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    takana10gohan

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    再録クルデュ、オメガバ④ベビたん産まれるの巻。
    既刊書き下ろし分の再録です。書き下ろし以外の話はプライベッターです。

    春を待つ日々 すっかりデュースのお腹も大きくなった頃、後期つわりもある程度落ち着き、日々は穏やかに過ぎていた。お腹は重くて動きにくさもあるが、運動も兼ねて極力歩くようにして授業にもしっかり出ている。トイレが近いのが難点だが仕方がない。
     たまに感じる胎動を愛しく思いながら、デュースはそろそろ出産に備えた準備を始めていた。一般的に男性のオメガは女性に比べて妊娠期間がやや短い傾向にある。骨盤の開きがどうしても女性に比べると狭くなりがちで、胎児の頭が通りにくいのからだ。
     告げられた予定日まではあと2週間ほどで、オメガ男性の出産に対応できる島外の大きな病院への入院が決まっていた。来週には入院となり万全の体制で出産に臨むかたちになる。普通分娩で予定は組まれているが、男性オメガは総じて難産になりやすく特に初産の際には緊急で帝王切開の可能性もあった。番のアルファであるデイヴィスも予定日の前後にはすでに休みを入れており、可能であれば立ち会い出産をと話していた。
     自宅の一室はベビー用品で溢れ返り、すでにベビーシッターやハウスキーパーなどの手続きも進めている。デュースが過ごしやすいように家中の段差を消して回ったり、これを機に家電をより使い勝手のいいものへ買い替えたり、アレもコレもとデイヴィスが言い出すのでデュースはおかしく思いながらも幸せだった。僕って愛されてるんだな、それに子供に対して親バカになりそうだ、なんて思う。教師として生徒を『仔犬』呼ばわりして「躾の時間だ」なんて言うけれど、子供にはどう接するんだろうか。デュースの父親は幼い頃に他界してしまっているし、よその父親と関わることも少なかったので、父親とはこうあるべき、というものが分からない。デュース自身もまだ若いし、親になる実感というものがしっかり湧いているわけではなかった。不安もあるし、分からないことだらけだ。そんなことを番に話せば、
    『俺達はこれから初めて親になる、つまり入学したての仔犬も同然だ。得られる支援やサポートは全て使うぞ。不安があるなら誰でもいいから人に話せ、抱え込んでもろくなことにならんからな』
     行政のパンフレットで給付金やサポート制度のチェックをするデイヴィスのちょっと家庭的な部分を知ってデュースは驚いたりしたのも懐かしい。金でどうにでもなる、とか言い出したらどうしようなんて思ったりもしていた。内緒の話だ。

     ふわふわとした幸せな日々の下では、どうしようもない危機感というものも潜んでいた。男性オメガは難産になりやすいという点だ。デュースも、勿論デイヴィスも納得しているが命のリスクというのはつきもので、特にデュースはまだオメガとしても若く身体が成熟し切っているとは言い難かった。せめてあと2年というのは今更だが、時折デイヴィスの胸を苛む原因でもあった。幸いデュースも小柄というわけではないので、恐らく大丈夫だろうと医者は判断している。
    「万が一の時には、赤ちゃんを優先してください」
     この一言で一週間の喧嘩になったのも今ではいい思い出ということにしておこう。
     そんなこんなで、休みの日には入院の準備を着々と進めていた。数日分の着替え、暇潰しの雑誌やゲーム機、充電器、お小遣い。赤ちゃんのアレやコレ。ちっちゃな肌着をひろげて見ては胸がいっぱいになる。なんだか旅行の準備みたいだな、お腹を撫でながらデュースは荷造りを済ませた。足りないものはデイヴィスが持ち込んでくれるそうだ。

     アレ、とデュースが思ったのはトレインの授業を受けている時だった。お腹がやたら張っている、というかなんだか痛いような気もする。妊娠後期で今までもお腹が張ってちょっとした痛みを伴うことはあったが、それにしても…。
     そこまで考えて、次の瞬間デュースの顔がサッと青くなる。じわりと下着が濡れる感覚。突然のことで混乱したデュースは声が出ない。あれ、もしかして、これって。
    「………デュース、大丈夫?」
    「監督生……」
     俯いてノートを凝視するデュースを訝しんで、隣りで授業を受けていた監督生が声をかけてくれた。ちょっとホッとしたデュースは少し落ち着けて、笑いながら次の言葉を発した。
    「すまない、破水したみたいだ」
    「はああぁぁあぁ!?バカデュース、そういうのはもっと早く言えよ!!おかしいだろ!?」
     何も気にしてませ〜んとでも言いたげな顔で頬杖をつきながら黒板を見ていたエースのほうが声をあげた。声を荒げるエースに、周囲の生徒も、教師であるトレインの視線も集まる。
    「先生、デュースが破水したって…!」
     監督生の言葉にトレインも顔色が変わった。
    「すぐに病院へ移送する。クルーウェル先生と学園長には私から連絡を」
    「あ、僕歩けます。クルーウェル先生には僕からメッセージ送っておきますね」
    「歩けんの!?」
    「痛みは?」
    「まだあまりないです」
    「陣痛前に破水か…」
     あれよあれよと言う間にデュースは教室から連れて行かれてしまい、騒然とする教室の中に置いていかれたエースは、とりあえず親しい上級生や寮長へとメッセージを飛ばしておいた。


