花火に願う 僕は今、弟と並んで座り夜空を見上げている。
夏の盛りを過ぎ、いくらか過ごしやすい夜になってきた。そんな折に、祭り好き男と爆弾娘が揃って反省室で1日を過ごしたらしい。
その結果何が生まれたか。
夜空に咲く大輪の花である。名を打ち上げ花火と言う。
元々、稲妻の文化として知られている。手に持って楽しむ花火や、静かに火花を散らす線香花火、夜空に咲き誇る打ち上げ花火と、その種類は多岐に渡るものらしい。最近稲妻に行ってきたという祭り好き男が、その知識を仕入れずに帰ってくるわけがないのだ。
ドーン!と腹に響く音と共に、夏の終わりを惜しむように刹那の花が夜空を彩る。日頃、暗闇の中で足元を見ていることの多い僕にとって、誰かと並んで夜空を見上げることはほとんどない。
幼い頃は大好きな相棒と一緒になって窓に貼り付いて、星空を眺めては顔を見合わせ、目が合ってはくすくす笑い合っていた。今となっては遠い時代の幸せな記憶だ。全てが偽りだと思えず、大切に大切に心の奥にしまわれている。
『いつか一緒に花火を見に行こうね!』
そう言えば、そんな事を言って指切りをしたような気がする。
「いつか、本場の花火を見に行こうな。」
隣に座る弟が、ぽつりと言う。
「俺・・・・・・」
続けて何か話したようだが、花火の打ち上がる音に掻き消されて上手く聞き取れなかった。
「ガイア、今何て…」
もう一度言ってほしいと言いかけて、言葉を飲み込んだ。ここ最近見た覚えのない、穏やかな顔。何かを企んでいるわけでも、僕をおちょくって楽しんでいるわけでも、ましてや何か苦しい秘密を話そうとしているわけでもない。しかし、何かを明かされたような気がした。
それは、胸の奥にしまい込んでいた大切な何かをこっそりと見せるかのような。まるで密やかに抱え続けた想いをそっと差し出すかのような…。
「僕は・・・・・・」
同じように、花火の打ち上がるタイミングに被せて隠し続けていた想いを告げる。
ガイアが何と言ったのかは分からない。しかし、僕は勝手に受け取って、好き勝手に返す。
きっと、今はこれでいい。
次に一緒に花火を見上げる時は、君をこの腕に抱いていられたらいいなと思う。君もそれを望んでくれると嬉しい。
今はまだ、指先が触れるかどうかという距離だけれど。交わる視線は、いつか交わすことになるだろう想いに似て温かい。
相棒として肩を組んでいたあの頃とは少し違う感情を寄せ合う未来を、流れ星の代わりに花火に祈った。