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    asaki

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    asaki

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    本日は七夕です。
    七夕を色々調べたところ、諸説アリアリだったのでごった煮にしてイチャイチャさせました。七夕と見せかけた、七夕はほぼ関係ない話です。

    #笹仁
    sasahito
    ##笹仁

    【笹仁】The rendezvous is on Sirius.「へぇ、これは思った以上にきれいだね」
     仁科は美しく染まった爪の先を見つめて、そう呟いた。
    「まだそのままでいて、乾いてないから」
     弓原はネイルをしまいながら注意を促した。
     表面は乾いているように見えるが、触ってはいけないのだそうだ。
     爪の根元から先端へ、うっすらとシアーなグラデーションになった赤い爪は見ているだけでなんだか心が躍る。光にあてるとちゅるんとした光沢があって、微細なラメが繊細に輝く。いくらでも見ていられそうだった。
     お試しで弓原に塗ってもらったのだが、これは癖になりそうな予感がする。



     発端は"七夕の夕べ"という演奏会に出演することになったことだ。
     七夕祭りの中の催しの一環で、スターライトオーケストラが演奏する。学生オケなので制服での参加だが「なにか七夕らしいことがしたい!」と朝日奈が言い出すのは必然だった。
     スターライトオーケストラも星に関わりのある名前だし、星に関するものを身に着けたらどうかという話でまとまったはずなのだが。七夕を調べつくしたらしい朝日奈は、弓原にネイルを塗りたいと申し出た。
    「西南アジアでは爪を染めるそうです!」
    「それ、本当~? 眉唾っぽい」
    「全員、塗ってみたらどうでしょうか!」
     なるほどそっちが目的か、と弓原が溜息をつく。
    「僕は構わないけど、塗らせてくれない人が多そうじゃない?」
     きちんと手入れをして塗り終わるまで時間がかかるのだと説き伏せてみるものの、朝日奈は折れない。キラキラとした眼差しに気圧されて、弓原は「しょーがない」と白旗を上げた。
    「コンミスがちゃんと説明して。僕だけでは手が足りないから、コンミスと香坂さんにも塗る側の人になってもらうよ。あと、色は僕の指定に従って」
    「凜様! ありがとうございます!」
    「そうそう、もっと感謝して」
     自慢げな表情で笑う弓原は、実のところ楽しんでいるのだろうなと思う。
    「それでね、実は衣装もあるの」
    「は? そんな話聞いてないけど」
    「俺の伝手でちょっと、ね」
    「仁科さん、コンミス甘やかさないで。仁科さんだと大抵のこと叶えられちゃうんだから」
     仁科の伝手で、衣装制作をしている人から七夕に使えそうな衣装を借りることができた。
     見た目が合わなければやめようと思っていたが、色合いがスターライトオーケストラにぴったりだったのだ。正装のチーフと似た青色、衿も同じ色で揃えられている。背も無地でシンプルすぎる見た目だが、その分自由が利く。
    「法被らしいんだけど、こう前を合わせて華やかな帯や紐で結んだらそれっぽいと思わない?」
     着物のように前を合わせてしまえば、法被だとは分からない。腰回りを覆う程度の長さがあるので、衣装としても映えるだろう。
     祭りの中の催しなのだ。浮かれた見た目でも、お祭りであれば文句は言われまい。
    「なので、凜様にはそれに合うネイルをお願いします!」
     一杯食わされたという顔で弓原がこちらを見てくるので「ごめんね」と視線で謝れば、理由を察したらしくやれやれと溜息をついていた。弓原が想像した通り、朝日奈に相談されて動いているのである。
    「ほんっと、みんなコンミスに甘いんだから」
     そう言う弓原も楽しそうに笑顔を浮かべていた。



