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    kan_mi88

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    kan_mi88

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    何となく書き上がったものを試しに

    #クロアジ

    したくないとは言ってない2人は小さな金属の箱の中にいた。
    ゴウ、ゴウンと鳴る危うげな音と、その度に揺れる体が箱の不安定さを物語っている。
    「馬鹿げてる」
    呟いたのはクロウリーだ。彼は脚を大きく広げ、固い座面に腰掛けていた。
    「そんなことはない」
    対照的にアジラフェルはお行儀よく脚を揃えており、その背筋は天にまで届きそうなほど伸びている。
    痩せ型だが背が高い男と、中背だが中肉ではない男2人が乗った箱はそれなりに重たいはずで、しかし他の箱と変わらないスピードで、相変わらずゴウゴウギシギシと言わせながら、2人をゆっくりと上へ上へと運んでいく。
    「じゃあ逆にこの状況で馬鹿げてないと言えるものがあるのか?」
    クロウリーの言葉にアジラフェルは胸を張って答えた。
    「もちろんあるとも。今観覧車に乗ってるという経験そのものだ。ずっと乗ってみたいと思ってた」
    2人が今乗っている観覧車は、老朽化により来週取り壊されてしまう予定のものであった。そのことを聞きつけたアジラフェルは「乗るなら今しかない!」と、滅多に上がらない腰を上げ本屋を飛び出した──正確には、ある人物に「今すぐ来てくれ」と電話をして、その5分後助手席にアジラフェルを乗せたベントレーがソーホーを飛び出した。
    「最近はすっかり人が来なくなったみたいだが、完成したばかりの頃はかなり賑わってたんだぞ?やっぱり人間は翼がない分、高いところに憧れずにはいられないんだろうか」
    「お前は人間じゃないし翼もある。こんな鳥籠に自分から入り込まなくたって、やろうと思えば自由に飛び回れるだろ」
    クロウリーは窓をコンコンと叩き「だいたい、乗ってみれば景色が良いわけでもないし」とぼやく。
    たしかに絶景とは程遠かった。2人が乗り込んだ観覧車は特段大きいわけでもなく、周辺はビルが立ち並んでいて見通しが良くない。クロウリーにはそれが我慢ならないらしい。曰く「観覧車の醍醐味は景色だろう」と。
    しかしアジラフェルの目的は景色を堪能することではなかった。ただ観覧車に乗るという経験をしたいと、かねてより思っていたのだ。よって、クロウリーが言うようにただ翼を出してパタパタするだけでは意味がない。
    ここで昔話をしよう。
    今や高いビルが立ち並ぶとなっているこの地域だが、元々は特に栄えていると言えるほどの場所ではなかった。かといって寂れているというほどでもなく、まあなんとなく活気が足りない、ごく一般的な街であった。
    ある時、そんな場所に何か話題性のある大きな建造物ができたと聞いた当時のアジラフェルは、野次馬根性で見物に出向いた。
    ──何もなかった場所に突如として現れた観覧車は、まさに圧巻としか言えなかった(実際には長い時間をかけて造られたので、周辺地域の住民にとっては突如ではなかったが)。アジラフェルは思わず口を開いたまま上を仰ぎ見たものだ。
    周囲にはゴンドラ待ちの人間たちが多くいた。老人や子どもや恋人たちが、この街で1番高い場所に行けるのを今か今かと待ちわびている。この街にこんなに人が居たのかというほど長蛇の列が伸びていて、待ち時間も馬鹿にならないほどであったが、人々は皆笑顔で列をなしていた。そして自分の番、実際に街で最も高いところまで行って、ゴンドラから降りてきた人々の興奮した顔つきといったら!辺りは大切な存在と楽しい時を過ごした人々の愛に溢れていた。その時の居心地の良さはよく覚えている。
    その時アジラフェルもあれに乗ってみたいと強く思った。だが混みあっていたし、このまま人間を見続けたいという気持ちが勝ったので、その時は彼らが天国に少しだけ近づける場所に運ばれていくのをただまったりと眺めていた。

