約束『約束しようぜ、マグマ!いつかスパイダーライダーズとして一緒に戦うって』
『ああ。…約束するよ、ハンター・スティール』
男同士の約束。…そう言ったのはほんの数日前だったのに。
「…マグマ…なんで…」
…どうして彼は今、インセクター達と一緒に居るのだろう?
呆然と立ち尽くすハンターとは対照的に、マグマは酷薄にすら感じる笑みをその口元に湛えている。
「悪いな、ハンター。これも仕事なんでね。…恨むなよ」
言うと、マグマは左手を天に掲げた。
××××××
───数刻前、アラクナ城内執務室にて。
室内には兵士からの報告を伝えに来たイグナスと、アラクナの王子であるルメンの二人がいた。
「王子、南方の偵察隊から通信が入りました。インセクター達が不穏な動きを見せているとの事です」
「あー、そう。詳細は?」
別の書類に目を通しながら、ルメンは興味なさげに相槌を打つ。
…一見すると全くやる気がなさそうな態度だが、その実、彼が頭の中では様々な思いを巡らせている事をイグナスは知っている。
「…奴らは人間の傭兵を雇ったそうなのですが」
「ああ…ふーん、たまに居るね。嘆かわしい事だけど…力に屈するのも仕方がない」
「いえ、それが…スパイダーライダーのようなのです」
「…」
イグナスの言葉に、ルメンの瞳が細る。
インセクターに唯一対抗しうる力。それを持ちながら、インセクターに与しているのか。
「屈強そうな男性だと聞き及んでいますが…」
「…ふう」
「そのスパイダーライダーを伴って、街への侵攻を企てているようです。私とハンターですぐに向かいます。許可を」
「いや」
手を振ってルメンは立ち上がった。
「僕が出る」
「!では…お供します」
「いや」
「えっ?」
「僕とコロナで行く。視界に女の子が居た方が交渉は上手く運ぶものだよ」
「それ絶対に王子の気分の…いやコロナはまだ戻ってません!私が」
「ええ~…じゃあハンターでいいや」
「王子!」
「イグナス~。君には特別な仕事があるんだよ」
「えっ♪」
「これだ」
山の如く積まれた書類を差し、イグナスが呆気に取られている隙にルメンは扉まで走った。
「じゃあ後たのんだよ」
「ちょっ…読まずに全部承認しますからね」
「いいよ~。まかせる」
「王子っ」
ばたんっと扉が閉まる。
あとには、憤慨した様子のイグナスだけが残された。
「…本当に…!本当に全部に承認印捺しますからね…」
言いながら椅子に掛けて、イグナスは書類に目を通し始めた。
…イグナスが真面目に仕事するに違いない事は、ルメンにも判っていた。
そしてイグナスにも、ルメンが書類を押し付けたかっただけでない事が判っている。
(…交渉か…)
確かにイグナスとハンターが行けば間違いなく最初から戦闘になる。そして溜めた書類を押し付けられるのはイグナスだけだ。
ルメンはいつでも平和主義だ。思想は素晴らしいが、インセクターは話が通じる相手ではない。何度も失敗して、それでもルメンは何度でも、話し合いで事を納めようとする。
(…傭兵がスパイダーライダーとはな。金に目が眩んでインセクターに魂まで売り渡したか?精霊オラクルは何故そのような者を選んだのか…)
思想もなく命令を遂行するためだけに動く。インセクターよりむしろ、そちらが厄介そうだ。
(王子はまさか…倍額払うからうちに来て、みたいな事を言い出したりしないだろうか?言うかも…いや言うに違いない)
恐ろしい事に思い至り、イグナスは思わず身震いした。アラクナ城に傭兵を雇う余裕などない。信用ならない人間を城に引き入れるのも危険だ。大変な提案をする前に止めなくては。
奮起してイグナスは目の前の仕事に集中する。
…これを放って行くという選択肢は、彼の中にはない。
「スパイダーライダーが侵略の助けを?」
「うん、そう」
シャドウに乗って道すがらルメンから詳細を聞き、ハンターは目を丸くした。
「じゃあスパイダーライダーが二人もインセクター側に…。屈強な男で…傭兵か…」
数日前に会った青年…マグマの顔が何となく浮かんで、ハンターは思わず首を振る。彼は傭兵ではないのだが、ハンターにはもう金に汚いというイメージがついてしまっている。
「心当たりが?」
「いや、言っただけ…」
「ふうん」
引っ掛かりはするが、相槌を打ってルメンは頷いた。
「知り合いならハンターに任せようかと思ったんだけどね」
「何を?」
「交渉。というか…話してみたいと思ってさ」
「金もらって仕事してんだろ?話しても無駄だと思うけど」
「聞いてみなきゃ何とも言えないよ。単に金目当てなら例えば倍額出せばどうかな」
「先に受け取った金額分は働くだろ」
