてから数年。未だ実装は二口のみだが、着々と各本丸へその姿を見せている。とは言え二口が揃うことは稀だ。大阪城を侮ってはいけない。そして期間限定鍛刀も。落ちないときは何百周しても落ちないし、出ないときは依頼札が無くなったって出ない。その点連隊戦や秘宝の里はまだ良心的だなぁ……日々の業務と並行して進める必要はあれど、数をこなせば来てくれるのだから。中々大変だし一日でもサボると痛い目を見るけれど。夏休みの宿題みたいで、少し懐かしい。

    「あるじ」
    「曾根ちゃん! どした?」
    「お知らせ届いてたわ。里来るらしいね」

     静かに執務室へ足を踏み入れたのは刀剣女士の一口、曾根崎長光。薙刀だが背丈は私より少し高いくらいで岩融や巴形と比べると小柄、それに反してかとにかく目立つ刀だ。パッと見は煙草の似合うダウナーお姉さんなものの、話してみれば人当たりの良い全肯定ネキである。立ち振る舞いがスマートなのは長船の系譜かしら。
     近侍の彼女が持ってきた政府からのお知らせを手に取る。前回開催された時とほぼ文言は変わらないようだ。ただ、燦然と輝いているように見える「新刀剣女士」の文字に目を奪われる。三口目の女士が来た! 相変わらずシルエットしか載せられていないものの、細い脚を揃え真っ直ぐに立ち正面を向いていて、行儀が良さそうな……マントを着けているようだし、どこか前田を彷彿とさせる。だから粟田口と言う訳ではないけれど、ちょっと聞き込みに行ってみようかと腰を上げた。やつ時だし、誰かしら大広間にいるはずだ。
     景観景趣は夏真っ盛りに設定してある。そこへやって来た秘宝の里。まだ6月に入ったところだが、一足先に夏休み気分だ。

    ◆◆◆

     非番の粟田口派はほとんど大広間に集まっていて、小豆さんお手製のプリンを幸せそうに味わっている。大変美味しそうなので後で貰いに行こうと思ったが、いつの間にかいなくなっていた曾根ちゃんが私の分を貰ってきてくれた。厨に寄ったらしいが一体いつ。全く気が付かなかった。この子隠蔽は低いはずなんだけどなぁ。

    「主さんずっと書類見てたしね」
    「だからか〜」
    「書類?」
    「あ、そう、政府からのお知らせ。秘宝の里開催するんだって!」
    「楽器集めか」
    「それもなんだけどね、じゃん!」

     机にぱさりと置いた書類になんだなんだと顔を近付けた皆がわっと声を上げる。

    「新しい刀!」
    「女の子なんだ!」
    「これマントかな?」
    「そう見えますね」
    「どなたなのでしょう」

     平野の問いが本命だったのだが、皆首を傾げたり横に振ったりしているあたり知り合いはいないようである。政府はいい加減新刀剣の名前くらいは早めに教えてくれないだろうか。聞き覚えはあるパターンがあるかもしれないのに。というか男士はチラ見せしてくれるのに何故女士はシルエットのみなんだ。まぁ曾根ちゃんのときに早押しクイズもかくやのスピードで「妹だな」と看破した大般若さんや、「柚じゃねーか!」と喜色満面で言い当てた貞ちゃんの例があるから文句はないけれど……けれど!

    「……あ。あるじ、遠征の子ら帰って来たっぽい」
    「もうそんな時間かぁ。報告聞いて仕事再開しよっと」
    「えらいッ」
    「てへへ……」

     余ったプリンを巡ってジャンケン大会が始まった大広間を一旦後にして、曾根ちゃんとお風呂上がったら爪塗ろうね〜なんて話ながら玄関へ向かう。いつもは清光も誘うんだけど、遠征帰りじゃ疲れてるだろうし……でもきっと「誘ってよ!」ってぷんすこするし声はかけよう。乱も呼ぼう。

    「戻り戻りー」
    「大成功だった……!」
    「おかえり! お疲れさま」
    「依頼札収拾して来ましたよ!」
    「あー助かる! ありがとうありがとう」
    「資材しまってくるね」
    「お、お手伝い、しますっ」
    「ありがとう! 資材庫暗いから足元気をつけて」

     清光を部隊長とした第三部隊は、練度が上がってきた子たちを中心に新入りを色んな時代へ連れていくため遠征を頼むことが多い。あと少しで五十になるずおくんとごこちゃん柚ちゃん、そして連隊戦でうちに来た日向くん。彼の歓迎会なんてついこの間なような気がするが、いつの間にか新刀剣実装だ。光陰矢の如しとはこの事。
     本丸には酒飲みが多いから宴会はよくある、よくあるからこそ小規模なものになる。ただし本丸全員となると準備や後片付けがそれはもう大変なことになるのだ。だから開催は就任記念とか新年とか年末や歓迎会と限られてくるけれど、その分盛大にやるのがうちの方針。という訳で新たに迎える予定の彼女も、顕現初日から美味しいご飯と賑やかな仲間に囲まれることになるのである。好物を見つけてもらうためにも、料理の仕込みは気合いを入れなくては。厨の支配者たる光忠くんと歌仙くんを筆頭に料理上手たちを集めて作戦会議が必要だ。