     朝日奈は全員を説き伏せ、見事ネイルをさせることに成功した。
     当日までに順次ネイルを塗っていくことになったのだが、これがまたなかなか上手くいかない。
     ネイルは脆い。激しい運動をしたら、爪の先端が剝げるのは当たり前である。
    「あのさぁ、僕のいうこと聞いてた?」
    「う、ごめんなさい……」
     三上に密告された赤羽は何度目かのお小言を食らいながら、弓原にネイルを直してもらっている。今日は部分修正で許されているようだ。オレンジ色のポップな色合いが赤羽に似合っているのだが、濃い色のため粗も目立ちやすい。
     仁科は乾くまでの間、弓原がネイルを塗っていく様を見ていたが慣れているだけあって手際がいい。
    「へー、仁科の色もいいな」
     同じく乾燥待ちの桐ケ谷が仁科の爪を覗き込んでくる。
     桐ケ谷はシアーなエメラルドグリーンのグラデーションで、一部の爪に金のスタッズがついていた。
    「桐ケ谷くん、それ自分でやったんでしょ? すごいよね」
    「見よう見まねでな。弓原にきれいに手直しされたけど」
     トップコートとスタッズは弓原がやったのだと笑って教えてくれた。
     朝日奈と香坂にも手伝ってもらっているとはいえ、最終的な確認は弓原が行っている。口では文句を言いつつも、やはり徹底して美意識が高い。
    「仁科さん、これよろしくね」
     仁科の目の前に、ドンといくつかのアイテムを並べる。最後にこれ見よがしに藍色のネイルポリッシュを置かれて、仁科は嫌な予感がした。
    「弓原くん、これは?」
    「笹塚さん用。呼んでも全ッ然来ないから、仁科さんにお願いする。やり方はさっき実演して見せたから、大丈夫だよね?」
     仁科を担当したのはそういう魂胆があるからだったのか。これは先日の意趣返しかと思いながら「上手くできないかもよ?」と暗に無理だと告げてみる。
    「そんなんで誤魔化されないから。トップコート塗る前に呼んで。僕がチェックする」
     さすが弓原、抜け目がなかった。ついでに「今日中にね」と言われ、仁科は仕方なく頷くことしかできなかった。