「…私もハンターの言う通りだと思うぞ。プライドがあればインセクター側で働くだろうし、自尊心を傷つけ煽る事になって却って危ない。プライドが無く金をちらつかせて平気で寝返るのならば、また金で裏切られるだけだ」
「うーん、なるほどね」
ハンターとシャドウにそう言われ、想定していなかった返しにルメンが唸る。
とりあえず城に引き込めれば…などと、少し単純に考えすぎていたかもしれない。
「じゃあハンターならどうする?」
「そりゃ、戦うしかないって。インセクターはスパイダーライダーズの敵だ。ぶっ倒して目を覚まさせてやる」
「乱暴だなあ…」
「他にやり方あるかよ、なあ、シャドウ」
「いかにも低脳な言い様で癪だが、概ね同意見だ」
含みのある言い方にハンターが顔をしかめる。
シャドウは全く気付いていない振りでやり過ごした。
「うーん…まあまずは僕に任せてよ。話してみて駄目なら、力尽くだ」
「私はそれでも構わない」
「はぁー…わかったよ、王子に任せる」
「うん、ありがとう」
根負けしてハンターは溜め息をついた。
ルメンは大抵の事はどうでもいいような態度だが、こういう点では一切譲らない。…まあどうせ、いざとなればルメンの事は無視して戦えばいい。
「…ああ、見えてきたよ」
報告にあった街が姿を現す。
見たところ被害もなければ、襲撃に遭っている様子もない。
「平和そうだね」
「どうやらまだ街には入っていないようだ。来るなら南の平原か…東の森からか」
「なら手分けしよう。見付かったら連絡して」
「気を付けてよ、ハンター」
「王子もね!」
短く言葉を交わし、ハンターは東に、ルメンは街を突っ切って南に向かう。
「…当たりっ」
にっと笑ってハンターは森を見た。
まだ遠目だが、インセクターの拠点が見え隠れしている。
「王子、インセクターの拠点はこっちに…」
『あれ、ハンター、こっちにもあるよ』
「へっ?」
『そうか…しまったな…。イグナスも連れて来れば良かったよ。ねえハンター、出来れば話し合いで済ませてよ?こっちも頑張るから。よろしく』
一方的に言い連ねてルメンは通信を切ってしまった。
「ちょっと待っ…!ああもお」
頭を抱えて、しかし引き下がる事も出来ずにハンターは森の前に進んだ。
「交渉など出来るのか?」
「するわけないだろ!…オラクルの力よ」
マナクルを天にかざし、叫んでハンターは変身する。
「やれやれ…」
ルメンの交渉が万一上手く行っても、これでは台無しだな。思いつつシャドウも臨戦態勢になる。ルメンには悪いが、シャドウも本当は万にひとつも、話し合いで解決するなどと思っていない。
「出てこいインセクター!全員残らず叩きのめしてやる」
「…好戦的すぎるのも、考えものだがな…」
ハンターには聞こえないように、シャドウは小さく呟いた。
「くそ、スパイダーライダーめ…どこからか嗅ぎ付けて来やがったか」
のっそりと姿を現した中隊長が忌々しげにハンター達を睨む。
「おいお前、助っ人を呼んで来い」
中隊長に命じられ、インセクター兵がテントに引っ込んだ。
「助っ人って…例のスパイダーライダー?シャドウ、こっち当たりも当たりだぜ!王子に任せたら話し合いだもんなー、思いっきりぶん殴って目を」
「いてて、引っ張るなよ。寝てたのに…」
「覚まさせて…やる…」
インセクター兵に腕を引っ張られ、テントから姿を現したのは…
「…マグマ…?」
数日前、共に戦おうと約束したその人だった。
「さっさと奴を倒せ!倒せれば報酬を上乗せして後金を払う」
「…ああ、うん」
中隊長の言葉を聞くでもなく聞き、少しの間きょとんとハンターを見返した後、マグマはにやりと鋭い笑みを浮かべた。
「…スパイダー・アウト」
マナクルからブルータスを外へ出し、その上に乗る。
「…嘘だろ。マグマ」
「何が?…戦いたくない?なら退けよハンター、そうすりゃ俺も楽だし、戦わなくてもいい」
「何か理由があるんだろ」
「スパイダー捜しにも金が掛かるんでね。この仕事を終えればまとまった金が入る。解るだろ?俺はポーシャを捜す為なら何でもする。例えそれで人間と敵対する事になってもな」
「そんな…そんなの間違ってる」
「ふっ」
鼻で笑われて、しかしハンターには憤るだけの余裕もない。
「何でもいいから早く片付けろ!」
「はいはい…。手出しはするなよ、間違って攻撃しちまうかも知れないからな」
焦れた中隊長に急かされ、そう言ってマグマは表情を改める。
慌ててシャドウはハンターを見るが、まだ上手く状況が飲み込めていないようだった。
「し…しっかりしろ、ハンター!話し合いはしないんじゃなかったのか」
「…マグマ…なんで…」
…どうして彼は今、インセクター達と一緒に居るのだろう?
