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    FuzzyTheory1625

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    FuzzyTheory1625

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    昨日のツイート

    グリルの上で個室の扉が閉じられると、そこはもう別世界だった。テーブルの中央には炭火のグリルがセットされ、赤々とした炭の輝きが、まるで戦場を照らす炬火のようにゆらめいている。そこに集まったのは、平衡傘のツートップ——ウルリッヒとアドラー、そしてラプラスの未成年組。

    メニューが配られた瞬間、食い意地の張った連中が勢いよく肉のページにかじりついた。

    「やっぱ焼肉っしょ!あたしはロックを愛する女だから、牛タンからいくぜ!」

    レグルスの高らかな宣言に、隣でメニューをめくっていたXが即座に突っ込む。

    「君のロック精神は関係ないよね?」

    しかし、レグルスはXの言葉を右から左へ流し、胸を張って続けた。

    「関係ある!ロックといえば自由!つまり、食べたいもんを食う!」

    隣でそのやり取りを眺めながら、メディスンポケットは椅子にもたれ、余裕たっぷりに注文表を指で弾く。

    「オレは厚切りハラミと上ミノ!肉は固くてナンボだろ!」

    その一言に、Xが呆れたように首を振った。

    「……キミたち、バランスという概念を持っていないのか?」

    静かにため息をついたのは、ウルリッヒだった。しかし、そんな彼の嘆きは、このテーブルではただのBGMに過ぎない。

    「ていうか、当然ウルリッヒの奢りだよな?」

    アドラーが当たり前のように言い放ち、Xがくすくすと笑いながら肘で小突いた。

    「ミスター・エニグマも奢ってもらう気なのです?」
    「当たり前だろ?俺は今日の監督役だ。未成年の面倒を見るというな。」
    「それ、ただご飯を食べに来ただけじゃないか。」

    Xが皮肉っぽく言うと、アドラーは「ん?何か言ったか?」と聞こえなかったふりをしてXの頭を軽くはたこうとした。Xは笑いながら身を避ける。

    「まぁ、細かいことはどうでもいい。とりあえず、ガンガン肉頼むぞ。」

    流れるように注文を進めるアドラーを横目に、ウルリッヒは静かに口を開いた。

    「……?キミは自分で払いたまえ。」
    「……は?」

     一瞬、場が凍りつく。

    「……ちょ、待てよ。何言ってんだ?」
    「言葉通りの意味だ。」

    ウルリッヒは、眉ひとつ動かさず淡々と告げる。

    「未成年の食事代はボクが負担する。だが、キミは違う。自分の分は自分で払いたまえ。」

    沈黙。

    そして次の瞬間——

    「ぷはっ、マジで言ってんのかよ!」

    メディスンポケットが爆笑し、Xとレグルスが吹き出した。

    「ツートップの片方がケチられたぞ!」

    エズラだけは苦笑しながら、「まぁ、ミスター・エニグマ……仕方ないのでは」となだめるが、アドラーは信じられないものを見るような目を向ける。

    「おいおいおい、俺はお前の相棒だろ?普通、こういう時はまとめて出すもんじゃねぇのか?」
    「何故だ?」
    「いや、お前……俺より年上だろ?」
    「それとこれとは別だ。」

    バッサリと切り捨てるウルリッヒに、アドラーはやり場のない怒りを押し殺しながら、椅子の背もたれに深くもたれかかった。

    「クソが……せめてレグルスたちの分にこっそり俺のを混ぜるか。」
    「会計時にバレるからな。」
    「チッ……」

    舌打ちをするアドラーをよそに、未成年組は笑い転げながら肉を網の上に乗せ始める。

    「まぁまぁ、そんなケチなこと言わずに楽しもうぜ!さぁ焼くぞ!」
    「X、お前ちゃんと網見てろよ!焦がしたらただじゃ置かねぇからな!」
    「えぇー、メディスンポケットは自分で焼きなよ!」
    「あ?オレは食う専門だ!」

    騒がしいやり取りを眺めながら、ウルリッヒは静かに箸を取り、じりじりと焼ける肉の音に耳を傾ける。炭火の香ばしい匂いが鼻をくすぐり、網の上では脂が滴り、炎が一瞬だけ勢いを増す。

    その向かい側では、アドラーが財布を取り出し、メニューとにらみ合いながら、悪あがきのように呟いていた。

    「……だったら一番高い肉だけでも払わせるッ」

    それを聞いたウルリッヒが、グラスの水を一口含みながら静かに言った。

    「それもバレるからやめたまえ。」
    「……クソが!!」

    焼肉の煙と共に、アドラーの怨嗟の声が個室に立ち込めた。



    §


    香ばしい煙が立ち上る焼肉の宴は、終わりに近づいていた。鉄網の上でじゅうじゅうと音を立てていた肉は、今や跡形もなく皿から消え去り、タレの染みついた箸が乱雑に置かれている。食後の余韻を楽しむように、未成年組は満足げに椅子にもたれかかり、それぞれの腹をさすっていた。