     デイヴィス・クルーウェルは久しぶりに薬品の調合を失敗した。2年生の授業中で、沸騰させた薬品の色が変わった瞬間にマンドラゴラの葉を5g、たったそれだけの簡単な過程。これ以降難易度の高い調合をスピーディかつ間違いなく適切に行わなくてはならない、その直前の本当に簡単な部分。
     念のためにと作業台の端に置いておいたスマホの画面がフッと明るくなり、中央にポップが浮かんだ。

    《デュース》
    破水しました

     沸騰したその薬品は時間経過で3度色が変わる。その一番最初の反応の時にマンドラゴラの葉を入れなくてはならないのだが、その文字が視界に入った瞬間デイヴィスは掴んでいた葉を離してしまった。あと10秒待てれば問題なかった。お陰で鍋からはポコポコとレモンイエローの煙が吹き出してしまい、キツいアンモニア臭に獣人の生徒が死にそうになりながら窓を開け放つ。
     丁度リドルのいるクラスだったので迅速に場は収まったが、教師であるデイヴィスはそれどころではない。スマホの文字を何度も確認する。何回確認してもそこには一言『破水しました』としか読み取れない。長いフリーズ期間を置いてからデイヴィスはスマホに飛びついてすぐさま電話をかける。
    「デュース、おい待て、本当なのか? は? もう病院に着く? 予定日はまだ2週間先…陣痛促進剤を使うだと? 俺もすぐに向かうからまずはステイだ。3分で着く、いいか医者が煩いだろうが話は俺が聞くからまずは大人しくステイしていろ!」
     手が震えて上手くスマホの通話を切ることもできない。ざわざわと騒がしくなる教室内に向けて、デイヴィスは「すぐに代理の教員を寄越すので全員大人しく席に座っていろ」と言い放つとあっという間に出て行ってしまった。あとに残されたのは調合の失敗した黄色い液体、ようやく薄らいだアンモニア臭、瀕死の獣人生徒たち、そしてほったらかしの生徒たち。
    「………なんだったんだ?」
    「あんな取り乱す先生初めてみたかも」
    「っていうか電話の相手って」
    「デュースってアレだろ、クルーウェル先生の番の1年生」
     ざわつく生徒たちの中でもリドルは冷静だったが、尋常ではない教師の姿に嫌な予感がしていた。寮生であるデュースは予定日を2週間後に控えていた状態で、ギリギリまで授業に出たいと今日も学園に出向いていたはずだ。漏れ聞こえた会話の内容からするに…。
     その時リドルのスマホがブーブーと震えた。授業中ではあるが今の出来事のこともあるのでそっと画面を覗き込むと、画面には一年のハートのトランプ兵の名前、そして『デュースが破水して病院に向かいました』。一段と騒がしくなる教室に、両隣の教室から苦情が来たのは言うまでもない。



     デイヴィスは言った通り3分後にはデュースの運ばれた病院へと辿り着いた。事前に知らせが来ていたお陰で名前を伝えるだけで番の場所まで案内してもらえた。処置室へと運ばれていたデュースと合流し、意外とケロリとした顔をしているデュースに少し肩透かしを食らう。急いで来たのであろう髪も服も少し乱れたデイヴィスに、デュースは嬉しくなった。チリチリとした腹部の疼きのようなものはあるが、今のところはなんとも言えない状況だ。
     医者の説明を掻い摘むと、陣痛前の破水はたまにあり、今回は妊娠期間も足りているので陣痛促進剤を使用した普通分娩で進めるということだった。
     一通り妊娠出産について調べてはいたが、不測の事態として実際に自分の身に起きるとなれば話は別である。内心は不安でいっぱいのデュースなのだ。思ったよりも冷静でいられたのは、周囲の人間が自分より先にテンパったり慌てたりするからだった。現に今はデイヴィスが医者を質問攻めにしている。
     とりあえず診察の後に促進剤の投与を行うことになり、デイヴィスは一度家に荷物を取りに帰ることになった。急なことで準備もなにもできていない。個室を取ることはできたので荷物が多くなってもいいだろう。それに学園の方にも連絡をしてデュースとデイヴィスの休みを前倒しにしてもらわなくては。役所にも行って申請が必要なものがいくつか。
    ご自慢の毛皮のコートを自宅に脱ぎ捨て、デイヴィスは奔走した。