呆然と立ち尽くすハンターとは対照的に、マグマは酷薄にすら感じる笑みをその口元に湛えている。
「悪いな、ハンター。これも仕事なんでね。…恨むなよ」
言うと、マグマは左手を天に掲げた。
「オラクルの忠義よ!」
「構えろハンター!…来るぞ」
「くっ!」
シャドウの言葉に、やっと反応してハンターはマグマの一撃を受け止めた。
(重い…!そんな、本気で)
何とか踏ん張り、メイスを弾き返す。
「まだまだ!」
「待って!って…!マグマッ」
連撃に耐えつつハンターが叫ぶ。
「情けないな。防戦一方か?退けないんなら俺を倒すしかないぜ!」
「なんで!だって…!」
「戦えハンター!ぶん殴って目を覚まさせるんだろう」
「けどシャドウ」
「話などしても無駄なんじゃなかったのか!」
「でも!」
前に出たいシャドウと、攻めるのを迷っているハンター。二人の間に連携などありはしない。
「…ははっ、ぶん殴る?無理な話だ!ここで負ければ街がどうなるか、解らないような腑抜けにはなっ!」
「」
隙だらけの所へ打撃を貰い、受け損なったハンターの剣が飛んだ。
「…本気なのかよ!」
「だからどうした?拾えよハンター。せっかくだ、勝敗はきっちりつけようぜ」
「くそっ…なんでだよ…」
「?…」
悲壮感に打ちひしがれたまま、言われるままにハンターは剣を引き抜く。
シャドウはマグマのその態度を訝しんでいた。…今は好機ではないのか?何故剣を拾わせる?
「貴様一体何をしてるさっさと倒せと言ってるだろうが」
「おいおい、俺にも少しは楽しませろよ。ここまでずーっと何事もなく退屈してたんだからな。何ならあんたとやったっていいんだぜ」
「…くっ…」
言われて渋々引き下がる。スパイダーライダーと一戦交えて、無事で済む保証はない。戦う必要などないのだから、今は好きにさせた方がいいだろう。
「ほら来いよ、ハンター」
「…わかった。ぶん殴ってマグマの目を覚まさせてやる」
「ははっ。その意気だ」
決意の表情を浮かべるハンターに、マグマは嬉しそうに笑ってメイスを構え直した。
「い…いや待て、ハンター」
「待てない!」
何か違和感がある。止めようとシャドウは声を掛けたが、聞く耳もたずハンターは剣を構える。
「…全く…!さっきまでの態度は何だったんだ」
言いつつ諦めてシャドウも体勢を整えた。
「うらあっ!」
「おっ、やっとやる気になったな」
「やる気もやる気だよ!街には入らせない!ボッコボコにしてやる」
「ははは!やってみなっ」
感情に任せて突っ走るハンターの剣をマグマがいなし、その背中を蹴り飛ばす。
どうにか受け身を取って頭からの激突を避け、 ハンターはくっと身を翻して飛び上がる。
「喰らえっ!」
「!」
予想外のスピードでの攻撃に、対応しきれずマグマは辛うじて盾で受けた。
「なるほど、バネがあるな。スピードも申し分ない」
「そりゃどうもっ!」
好機と見たハンターは剣を大きく振りかざす。しかしその間にマグマはがら空きのハンターの腹に一撃を加えた。
「うくっ…!」
「だが戦い方はまるでなってない。それとすぐ調子に乗るのが珠に瑕だな」
「確かに…」
「そりゃどうも…ってシャドウまでなんだよ」
「事実だ」
「どっちの味方だよ!」
「ふっ」
またマグマが笑った。だけどなんだろう?今のはなんだか…
「マグマ、なんか楽しそうだね」
「ん…」
言われて一瞬、しまった、とでも言うような表情を浮かべたが、マグマはまたにやりと笑う。
「ばれたか。実は今少し…楽しいんだ」
「おかしいと思うけど…実はオレも」
「はは」
マグマはこの場にそぐわない、邪気のない笑顔を浮かべた。見知った表情だ。妙な話だが、それでハンターの心は落ち着いた。
今は余計な事は考えず、この一戦を楽しみたい。
堪えきれず笑みを溢し、ハンターは剣を構えた。マグマも笑顔のままハンターの攻撃に備える。
「次で決める!」
「やれるもんなら、…!ハンター!」
突然表情を変え、マグマはブルータスごとシャドウに体当たりしてきた。不意をつかれてハンターはそこから落ちてしまう。
