変装 試験期間でもない放課後、図書室は閑散としていた。新たな本との出会いを求めて棚のあいだをゆっくりと歩き回る生徒の姿や、返却や貸し出しの手続きのためにカウンターへ並ぶ人影はまばらだ。大きな長机が並ぶ閲覧スペースや自習コーナーも、ところどころにしか生徒がいない。ゆっくりと参考書のページをめくる音や、咳払いをする音なんかが、遠くの方から遠慮がちに聞こえてくる。
校舎の端の方に位置している図書室はひっそりとしているけれど、緊張感を強いるような静けさじゃないのが気に入っている。目の前のことに集中できるし、勝手知ったる空間は居心地がいい。こっそり伸びをしてから、もう一度手元の資料に目を落とした。
「やあ。随分と熱心だね」
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