    今や観覧車は錆び付き、人間も滅多に寄り付かなくなってしまった。
    仕方がないとは分かっているが、あの時の感動を昨日のことのように覚えているアジラフェルは、少しだけ寂しく思った。

    ところで、いつ無くなってもおかしくない観覧車が今の今までしぶとく残っていられたのは、ちょっとした奇跡のおかげである。
    『またいつか来よう』
    ある天使がそう思っていたが、少し読書をして世界を救っている間に観覧車は随分古びてしまった。ランドマーク的な物として扱われていたこれが失われてしまうのは惜しいと考えた天使は、いつか自分が乗りに来るから、せめてその時まではこのままでいて欲しいと願い指を鳴らした。
    それなりの時間が経つと、街の開発はかなり進んだ。至るところに高いビルがそびえ立ち、中にはユニークで近未来的な形の建築物もできた。そんな中、錆びていて色々な意味で危うい雰囲気を纏った観覧車は、もうこの街では浮いてしまっていた。動いているのを見たことがないという人、なぜ取り壊されないのか不思議に思っている人も多くいただろう。潮時だった。
    そういうわけでつい先日、アジラフェルは数十年前と同じように指を鳴らした。
    観覧車の解体はすぐに決まり、跡地にマンションが建つことも次いで決まった。解体日が来週の土曜だと聞いたアジラフェルは、いよいよ観覧車に乗るためにクロウリーを伴ってここに現れたというわけである。


    「だいたい、壊れるのが嫌ならずっと奇跡をかけたまま放っておけば良かったんだ。廃れた観覧車が不穏な音立てて回りまくってるのも、まあ悪くないだろ」
    硬い座面にうんざりしたクロウリーが身じろいだことで、またゴンドラが悲鳴をあげる。

    「そういうわけにもいかない。形あるものはいつか壊れる。どんなものも永遠に形を留めておくことはできない。この観覧車だって例外じゃないんだ」
    「そんなのは俺たちの裁量次第だろ。お前は妙なところで頑なだ」

    突然「観覧車に乗ろう」と連絡をしてきた時もそうだったとクロウリーは言う。
    初めは嫌だとすげなく断った。
    なぜって行く理由がないからだ。クロウリーだって空は飛べるし、アジラフェルのように観覧車自体に思い入れがあるわけでもない。小さな箱の中でゆったり高まる景色を楽しみながら談笑なんて、いつも最高速度でロンドンを駆け回っているクロウリーからしてみれば、まったく興味をそそられるものではなかった。柄でもないし。
    しかしアジラフェルはしつこかった。「案外悪くないはずだ」とか「あれは小さい部類だから時間はとらない」とか、それはアピールポイントなのか?といった内容で力説してくる。何がそんなにアジラフェルを突き動かしたのかその時は理解できなかったが、とにかくクロウリーが今こうやって箱に閉じ込められている事実が彼がその後折れざるを得なかったということを示している。クロウリーには決してそんなつもりはないのに、なんやかんかアジラフェルの頼みにクロウリーが応じるという流れができてしまっているのだ。1度でも振り切れればまた変わるのだろうが、今のところそれは叶っていない。

    クロウリーの言葉にアジラフェルは少し不満そうな顔をしたが、それだけだった。どうせ言い合ったところで意見はまとまらないし、そもそも後の祭りだ。小さな箱の中で2人きりでいる今、わざわざ気まずい空気を作る必要も無い。アジラフェルはそれが分かっているから口を噤んだのだろう。クロウリーもその点に関しては同意である。
    コホン。天使が小さな咳払いをひとつ。

    「…ところで、そろそろ頂上だろうか。だいぶ高いところまで来た気がするが」
    「おいまだ5分も経ってないぞ」
    「そ、そうだったかな?外から見るとそうでもないけど、意外とゆっくりなんだな」