    「くはぁ……食った食った!」

    レグルスが両手を頭の後ろに組み、椅子を少し傾けながら伸びをする。その横で、Xが静かに冷たいお茶を口にしながら、「全員よく食べたね」と呆れ混じりの声を漏らした。

    「そりゃそうだろ、焼肉は戦いだからな!」

    メディスンポケットが自信満々に胸を張ると、Xは苦笑しながら「どういう理屈なのさ」と小さくため息をつく。

    「まぁ、キミたちが満足したなら何よりだ。」

    ウルリッヒが淡々とした口調で言いながら、手元に置かれた伝票を静かに持ち上げた。そこに記された金額を一瞥すると、彼は何の表情も変えずに立ち上がる。

    「では、会計を済ませようか。」
    「おっ、助かるぜ班長!」

    レグルスが無邪気に笑い、Xやエズラもそれに続いて立ち上がる。しかし、一人だけ、その場に座ったままの男がいた。

    アドラー・ホフマン。

    彼は腕を組み、眉をひそめながらウルリッヒの持つ伝票をちらりと見てから、深いため息をついた。

    「……おい、本当に俺の分は俺が払うのか?」
    「当然だろう?」

    ウルリッヒは微動だにせず、完璧なまでに真顔でそう返した。その態度には一切の迷いもなく、まるで最初から決まっていた規則を守るかのような冷静さがあった。

    「クソが……。」

    アドラーは舌打ちしながら、しぶしぶポケットから財布を取り出した。彼の動きを見て、Xとレグルス、メディスンポケットはまたしても肩を震わせる。

    「ぷっ……ミスター・エニグマがついに屈したよ!」
    「いやぁ、これは歴史的瞬間だぜ。平衡傘のツートップの一角が、焼肉代をケチられた……!」
    「ま、まぁ、ミスター・エニグマもちゃんと自分で払うってことで……。」

    エズラが苦笑しながらフォローするが、アドラーの機嫌は当然ながら最悪だった。

    ウルリッヒが伝票を持ち、個室を出る。後に続く形で、全員が廊下へと移動し、レジの前に並んだ。ウルリッヒは静かに店員へ伝票を差し出し、財布からカードを取り出す。

    「こちら、未成年の分の会計です。」

    すんなりと支払いを終えるウルリッヒの横で、アドラーは黙って自分の伝票を手に取る。伝票には、彼が注文した肉のリストと、そこそこの金額が記されていた。

    「……お前、本当に払う気ねぇんだな。」
    「ボクは最初からそう言ったはずだが?」
    「クソが……。」

    愚痴をこぼしながら、アドラーは自分の財布を開く。中にあるのはクレジットカードと、数枚の紙幣。彼は渋々カードを取り出し、店員に渡した。

    「こちらで。」
    「かしこまりました。」

    店員がカードを受け取り、端末に通す間、未成年組はアドラーを横目に見てニヤニヤしていた。

    「なぁカーバンクルヘアー、今どんな気持ち?」
    「クソみてぇな気分だよ……。」
    「帰りのも運転頼んだぞ、ミスター・エニグマ」

    メディスンポケットがわざとらしく頭を下げ、Xとレグルスもそれに続く。

    「やめろ、その態度が一番ムカつく。」

    アドラーが溜息混じりに言うと、店員がカードを返してきた。

    「ありがとうございました。」
    「……あぁ。」

    財布にカードを戻しながら、アドラーは最後の最後まで不満げだったが、もはやどうしようもない。

    「おい、帰るぞ。」

    ぶっきらぼうに言い放ち、店を出ようとするアドラーの後ろで、未成年組は肩を揺らして笑いながらついていく。

    「なんだかんだ言って、今日は楽しかったですね」
    「だな!やっぱ焼肉は最高!」
    「X、お前が焼いたホルモンだけは許せねぇがな。」
    「えぇ!?ひどくない!?」

    そんな賑やかな会話が交わされる中、ウルリッヒは静かに歩きながら、ふとアドラーを一瞥した。

    「……キミ、最後のほう妙に高い肉ばかり頼んでいなかったか?」

    アドラーは一瞬ビクッとし、すぐにそっぽを向いた。

    「さぁな。」

    ウルリッヒは肩をすくめ、夜風を浴びながら静かに微笑んだ。



    §



    翌朝。

    アドラーは、ソファに沈み込んでいた。

    「……クソが…」

    額に手を当て、顔をしかめる。胃が重い。いや、重いどころか、鉛でも詰まっているかのようにズシリと鈍い痛みが広がっていた。昨夜の焼肉が、明らかに彼の体にダメージを与えていた。

    「だから言ったんだ。バランスを考えたほうがいい、と。」

    ソファの向かい側、椅子に座ったウルリッヒが、呆れたように珈琲を口にしながら静かに言った。

    「……お前がケチったせいで、元を取ろうとした結果がこれだ。」
    「ボクのせいにするのはやめたまえ。」

    淡々と返され、アドラーは苦々しく舌打ちする。

    「……チクショウ、しばらく肉は見たくねぇ…」

    その言葉を聞き、ウルリッヒは小さく肩をすくめた。

    「それは朗報だ。今日は一日の食事にでもするか?」
    「それだけは絶対にごめんだ……」

    アドラーは顔を覆い、胃もたれに苦しみながら、しばらく動けずにいた。
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