Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    FuzzyTheory1625

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🍌 🏩
    POIPOI 27

    FuzzyTheory1625

    ☆quiet follow

    曖昧

    泥沼試合ウルリッヒの義体の手が、アドラーのタートルネックを掴んだ瞬間、部屋の空気が一気に張り詰めた。磁性流体の本体がウルリッヒの頭上でざわめき、黒い波紋を描きながら不規則に形を変える。感情が昂ぶると、流体の動きが荒々しくなるのは、周囲の誰もが知るところだった。

    「キミというやつは、いつもそうだな。」

    ウルリッヒの低い声が響く。握り込まれた布地がきしむ音とともに、タートルネックが引っ張られ、アドラーの喉元に皺が寄った。

    「は? 何がだよ。」

    アドラーはいつもの調子で鼻を鳴らし、気怠げな目つきでウルリッヒを見下ろす。

    「とぼけるな。」
    「いや、マジでわかんねぇんだけど。」
    「皮肉を言えば全てをやり過ごせるとでも思っているのかね、アドラー?」

    ウルリッヒの指先がさらに力を込める。タートルネックの生地がさらに引っ張られ、首元がだらしなく伸びていく。アドラーの肩がわずかに引かれ、身体が前傾する。

    「いちいち絡んでくんなよ、面倒くせぇな。」

    アドラーが舌打ちしながらウルリッヒの手を払いのけようとしたが、ウルリッヒの義体はその動きをものともせず、逆にぐいっと胸元を引き寄せた。

    「ふざけるな。」
    「そっちこそ、いい加減離せっての!」

    アドラーもついに我慢の限界が来たのか、ウルリッヒの腕を掴んで振りほどこうとする。だが、ウルリッヒの義体はラプラス製の高性能義体だ。生身の人間が引き剥がせるはずもなく、むしろウルリッヒの力を込める動作に呼応するように、アドラーのタートルネックがさらに伸びていく。

    ビリ……。

    嫌な音がした。

    アドラーが一瞬、目を丸くする。ウルリッヒも磁性流体の動きを一瞬止めた。二人の視線が、伸びきったタートルネックへと向かう。

    「……おい、」
    「……あっ」

    アドラーの鎖骨が完全に露出している。それどころか、布がでろりと伸びすぎて、胸の半分ほどまでがはだけてしまっているではないか。

    アドラーはウルリッヒを睨んだ。

    「なぁ……お前、俺の服、今、完全に死んだよな?」

    ウルリッヒの磁性流体がざわめき、不規則に波打つ。やや狼狽している証拠だった。

    「……キミが悪い。」
    「は?」
    「キミが無駄に高身長だから、服の生地が負けたのだよ。タートルネックに罪はない。」
    「……はぁ?」

    アドラーのこめかみがピクリと跳ねる。

    「俺のせいにすんなや、この流体野郎。」
    「ボクは事実を述べただけだ。」
    「事実だったら何言っても許されると思ってんのか?」
    「当たり前だろう?」
    「お前、マジでぶん殴るぞ。」
    「やれるものなら、やってみたまえ。」
    「上等だ、クソが。」

    アドラーがウルリッヒの襟を掴み返し、二人は完全に取っ組み合いの状態に突入した。ウルリッヒの義体の制御機構が作動し、余計な力が働かないようになっているが、それでもアドラーの引きはがそうとする手に逆らうように動く。

    「ったく、離せっての!」
    「キミこそ、ボクの襟を掴んでいるだろう!」
    「お前が先に掴んだからだろ!」
    「因果関係を整理したまえ!」
    「うるせぇ!」

    二人はもみ合いになりながら、ついに部屋のテーブルへと雪崩れ込んだ。資料がばさばさと床に散らばり、ウルリッヒの磁性流体が弾けるように揺れる。アドラーが片膝をつきながら体勢を立て直し、ウルリッヒを押し返す。

    しかし、ウルリッヒはすぐに体勢を整え、アドラーのタートルネックをもう一度掴んだ。

    「……まだ掴むか!?」
    「キミのタートルネックは掴みやすい形状をしているのだよ。」
    「マジで黙れ。」
    「キミこそ。」

    そして——。

    ビリッ!