     その時はあっという間に訪れた。
     促進剤を入れてから半日、しっかりとした痛みを伴う陣痛は規定の間隔でデュースを襲い、デイヴィスはデュースの腰や腹を擦ることしかできなかった。痛みには強いんで! なんて言っていたデュースだったが「痛いです、どんどん痛くなってる。正直舐めてました…」と陣痛の合間に零す程だ。最初の頃、デイヴィスからの無痛分娩の提案をデュースは断っていた。時間を戻せる魔法があったら間違いなく使う。
     そうして耐えること数時間後、分娩室へ移動したデュースは医者が近年稀に見るほどの安産で女の子を出産した。立ち会いを希望していたデイヴィスも一緒に分娩室へ移動し、看護士さんに「手を握ってあげていてください」と言われてこっそり自分の手に防御魔法と強化魔法をかけてからデュースの手を握っていた。そうでなければデイヴィスの手のひらは複雑骨折で緊急オペが必要になっていただろう。薄情だと思われようが背に腹は代えられない。
     デュースのほうも言葉では言えないほど頑張った。とんでもなく痛いし、いつ終わるかも分からない。体は熱いし汗は止まらない。今は息むな、今息んで、ほらもう少し、医者や看護師たちの声掛けに混じってたまに番のデイヴィスの声が聞こえる。何か言っているけれどデュースはそれどころではない。あまりの痛みに変なことを口走ってしまいそうだった(実際何か叫んでいたらしいが誰も詳細を教えてくれなかった)。
     ヤケクソ気味に力んだ瞬間、『あ、なんか出た』とデュースは思った。なんだか今までメチャクチャに自分の体を内側から押し拡げていたものが、一気にずるんと出ていった。他に何か例えようがあったと思うが、大変疲弊したデュースの頭では本当に『なんか出た』であった。
     痛みはまだ続いているがものすごい開放感を感じる。デュースが荒い呼吸を繰り返していると、ほにゃほにゃと小さい音が聞こえる。ようやく周りを見回すだけの余裕が出て、隣りで手を握っていたデイヴィスの顔を見ることができた。その瞳は何か一点を見つめているようで、じわりと目元に滲むものがあった。
    「おめでとうございます、少し小柄ですが元気な女の子ですよ」
     取り上げた医師たちがほにゃほにゃと声を上げる小さな命を、少し綺麗に拭ってからそっと見せてくれた。随分とちっちゃい。しわしわの顔に申し訳程度の髪。どっちに似てるなんて分からない。ただそれを見たデュースは「耳の形はデイヴィスさんに似てるかも」なんて呟いた。
     デイヴィスは言葉が出なかった。感極まってなんと声を掛ければいいのか分からなかった。しかしその感情は我が子を見て可愛いと思うより、出産に臨んだデュースに対する労いの気持ちより、まずつがいのデュースが無事だったという部分に割かれていた。
    「……お前が、無事で良かった」
     随分と小さい声が聞こえてきて、なんだかその声が震えているような気がしたけれど、デュースは何も言わなかった。
     ずっとこの人と繋がっていた。幼い頃から今に至るまで、ずっとどこかでこの人の存在を感じていた。番になって、家族になって存在はもっと近くなった。そして今、新しい命を授かって、無事に産むことができて、もっと強くその繋がりを実感している気がした。
    「…なんでだろう、うまく言えないんですけど、ありがとうございますデイヴィスさん」
     ずっと握っていたデイヴィスの手を引き、デュースはその手を頬へと擦り寄せた。

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    takana10gohan

    DONE再録クルデュ、オメガバ③巣作りについて。
    既刊の書き下ろし再録分です。書き下ろし以外はプライベッターです。
    幕間 ヒートの前になると、デュースはオメガの例に漏れず巣作りをする。本人は全然そのつもりはないらしいのだが、ヒートが近づくとデイヴィスの衣類に執着を見せるようになる。ヒートの直前ともなれば授業を受けることもできないので早めにデイヴィスと一緒に休暇に入るのだが、部屋中のクローゼットやキャビネットの衣類を引っ張り出してベッドに敷き詰めた。
     あまり器用ではないデュースの巣作りは、気に入った衣類を中心に鳥の巣のように丸く積み上げるタイプだ。デイヴィスは手持ちの服が多いので、デュースは満足いくまで服を積み上げることができる。ヒート直前の不安定なオメガの精神を満たすには十分な量だ。
     そんなデュースにデイヴィスはちょっと困っていた。デュースは本当に手当たり次第、服の値段なんてお構いなしに巣作りに使おうとする。基本的に値の張る衣類はデュースの巣作り行為を考慮して家以外の場所に外部保管しているのだが、数着ほど6桁マドルの服を巣材にされてしまった。一点ものでないのが救いだった。ちなみに匂いが強いもののほうがオメガの巣作りでは素材ランクが上なので、6桁マドルの服より肌着や下着のほうが巣作り中のデュースはお気に入りだったりする。ちょっとツラい。
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