    実にせっかちな天使だ。マイペースともいう。いつだって、この天使は自分の道を突き進んでいる。
    だが、今日はすこしばかりそわそわしているなと、朝からクロウリーの感じ取っていた疑念が確信に変わる。
    最初の違和感は、朝電話が来てから渋々車を走らせ、本屋のドアを開けた時だ。なんとアジラフェルはクロウリーが来る前から既にコートを身にまとっていて、出掛ける準備を整えていたのだ。普段のアジラフェルがとろいという話ではなくクロウリーが速すぎるわけなのだが、彼はいつも常人にはありえないスピードでアジラフェルの元に駆けつけるので、クロウリーが本屋に到着する時、たいていアジラフェルは読んでいた本を片付けたり、窓を閉めたりしている。それが今朝はクロウリーが「来たぞ」と本屋に足を踏み入れた瞬間、アジラフェルはなぜか入り口に佇んでいて、「来てくれてありがとう。じゃあ行こうか」と来たばかりのクロウリーの腕を外に引っ張ったのだ。
    正直その時は腕に触れる手に気を取られていたので何も言えなかったのだが、とにかく今日のアジラフェルはどこかおかしい。

    (何を企んでる?)

    ベントレーに乗っていた時もだし、観覧車に乗り込んでからは特に顕著だ。落ち着きがなく何度も椅子に座り直している。急かすのはクロウリーの専売特許であるというのに、どうにもらしくない。

    「おい天使」
    「なんだ?」
    「お前、何か言いたいことでもあるんじゃないか?」
    「へえっ!?」

    アジラフェルは分かりやすく動揺し、しかも狭い箱の中で後ずさるような仕草をしたせいで、稼働するだけで不穏な音を鳴らしていた観覧車がまたイレギュラーな音で悲鳴を上げた。
    ゴウゴウ。
    ギイギイ。
    まさか落ちはしないだろうが、それにしても老朽化が進んだ観覧車だ。よく動いているなと感心すらする。もっとも、アジラフェルとクロウリーが乗っている時点で観覧車は動くし落ちることも決してしないのだが。
    アジラフェルは恐ろしいものを見るような目でクロウリーを見つめた。

    「悪魔って読心術とかも使えるのか?」
    「俺の場合、お前に限って言えばそうかもな」
    「そうか……」

    どうにも歯切れが悪い天使だ。また何かやらかしでもしたのだろうか。もしくは言いにくい頼みごとでもあるのか。『クロウリー、さっきはああ言ったけどやっぱりこの観覧車を残したくなってしまった。…君の奇跡で』とか『実は高いところ苦手なんだ今すぐ降りて昼食を食べたい』みたいなことを言い出すのだろうか。
    しかし、アジラフェルが口にしたのはクロウリーの予想を遥かに越えたものだった。

    「あーほら、観覧車のてっぺんと言えば、あの。あれだなと思って。その、ほら…な?」

    アジラフェルは眉を上げてウンウンウンウンと頭を縦に振り、クロウリーに理解を求めた。ぎゅ、とクロウリーの眉間に皺が寄る。

    「……観覧車のいちばん高いところでキスをしたら一生ハッピーでいられるってジンクスか?信じてたら悪いがそれは嘘だぞ」
    「それくらい分かってる!……というか知ってたのか」
    「お前は知らないかもしれないがかなりありきたりだ」

    驚く天使を前におくびにも出さないが、内心クロウリーは激しく動揺していた。
    なぜ、なぜアジラフェルはこのタイミングでそんなことを口にしたのか。クロウリーと2人きりで観覧車に乗っている時に、人間たちが作り上げたくだらないジンクスを切り出すだなんてどういった意図があるというのか。サングラスをしているのをいいことにアジラフェルの顔をじっと見てみるが、いつまで経っても彼の心の内は読めなかった。当然だ、クロウリーは読心術など会得していないのだから。突拍子のない発言の意味など感知できるわけがない。しかし、アジラフェルが次に何を言わんとしているかは直感で分かった。

    「……なあ、」
    「断る」

    クロウリーは今日アジラフェルが電話をかけてきた時と同じように提案を拒んだ。厳密には提案される前だったが、この流れで好奇心旺盛な天使が言うことなんて、手に取るように分かる。
    クロウリーの言葉にアジラフェルは目を剥いた。

    「まだ何も言ってない!」
    「言われなくても分かる。お前も人間みたくロマンティックなキスしたいって言うんだろ。改めてもう一度言う。却下だ。いきなり観覧車に乗りたいなんて言い出したと思ったら……そういう小説でも読んだのか?お前は空想の物語に影響を受けすぎだ」