    「良い匂い……」
    「生姜焼きだっ」
    「俺シャワー浴びてから行くね」
    「おっけ〜」
    「あるじさんあれは。里やるでってやつ」
    「あ! 今度秘宝の里開催です!」
    「笛とか集めるやつ……? だよね?」
    「落とし穴とかあるやつですねー、了解です!」

     イベントの件を会う子会う子に言い触らしているが、非効率的なのは分かっている。分かりつつも楽しみすぎてついはしゃいでしまうのだ。あぁ早く会いたい! どんな子なんだろう……というかまず、誰なんだ!

    ◆◆◆

    「いただきますの前にー、あるじからお知らせあります」
    「あります! えーと。来週から秘宝の里、楽器集めが始まります!」

     おおっという声に混じって、罠の悪夢……楽器の偏りが……という声がちらほら聞こえて苦笑する。運要素はどうにも。確かに笛ばっかり落ちるけれども。モチベーションが下がるんだよね、分かるよ。しかし!

    「今回、新刀剣女士が来るそうです! なので、気合い入れて行きましょーう!!」
    「女士か! 三口目だよな?」
    「誰だろうねぇ」
    「それなんだよ、誰なのかわかんなくて……ちょっと待って、プロジェクター使おう」

     以前となりのトトロを見た際も使用したプロジェクターのスイッチを入れて、ノートパソコンに繋ぐ。メールで送るならわざわざ紙で送ってくる必要ないんじゃ……と思う。その辺どうなんでしょうか時の政府さん。
     曾根ちゃんがスクリーンを下ろし、更に気を利かせた長谷部くんが照明を調整してくれた。皆お腹を空かせているだろうから、新刀剣が誰か分からないとしてもなるべく早く説明を終わらせたい。

    「例の如く影絵なんだけど……こんな感じの刀だそうです! こてくんと同じく十万で仲間になるそうなので一日の目標は大体……」
    「黒だ」

     そう言った日向くんは自分の声が思っていたより大きく部屋に響いたことに気が付いて、それでもシルエットから目を離せないようだった。食い入るように見つめている。隣の柚ちゃんがびっくりしていて可愛い。

    「日向くん知ってるの?」
    「あ、ごめん。遮ってしまって……石田三成様のところで一緒だったんだ」
    「黒和……!」
    「あぁ、やはり黒和江か」
    「えっあいつが黒和江なのか?」

     なんだなんだ結構知り合いいるな。「黒和江」……名前とこてくんの反応からして江派らしい。そして知っていそうなのは日向くんとこてくんを除けば長谷部くんと御手杵くん……

    「あいつ来れるんやな」
    「えっ曾根ちゃんも知ってるの!?」
    「昔一回会ったことあるよ。徳川おったときに話も聞いたし」
    「言ってよ!?」
    「タイミングを失い続けた模様」

     この子こういうとこある。
     まぁめでたく名前も判明した訳だし、ご飯だご飯。照明を元の明るさに戻し、プロジェクターやパソコンをしまう。皆で手を合わせ、いただきますと声を揃えた。生姜焼きと唐揚げが美味しすぎて白米がみるみる消えていく。あったぬきもう二杯目。

    「ねぇ曾根ちゃん、『来れるんやな』ってどういう意味なんだい?」
    「え? あぁ……日向」
    「いや、大丈夫。……けれど、食事の場で話すのはあまり気分が良いものではないかもしれない」
    「えっこわいはなし……?」
    「怖いとは違うんじゃねぇか?」
    「篭手切江は、何も知らないのか」
    「きょうだいですので、会えなくても互いに存在の認知はしていましたが……ある時からそれを感じ取れなくなったことと、関係がありますか」
    「ほぼ答えやね」
    「……黒は、三成様の斬首と共に折れた刀。以降修復されることはなく、行方知れずのはずだよ」
    「まぁ私みたいなんとか……みっちゃんとかみたいな例もあるけども。折れてそのままでも顕現できるってことはどっか知らんとこで直されたんかな」
    「ですが……それならば、私たち江が分からないはずがありません」
    「黒和江さんが来たら分かる、んですかね……」
    「どうだろうね。……でも、早く会いたいな」
    「ねぇめっちゃご飯進まない!? 美味しすぎるよ今日もありがとうね!?」
    「あるじそれ何杯目なんや」
    「おかわりですか? よそいますよ」
    「ありがとう! いやー早く色んなご飯食べて好きなもの見つけてほしいねぇ黒和江さんにも!」
    「ふふ、そうだね」
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