     笹塚を早々に風呂に押し込めた。仁科も就寝の支度を済ませた後に、笹塚の部屋に行くと机の上に置いてあったネイル用品を眺めていた。
    「それなに?」
     ネイル用品ではなく、仁科の艶やかな爪を見ながら聞いてくる。やはり朝日奈の言葉に適当に返事をし、朝日奈はこれ幸いと笹塚の相槌を了承としたのだと分かる。朝日奈も笹塚の扱いを心得始めているようだった。
    「きれいだろ? 弓原くんが――ん、っ」
     仁科の指先にちゅっと唇が触れる。急なことに驚いていると、笹塚の指先が仁科の爪の形を確かめるように指の腹で擦っていく。見た目と触感の差異を確認しているようだった。
     仁科はくすぐったさを堪えて手を放す。
    「ほら、お前もやるから」
    「俺も?」
     そうだよと告げて、笹塚をベッドに座らせた。まずはその髪を乾かす必要がある。
     有無を言わさずドライヤーをかけた後、笹塚の両手――爪に向かってドライヤーを吹きかけた。水分が残っていると気泡が出ると弓原プロからの忠告があったため、水分を飛ばすためだ。
    「いいかな。これから塗るから、おとなしくしてて」
     仁科はデスクの椅子を引き寄せて正面から笹塚の爪を塗ろうと試みるが、手を掴もうとするとするりと避けられる。
    「おい、遊ぶな」
    「それやってる間、何もできないんだろ?」
    「そうだよ。弓原くんのチェックも入るから、真面目にやらせろ」
    「それなら、こっち」
     笹塚は、自分の脚の間を指さして「座れ」という。
    「やだよ、やりにくい」
    「お前がここに座ってやるなら、俺は大人しくお前に従うけど?」
     にやにやと悪巧みする気満々の顔で言われてもーーとは思うが、大人しく従ってくれるのであれば背に腹は代えられない。それに実際塗ってもらったときに分かったが、両手に塗られてしまうと意外と何もできないのである。
     気を付けていてもいつの間にかよれたり、剝がれたりする。南はそれで弓原にじっとしているようにと口を酸っぱくして注意されていた。
    (ま、大丈夫でしょ)
     仁科は笹塚の脚の間に入り込み、少し狭いのでもう少し下がるように告げた。深めに腰かけ、笹塚の左手を取ってまずは状態のチェック。次にキューティクルリムーバーやニッパーで甘皮処理をし、爪やすりで形を整える。日頃、笹塚の爪を切る機会の多い仁科は、この程度であれば簡単にこなせた。さすがに慣れない甘皮処理を無理なく行うのは骨が折れたが。
    「次、右手」
     真剣に左手の処置に取り組み、右手に取り掛かる。
     キューティクルリムーバーを塗っていると、笹塚の左手が仁科の左腿をするりと撫でた。前腿から内腿の際どいところまで撫で上げられて、思わず「笹塚ァ」と低い声が出た。
    「大人しくしてろって。危ない」
     ニッパーを使っている時だと、間違って深く切ってしまいかねない。仁科のしていることが見えているのだから、そのあたりはきちんと自衛してほしい。
    「危なくないときにやってる」
    「はいはい、それでもやめてくださいねー」
     軽くいなして、右手も慎重に処置を終えたら一旦アルコールできれいに液剤をふき取った。
     仁科より大きくしっかりした笹塚の爪は、塗る範囲が広いのでネイルが映えそうだった。
     弓原から渡された笹塚のネイルポリッシュは藍色。よく見ると星空のようにきらきらとラメが散っている。仁科と同じシアーなタイプで、初心者が塗っても失敗しにくいと言われた。多少の筆跡などはトップコートで誤魔化せるので、グラデーションを意識して塗れとの助言もある。
     まずはきちんとベースコートをすべての爪に塗っていく。これは一度塗りでいいらしい。
     笹塚は仁科が四苦八苦しながら塗っている様を見つめているようだった。慣れていないものを見られているというのは緊張する。
     正面からよりも塗りにくく、仁科は笹塚の手を抱えるようにして慎重に塗った。
    「ちょっと乾くまで休憩」
     ふうと息を吐くと、背中がとんと笹塚の胸板に当たった。
     笹塚は手を宙に浮かせた状態だったので、腿に置くくらいだったら問題ないことを告げるとなぜか仁科の腿に置かれた。
    「お前、さっきからなんなわけ? 誘っても今日はダメだからな。ネイル失敗したら弓原様の雷が落ちるぞ」
     冗談めかしてそう言うと、至極真面目な声で「俺が手を使わなければいい」と言い出した。
    「ほんとに?」
    「ほんとに」
     驚いて聞き返せば、そのまま鸚鵡返しで返ってくるものだから仁科は声をあげて笑った。
    「ははっ! 残念だけど、これで我慢して」
     体を捻り、笹塚の頬に手を滑らす。そのまま首の後ろまで手を伸ばし、引き寄せて口付ける。触れたとこからじわっとえも言われぬ感覚が体に広がった。
    「もっとする?」
    「俺が満足するまで」
     それって際限がなさそうだなと思いながら、しばし二人で口付けに酔う。
     引き寄せた後は、もう一方の腕も首に絡ませた。両手が使えない笹塚へ甘えるように戯れに触れて、啄んで、目と目が合えばお互いゆるりと口が開く。どちらからともなく舌を絡めて貪れば、体が熱くなるのは必定だった。
     仁科の腿にかかる笹塚の手に、力がこもる。抱きしめる衝動を抑えているようで、思わず「今ならいいよ」と言ってしまいそうになった。ーーこれ以上は、まずい。
    「も、……おしまい」
    「明日の朝に塗ればいいだろ」
    「弓原くんが待ってるから、だめ」
     仁科も欲望に身を任せたくなっているが、弓原を待たせていることを考えるとなんとかブレーキがかかる。そもそも寮でこれ以上はしないと決めている。
    「……ここからが本番だから、邪魔するなよ」
     息を整えつつ元の姿勢に戻り、藍色の瓶を手に取った。
     まだ鼓動は早いまま収まる気配がない。きっと背中がぴったりとくっついていて、笹塚の鼓動も肌を伝って聞こえてくるからだろう。興奮冷めやらぬ音が仁科の体中に響く。
     ずっしりと右肩に重みが乗るので、顎を乗せられたのが分かった。恐らく仁科の作業を見たいのだろう。興味があるのか判断はつかないが、笹塚は未知のものには首を突っ込みたがるところがある。
    『一気にたくさん液を取ると失敗するので、足りないくらいがちょうどいい』
     弓原プロの言葉を参考に、笹塚の爪に夜空のグラデーションを作っていく。一度目では分からなかったが、塗り重ねると笹塚の髪色に近い藍の星空が現れた。弓原は上手い色を選んだものだ。
     相当な時間をかけて両方の指先に星空を宿すと、仁科もさすがに疲労困憊だった。後で落とせるとはいえ、やはりはみ出てしまうのは嫌だし、弓原のジャッジを受けることになると思うと試験に挑むような心地だった。
