ウルリッヒが凄く攻めをしている「どうしたんだい?キミ、ずいぶんと顔が赤いじゃないか。」
ウルリッヒの声は、どこまでも甘く、どこまでも余裕に満ちていた。磁性流体は彼の頭上でゆったりと揺れながら、穏やかに波打っている。それだけならば、アドラーも気にせず受け流せただろう。
——だが、問題は“手”だ。
ウルリッヒの義体が持つ、驚くほど精密な手指。ラプラス製のそれは、感触も温度も限りなく人間に近い。関節の柔軟性はもちろん、筋肉の収縮や微細な動きまで完璧に再現されていた。そして——
「……ッ、ウルリッヒ……お前、その手……」
アドラーは言葉を詰まらせた。いや、正確には言葉にならなかった。
「ボクの指、そんなに気に入ったのかい?」
ウルリッヒの声は、からかうようでいて、どこか甘く囁くようだった。アドラーの頬は完全に赤く染まっていた。
「な、なんだよそれ……っ、あんた……っ!」
アドラーはかろうじて言葉を絞り出したが、目を逸らしてしまった。理論的に考えれば理解できるはずだった。ラプラス製の義体は、最先端の触覚フィードバックシステムを搭載している。だが、まさかここまで精密かつ“効果的”に作られているとは思わなかった。
「……感度、良すぎるんじゃないか?」
「キミがボクを“楽しませて”くれたんだからね。そのお返しをしないと、バランスが取れないだろう?」
ウルリッヒはしれっとそう言って、さらに指先を這わせた。指の動きはゆっくりと、しかし的確にアドラーの弱点を突いてくる。まるで全てを理解しているかのように、的確に、正確に——
「クソ……お前、どこでそんな技覚えたんだよ……っ!」
アドラーは歯を食いしばりながら呻いた。だが、彼の身体は正直だった。無意識のうちにウルリッヒの指の動きに反応し、じわじわと熱を持ち始めていた。
「いくらボクが意識覚醒者だからって、人間のソレを理解していないと思わないでくおれ。」
ウルリッヒの磁性流体は、満足げに波打ちながら形を変えていった。今度は、まるで“鍵”のような形に変化し、アドラーの首筋をかすめた。
「……学者だからって言いてぇのか?……っ、だったら、俺も——」
アドラーは意地でも負けじと、ウルリッヒの義体に手を伸ばした。だが、その瞬間、ウルリッヒは指先でアドラーの顎を軽く持ち上げた。
「残念ながら、今夜の主導権はボクが握っているんだよ、アドラー。」
ウルリッヒの指は再びアドラーの肌に触れた。ゆっくりと、だが確実にアドラーの理性を侵食していく。
「お前……ッ、本当に……」
アドラーの息が浅くなる。いつもは皮肉交じりの言葉を飛ばしてくる男が、今は言葉にならない吐息を漏らしていた。その姿に、ウルリッヒの磁性流体はさらに満足げに揺れる。
「キミはボクに良くされるのが好きなんだね、アドラー?」
「……うるせぇ……ッ!」
アドラーは顔を背けたが、ウルリッヒの指先から逃れることはできなかった。繊細な指が首筋をなぞり、耳元に触れる。冷たさ、熱さ、柔らかさ、鋭さ、そして圧力——
「んっ……クソ……っ!」
アドラーは唇を噛みしめたが、もはや理性が持つ限界は近かった。ウルリッヒはその様子を見逃さなかった。
「ボクの指が、そんなに“気持ちいい”のかい?」
アドラーは答えなかった。答えられなかった。しかし、ウルリッヒには必要な情報はすでに伝わっていた。指先で読み取った反応、身体のわずかな震え——
「大丈夫、アドラー。キミが“ボトム”でも、ボクがちゃんと導いてあげるからね。」
ウルリッヒはさらに指を滑らせながら、囁くように言った。まるでアドラーの心と身体を完全に支配しているかのようだった。