    にべもない言葉はアジラフェルをムッとさせた。簡単に了承を得られるとは思っていなかったが、ここまで取り付く島がないのも想定外だったのだ。クロウリーはなんやかんやアジラフェルの言うことを聞いてくれる優しい悪魔だし、実際今日も文句を言いながらもここまで来てくれたのだから、キスだってしてくれるだろうというのが算段だった。まさかこちらが切り出す前に振られるなんて、クロウリーは余程アジラフェルとキスをしたくないらしい。

    (前は自分からしてきたくせに!)

    アジラフェルは一度だけクロウリーとしたことがあるキスを脳裏に蘇らせていた。しかしながら、観覧車でのキスがロマンティックなものであるなら、過去アジラフェルが経験したあれはその対極にあると言っていい。なにせ口喧嘩の末に胸ぐらを掴まれ無理やり唇を合わせられたのだから。しかもその後に別離が待っているとなればもう最悪だ。正直思い出したくもない。
    あの出来事はクロウリーにとっても苦々しい記憶に違いないらしく、こうしてまた2人で過ごせるようになってからもあの時のキスには暗黙の了解で触れたことがなかった。
    だが、アジラフェルとしてはその記憶を上書きしたい所存であった。キスとは本来幸せなものだからである。あんな、思い出すたびに胸が軋むようなキスはまったくもって幸福とは言い難い。悲しい記憶は幸せな記憶で上書きして然るべきだ。そんな時に本で読んだ観覧車のジンクスと、それからこの観覧車のことを思い出した。
    思いついた時は名案だと思った。己の賢さを褒めたたえたし、なぜ今まで実行してこなかったのかという気持ちにすらなった。であるのに──

    「いいか、キスなんていうのは言わば雑菌の交換だ。それを、何を思ったのか人間たちが好きな相手やそうでもない相手と前戯としてやってるんだ。快楽のためにな。俺たちには関係ない」

    なんという言い様だろう。キスに恨みでもあるのかと思ったが、それは愚問だった。

    「君は極端すぎる。口づけをそんな悪し様に言えるなんて驚きだよ」
    「事実だ」
    「〜〜ッでもじゃあなんで君は!」
    「おい、待て!」
    「なんで君は私にキスをしたんだ!?前の!あれは前戯だったのか?それか私に虫歯にでもなってほしかったのか?違うだろ?」

    サングラスを外して頭を掻きむしったクロウリーは「ううう」と低い声で唸る。

    「ああもう最悪だ!なんであれを蒸し返すんだ!あの時のことはお互い様だろ!?お前はわけが分からないことを言うし、俺も正気じゃなかった!」
    「その通り!あれは最悪だった!これまで地球で過ごした中でも特に思い出したくない記憶さ。だって、あの時のことを思うだけで当時の悲しい気持ちも胸に蘇ってくる」
    「だったらッ……」
    「君とあんな風に別れることになったのは本当に悲しかったさ。なるべく考えないようにはしてるが、今こうして一緒に居ることができていても、過去ああいう出来事があったんだという記憶は残る。無かったことにはならないんだ」
    「……」
    「だから今キスがしたい」
    「なんでだ!」

    クロウリーからしてみればまるで脈絡がなかった。アジラフェルの悲痛な顔を見てクロウリーも離れていた期間の胸の痛みをぶり返させていたところであったのに、突然話が飛躍し過ぎてはないか?さっきまで話をしていたのとは別人じゃないかと疑うほどである。

    「すまないが実のところ観覧車は口実なんだ。クロウリー、私は上書きをしたいんだよ」
    「う、上書き…?」

    『上書き』という言葉でクロウリーはなんとなくそわっとしたが、アジラフェルは気づかなかった。

    「あの時のことを思い出して未だに気持ちが沈んでしまうのは、その記憶を悲しいものとして完結させてしまっているからだ。今はこんなに幸せなのに、あの時の私が報われていない気がしてならない。幸福な今と結びついていないんだ」