     マインで塗り終わったと報告を入れると、弓原から十五分後に行くと連絡があった。
     笹塚は自らの指先を興味深そうに眺めている。
    「面白い」
     光に反射してきらめく指先は、笹塚の琴線に触れたらしい。
     笹塚の手が慎重に仁科の手を持ち上げ、赤く染まっているそれと自らの藍色を見比べている。こうなると気が済むまで好きにさせておくのが良いだろう。無理なことをして剝げなければそれでいい。
     控えめなノックが聞こえて返事をすれば、弓原がやってきた。
    「仁科さん、こっちにいるなら言ってくれない、と――なにしてんの?」
    「え、えーと……?」
     そういえば弓原に笹塚の部屋にいると言っていなかった。だが、弓原は仁科と笹塚の様子を見てきれいな顔をファンに見せられないような表情に変えた。
    「仲がお宜しいのはいいですけどね。僕が来ること分かっててソレ?」
    「あ、はははは……」
    「仁科さんが甘いから、そこのクマが好き放題するんじゃないの?」
     文句は言いつつも、デスクの椅子の場所を調整すると「見せて」と笹塚の手を取っ捕まえて爪のチェックをしていく。
    「さすが仁科さん、よくできてる」
    「すごく時間がかかったけどね」
    「最初はそういうものだよ」
     弓原は持ってきた仕上げ用のトップコートを準備し、少しだけ思案すると赤いネイルポリッシュを取り出した。それは仁科の爪に塗られたものと同じものだ。
    「仕上げの前にね」
     笹塚の右薬指と左の中指の爪に赤をさっとひと塗りした。上からトップコートを塗るとちゅるんとした光沢が乗る。赤を塗ったところは、目立ちはしないがうっすらと紫を帯びたように見えた。
    「はい、出来上がり。完全に乾くわけじゃないけど、最低一時間くらいは置いてほしいかな。笹塚さんはお触り禁止だから」
     あとはよろしくねと弓原は用を済ませて去っていった。
     というか、素早い作業にすっかり忘れていたのだが――笹塚は、仁科を抱えた状態のままで。それをさも当たり前のように受け取られるのは非常に恥ずかしい、ということに今気付いた。
     ふしゅ~と赤くなって項垂れていると、うなじに触れる何かがある。
    「っ、だめ、だって……! 人で遊ぶな!」
     唇を寄せているのかと思うと、べろりと熱いものがうなじを這う。ビリと頸椎から背骨を伝って腰まで電流が奔った。
    「夏はベガ、アルタイル、デネブ。お前のこれは、シリウスだな」
     シリウスがなにかを知らしめるように、殊更強く吸い付かれてひくんと腰が疼く。
     演奏会には髪を上げようと思っていたが、これではいつも通り下ろしていないといけないかもしれない。
    「シリウスは、冬だろ」
    「そうだけどな、」
     笹塚の腕が仁科の腰に巻きつく。爪は保護しなければいけないので、手首は曲げて触れないようにしているのがちょっと面白い。
    「待ち合わせ場所だから」
    「なにそれ」
    「フィンランドの七夕。天寿を全うした二人がそれぞれ別の星になる。二人はとても愛し合っていたので、」
     首筋に笹塚が擦り寄って来て、ふわふわとした髪がくすぐったい。
    「死んだ後も一緒にいたい」
     耳に注ぎ込むように囁かれ、耳たぶがやんわりと食まれる。耳の縁に沿って舌が這い、耳の裏の付け根をまた強く吸われた。
    「銀河に散らばる星を集めて橋を作り続けて千年後、シリウスの元で再会した」
    「素敵な話だけど――笹塚、変なことするな……!」
    「変なこととはなんだ。お前を愛でてるだけ」
     まさか本当に『俺が手を使わなければいい』を実現しようとしているのだろうか。笹塚の手は今のところ、どこにも触れず健気に弓原プロの助言に従っている。
    「俺たちはここにシリウスがあるから千年も待つ必要がないな」
    「笹塚、どうしたんだ?」
    「仁科、お前さっきからなんだ」
    「ロマンチックという言葉を知らないムードゼロのお前がそんなこと言ったら、驚くに決まってるだろ」
    「へぇ、今のをロマンチックと受け取るのか」
     耳元でくつくつと笑われると耳の奥に振動が響いて、身体中を震わせる。笹塚の低い声はずんと重く腰に落ちてきて、居心地悪く身じろぎした。
    「お前の為なら彦星にも、オルフェウスにもなるが?」
    「どっちもダメ男だろ……」
     笹塚が面白がってロマンチックな雰囲気の延長をしようとするが、例えがイマイチでロマンチックというものは即座に終了した。短い命であった。
     ダメ男とひとくくりにするのは良くないかもしれないが、彦星とされる青年はやむにやまれぬとはいえ天女の羽衣を盗んで隠した。オルフェウスは約束を守れず、永遠に妻を失った。それらになると言われても、仁科としては微妙である。
    「お前は、ーーお前のままがいいよ」
     仁科にとっての笹塚は唯一無二で、たった一人の男である。それが他のものに成り変わってしまったら、それはもう仁科の笹塚ではない。
    「仁科、キスしたい」
    「やだよ、」
     首を回して振り返ると、笹塚がじぃっと仁科を見つめてくる。
     さっきキスしたときからずっとそんな熱っぽい瞳をしていたのだろうか。仁科が真剣に爪を塗っている最中もそうだとしたら、堪らない気持ちになる。
    「お前、止めてくれないじゃん」
     体を無理に捩じって、笹塚の左肩に右手を添えて力を込める。体当たりするような形でぐらりと笹塚の身体を傾がせれば、すぐにどさりとベッドに倒れた。
    「爪、気を付けろよ」
     笹塚の腕が解けたので念を押しておきながら、仁科は笹塚の身体の上に四つん這いの状態で覆いかぶさった。笹塚の顔の横に両手をつけば、まるで壁ドンのようである。いつもと立場が逆転した視界に仁科は口元を緩めた。
    「お前はお触り禁止なんだから、俺がする」
     そう言って唇を落し、やんわりと下唇を食む。弄ぶようにちゅっともどかしいキスを繰り返して挑発するが、笹塚は両手を広げて手首だけは布団に触れないように頑張っていた。
     触れられないのが不本意だという拗ねた表情の笹塚が珍しい。
    「仁科、覚えとけ」
    「ん、覚えとく。我慢したご褒美、あげないとね」
     弓原に『仁科さんが甘いから』と言われたが、恋人タイムで甘やかしてしまうのはどうしようもない。普段ワーカホリック気味なので、それくらいは許されたっていいじゃないか。
    「じゃ、笹塚――キスしよっか」 
     にっこりと微笑むと、触れられない地獄を味わう恋人にアメのように甘いムチをふるった。