    とうとう、タートルネックが完全に裂けた。

    ウルリッヒは少しだけ手を緩めた。アドラーの胸元は完全に露出し、引きちぎられた白い布がだらしなくぶら下がっている。

    ウルリッヒの磁性流体が困惑するように揺れた。

    「……ああ……やってしまった……」

    アドラーはゆっくりと深呼吸し、青筋を立てながらウルリッヒを睨みつけた。

    「……お前、今すぐ、俺の服を元に戻せ。」
    「ボクにそんな芸当ができると?」
    「できねぇなら新しいのを持ってこい。」
    「ボクの手先の器用さを侮辱するのかね?」
    「お前の裁縫を信用できるやつなんかいねぇよ!」
    「……ボクが補償しよう。」
    「現金で頼む。」
    「交渉の余地はないのかね?」
    「ねぇよ!!」

    その後、二人はようやく取っ組み合いをやめたものの、部屋の中は完全な戦場のようになっていた。アドラーのタートルネックは無残にも引き裂かれ、ウルリッヒの義体の袖口にはしわが寄り、磁性流体はまだ微妙に揺れている。

    数秒の沈黙の後、ウルリッヒがぽつりと呟いた。

    「……ところでキミ、裸のままではないか。」
    「お前のせいだろうが!!」

    アドラーは深く息を吸い込み、額に指を押し当てた。引き伸ばされたタートルネックの残骸が、まるで役目を終えた抜け殻のように肩からぶら下がっている。

    「……なぁ」

    アドラーは低く呟く。

    「ん?」

    ウルリッヒはまるで自分のことではないかのような顔をして、磁性流体をふわふわと揺らめかせた。

    「お前、これ、どうしてくれんの?」

    アドラーは自分の胸元を指差した。そこには、露わになった大胸筋とうっすらと浮き出る腹筋。通常ならばタートルネックの影に隠れているはずの肌が、容赦なく晒されている。

    「キミのその無駄な高身長が悪いのでは?」
    「まだ言うか、お前……!」

    アドラーはぐっと拳を握りしめ、思わずウルリッヒの義体の胸ぐらを掴もうとする。しかし、ウルリッヒはすかさず後退し、義体の精密な動作で器用にアドラーの手をかわした。磁性流体が楽しげに波打つ。

    「まったく、キミは短気だね。」
    「誰のせいだと思ってんだよ……」

    アドラーは溜息をつき、伸び切ったタートルネックの裾を引っ張る。だが、もはや服としての機能を果たしておらず、ちょっと力を入れただけで肩の部分がだるんと下がった。

    「……あー、くそ。もういい。上着を羽織る。」

    アドラーは椅子の背にかけていたロングコートを手に取り、肩に羽織る。だが、ボタンを留めるのも面倒だったのか、そのまま前を開いたままでいる。ちらりと覗く肌が妙に無防備に見えて、ウルリッヒは磁性流体を微妙に揺らした。

    「なんだよ。」
    「いや、キミは案外筋肉質なのだな、と思ってね。」
    「お前なぁ……」

    アドラーはこめかみに手を当て、心底疲れたように頭を振る。

    「……それより、お前、俺のコーヒー淹れてこいよ。」
    「は?」
    「お前が俺の服を台無しにしたんだから、せめてそのくらいしろ。」
    「ボクは悪くないと言っただろう?」
    「悪いに決まってんだろうが!!」

    アドラーの怒鳴り声が響く。ウルリッヒは磁性流体をくるくると渦巻かせ、仕方なさそうに肩をすくめた。

    「仕方がないな……まぁ、ボクのコーヒーの腕をもってすれば、キミの機嫌もすぐ直るだろう。」
    「別に直す必要はねぇんだけどな。」
    「ならばなぜ要求する?」
    「そりゃ、お前のコーヒーはうまいからだよ。」

    アドラーは素直でない口調のまま、椅子にどかっと腰を下ろした。ウルリッヒはその様子を眺めながら、すっとコーヒーメーカーの方へ向かう。

    「仕方がない。特別に、最高の一杯を淹れてやろう。」

    ウルリッヒが軽やかに言う。アドラーはふんと鼻を鳴らしながらも、ロングコートの襟を少しだけ直して、まだ伸びきったタートルネックの名残を気にしていた。

     こうして、平衡傘部門のトップ同士の取っ組み合いは、またも無益な消耗戦として終焉を迎えたのだった。




    §



    翌朝、平衡傘部門のオフィスに入った瞬間、アドラー・ホフマンは深々と溜息をついた。

    「……あー、クソ」

    昨夜、ウルリッヒに引き伸ばされたタートルネックは、もはや布の束と化していた。着るにはあまりにも無惨な姿になっており、仕方なく新しいシャツを着てきたが——

    それでも納得がいかない。

    というのも、昨夜のウルリッヒの態度があまりに無責任だった。服を破った張本人のくせに、「ボクは悪くない」としれっと言い切り、挙げ句の果てには「キミの無駄な高身長が悪いのでは?」などと戯言をぬかした。