    クロウリーはアジラフェルの言いたいことがなんとなく理解できた。ようはあの時の本屋での出来事を思い出して悲しくはなるが、でも「その後にちゃんとしたキスをした」から決して悲しいではないと、そう思いたいのだろう。クロウリーはあの出来事を思い出さないという、逃げともとれる姿勢をとっているが、アジラフェルは根本からの解決を望んでいるのだ。なるほど、アジラフェルらしいとクロウリーは思った。

    「それで、してくれるのか?」

    一方アジラフェルはというと、押し黙ったクロウリーの様子から「いけそう」という予感めいたものを感じ取っていた。まったく了承する気がないのなら、今頃この悪魔はゴンドラから姿を消していてもおかしくない。こうして不機嫌そうながらも考える素振りを見せているということは希望があるということだ。そしてこういう時はたいてい、彼の中の天秤はアジラフェルの望みを汲む方に傾くのである。
    ふー…っとクロウリーはため息とはまた違う息を吐いた。

    「いいか。言っとくが俺は虫歯なんてないし、仮にあったとしてお前に虫歯ができるわけないだろ。虫歯がある天使だなんて聞いたことない」
    「虫歯?それはさっきの話だろう。結局キスはしてくれるのかっていう……」
    「ただ!あの時は……ああすればお前の気が変わってくれるかもって本気で思ったんだ。ただのキスに馬鹿な望みをかけてたのはむしろ俺だ。人間たちが観覧車のてっぺんでキスをして『一生一緒にいられるように』って願うのと変わらない。本当に馬鹿だった」
    「クロウリー……」
    「だがまあ、もう既に1回そんな馬鹿なことしてるんだし、1回も2回も別に変わらないかもな……」

    ぱああっとアジラフェルの顔は輝きを帯びた。

    「それはOKということだな?ああ、ありがとうクロウリー!実はあの時のことがずっと気になって仕方なかったんだ」

    弾けんばかりの笑顔を惜しみなく与えられたクロウリーは、この顔を見れるんならまあいいか……という気持ちになった。なんやかんや言っても、結局は目の前の天使には敵わないのだ。
    「それじゃあ失礼して」と妙な畏まり方をしたアジラフェルはクロウリーの隣りに腰掛けた。ギシリ。また箱が小さく揺れる。

    「待て、随分景色が下がっていないか?もういちばん高いところを過ぎてしまった!意外と早いな」

    さっきと言ってることが真逆だぞせっかちな天使さん。クロウリーは声に出さずに思う。

    「観覧車は口実と言ったが、せっかくなら願掛けも掛けててっぺんでしたいと思っていたんだ。なあもう1周しな……んっ」

    天使と悪魔を乗せた観覧車は、その後もしばらく回り続けた。
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    kan_mi88

    MOURNING一応作品として締めてはいますが、界隈やその常識、空気感に全く明るくないので没になったクロアジです。(一般人×アイドル)
    内容としてはただお話してるだけだけど……。
    お前は完璧で究極の「アイドルだ」
    「……悪い、なんだって?」
    「今はアイドルをやっているって言ったんだ」

    男が2人、喫茶店の日当たりの悪い席で密かに会合を果たしていた。漂う空気は楽しいものとは言えず、かと言って重苦しいというほどでもなかった。それぞれ手元にはコーヒーのマグと紅茶のカップがある。
    コーヒーに口をつけたのは、座面にだらしなく腰掛けている男だった。男は綺麗な赤髪を整髪料でつるりと撫で付けていて、なぜか室内にもかかわらずサングラスをかけている。黒いジャケットとパンツは彼の体躯のスラリとした印象を強めていた。
    それに対し、紅茶を飲んでいるもう一方は黒い男とは対極にある男だった。全体的に白っぽく、服は不潔というわけではないが大事に着古されたのが分かる程度にくたびれていた。金髪はクリーム色のキャップに押し込まれ、ライトグレーの上着に包まれた体は少々ふくよかだ。マスクのせいで顔の大部分が隠れているが、唯一見えている目元からは柔和そうな人柄が伝わってくる。そして彼は、紅茶を啜る度にマスクをずらしてまた戻すという面倒な作業を行っていた。
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