     後日、"七夕の夕べ"は大成功した。
     衣装をまとって色とりどりのネイルを施したことで、子供たちに大人気だった。演奏後もそれぞれが囲まれて「弾いてみせて」とねだられてしまったが、主催者にはとても感謝された。
     自由時間で屋台を巡るときも、行く先々でネイルを褒められるものだから癖になりそうだった。

     ネイルが剥げるまでの間に、仁科は笹塚にご褒美をあげたのだがそれはまた別の話。

    fin.
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    Colored Notes#1

    「コンミスが俺たち二人に用事ってなんだろうな」
     眠たげな眼で隣をのそりのそりと歩く笹塚に声を掛けると、眼鏡の奥が唐突に思い出したように、剣呑な目つきになった。
    「……むしろ俺はさっきの全体錬の時のカデンツァに対して、朝日奈に言いたいことたくさんあるけど」
    「あのな。それは一ノ瀬先生からも、まずパート練に持ち返るって話になったただろ。蒸し返さずに今はコンミスの話をよく聴けよ?」
    「善処はする」
     スターライトオーケストラに参加することを決めて、笹塚と共に札幌と横浜を行き来するようになって数か月がたち、短期間での長距離移動にもようやく慣れて、週末は横浜で過ごすことが当たり前になってきていた。土曜日の今日も朝から横浜入りをした後、木蓮館での合奏練習を終えて、菩提樹寮へと向かう所だ。首都圏での拠点がスタオケ加入と同時に自動的に確保されたのは、笹塚と俺にとっても有難い話だった。
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