    「……クソッ、思い出しただけでムカつく。」

    アドラーはガリガリと頭をかきながらデスクへ向かった。

    その時——

    「おはよう、アドラー」

    のんびりとした声が部屋に響いた。

    その声を聞いただけで、アドラーのこめかみがピクリと跳ねる。

    「……ウルリッヒ」

    振り向くと、ウルリッヒがいつもの白いぴっちりとしたスーツ姿で立っていた。磁性流体の本体は、彼の頭上でふわふわと揺れながら、なめらかに波打っている。

    昨日と何一つ変わらない、涼しげな顔。

    「どうしたんだい? 今朝はやけに仏頂面だな。」

    ウルリッヒはくすくすと笑いながら、自分のデスクへ歩いていった。その余裕たっぷりな態度に、アドラーは拳をぎゅっと握る。

    「お前のせいだろうが。」
    「何のことだい?」
    「この服だよ、服!!」

    アドラーは新しく着てきた白いタートルネックの襟を引っ張りながら、ウルリッヒを指差した。

    「お前が昨日俺の服をでろでろに伸ばしたせいで、仕方なく新しいのを着てきたんだぞ!」
    「おや、それは気の毒だったねぇ」

    ウルリッヒはまったく悪びれる様子もなく、磁性流体をくるくると円を描くように動かした。

    「でも、ボクはあくまで正当防衛だったと思うが?」
    「はあ!? どこがだよ!!」
    「キミが先にボクの義体に手を出そうとしただろう? だから、ボクはキミを抑え込んだだけだ。」
    「それで俺の服をでろでろにしたのか?」
    「キミが抵抗するからだよ。」

    ウルリッヒは肩をすくめ、まるで「ボクは何も悪くない」とでも言いたげな表情を浮かべる。

     アドラーは血管が切れそうな勢いで額を押さえた。

    「……お前なぁ……」
    「まあまあ、怒るなよ、アドラー」

    ウルリッヒは気楽な調子で言いながら、ひょいと立ち上がった。

    「そうだ、昨日のお詫びに、今日はボクがコーヒーを淹れてやろう。」
    「……昨日も淹れたよな?」
    「何か問題でも?」
    「いや、別に」

    アドラーはため息をついた。確かにウルリッヒの淹れるコーヒーは美味い。それだけは認めざるを得ない。

    ウルリッヒはカップを二つ手に取り、コーヒーメーカーに向かった。磁性流体が僅かに揺らめきながら、静かに彼の周囲を漂っている。

    アドラーは椅子に腰を下ろし、腕を組みながらウルリッヒの動きをじっと見つめた。

    「……お前さ、」
    「なんだい?」
    「本当に、俺の服を台無しにしたこと、悪いと思ってんのか?」
    「もちろん。」
    「……絶対思ってねぇだろ」
    「ふふ」

    ウルリッヒは楽しげに微笑み、コーヒーを一杯ずつ丁寧に注ぐ。

    「まぁ、キミが機嫌を直すまで付き合ってあげるよ。」
    「はぁ……もういい。とっととコーヒー持ってこい。」

    アドラーは椅子の背に体を預け、ぼそりと呟いた。

    結局、どれだけ喧嘩をしても、こいつとはこんな調子なのだ——。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    FuzzyTheory1625

    DOODLEpixivにある原語版のニュアンスや表現を一切拾わずに和訳した。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24412915
    公平な情報格差を味わってください。
    シュガーレスコーヒーアドラー・ホフマンは薄暗いラボの隅で、黒いロングコートの襟を無造作に掴みながら、カップから立ち上る湯気をぼんやりと眺めていた。

    「……また、苦ぇのを淹れやがって……」

    そうぼやきつつも、手元のマグを離さないあたり、文句を言いつつも味自体は気に入っているのが見え見えだった。カップの縁に唇を寄せ、ひと口だけ含むと、独特の深みと酸味が舌に広がる。

    「はぁ……相変わらず、濃すぎるんだよ……」

    アドラーは眉をひそめたが、口元にはかすかに満足げな表情が浮かんでいた。

    「そんなにボクの淹れたコーヒーが気に入ったのかい? アドラー。」

    不意に、柔らかく響く声が背後から降ってきた。

    「チッ……いつの間に……」

    アドラーは視線だけで振り向き、そこには銀色の短いジャケットを羽織ったウルリッヒが立っていた。義体の細身のラインは無駄がなく、白いツナギが彼の身体にぴったりと張り付いている。だが、目を引くのはその頭上――形を絶えず変える磁性流体が、揺らめきながら感情を映し出していた。
    3760