「ぁだっ!何す…」
不満を口にしようと立ち上がるが、一瞬後、マグマの元に数本の矢が降り注いだ。痺れを切らしたインセクター兵達が放った矢だ。
「マグマ!」
捌ききれず、一本の矢がマグマの腕を掠める。
「ちっ…!」
「マグマ、なんで…」
「くそ…やらかした。放っときゃ良かった…」
「はっ?何だよそれ」
「手出し無用と言っただろ!俺の楽しみを奪う気か」
駆け寄ろうとして立ち止まったハンターの抗議の声を無視して、マグマはインセクターに向かって叫んだ。
言われてインセクター達は僅かに戸惑い、中隊長に視線を移す。中隊長は訝しげに眉を潜めているのみで、すぐには返事をしなかった。
「我々にすれば手加減無用と言いたい所だ。援護のつもりだったが…どうやら化けの皮が剥がれたようだな」
「…ふぅー…さすがにこれじゃ誤魔化しきれないか」
言われてマグマは苦笑いを浮かべる。一連の行動でシャドウには合点がいった。判っていないのはハンターだけだろう。
「全軍進め!第二隊もだ」
通信機を手に中隊長が号令をかけた。インセクター兵達が湧き立つ。
「化けの皮って…どういう」
「説明は後だ!ハンター、悪いがこの場は任せる。俺は街に向かう」
戸惑うハンターにマグマが指示を出す。
しかし戸惑っているのは何もハンターだけではなかった。
通信機から返事がない。中隊長は何度もそれに向かって怒鳴っている。
「応答しろ!第二隊?くそっ!」
「第二隊?ああ…そっちには王子が」
「呼んだ~?」
間延びした声に視線を向けると、そこにはルメンが立っていた。
インセクターの攻撃を捌きつつ、ハンターは唐突に姿を現したルメンに驚く。
「びっくりした!いつから居たんだよ」
「あっちが片付いたからとっくに…。水差せない雰囲気だったから見学してたよ」
「か…片付いた?ってもう一人来てたのか早く言えよハンター!」
「いや知らないよ。オレ何で責められてんの」
「馬鹿もここまで来ると尊敬の念を抱けるな」
「なんだって?」
シャドウの嫌味にハンターが噛みつく。
「あ~あ~、いいから戦うよ。南側の交渉は失敗だ。こっちも戦うしかないようだ」
「おう!こうなりゃもう遠慮はいらねえ。行くぜブルータス」
「あいよ」
「…え、なんで?」
一人理解していないハンターを残し、ルメンとマグマは敵陣に突っ込む。
「後にしろ。我々も行くぞ」
「う…うん」
釈然としないまま、ハンターも二人に続いた。
数刻後。
「で、なに」
インセクター達を片付け、マグマの傷の応急処置を施しながら、不服そうにハンターは口を開いた。
「騙して悪かったよ、ハンター」
「意味わかんねーから!」
「はは…」
噛みつかんばかりの不機嫌さだ。思わずマグマも苦笑いの表情になるが、気を取り直して話し出す。
「…ここにはポーシャの情報を得るために、味方の振りをして潜入していたんだ。しかし有用な情報もないし…」
「ああ…そうなんだ」
「潮時かと思ってたら今回の作戦だろ?何だかんだ理由つけて進軍を遅らせてたんだが、限界があってな」
「二拠点からの同時攻撃じゃあ一人ではどうしようもないね。それでアラクナに助けを求めたって事か」
「なるほど、情報を流したのはマグマだったのか…」
「…え…えっ?」
するっと話を進めるルメンとシャドウに、ハンターは目を丸くする。
「ご明察。目を盗んでちょっと街に行くくらいなら訳ないからな。街にアラクナの兵が居たのはラッキーだった」
「は…?じゃあなに、屈強な男とか自分で言ってたのかよ」
「突っ込む所そこか?屈強そうな男だろどう見ても。俺が女に見えるのか?」
「あのなあ!」
「自称するとちょっと面白いけどね。そうして僕らはまんまと乗せられてここへ来た訳だ」
「来たのがハンターでがっかりしただろうな…」
「どっ、どういう意味だよ!」
「まあ少し」
「どういう意味だよ」
シャドウの言葉にマグマが同調する。ハンターは歯噛みして悔しがった。
「ははは。いや、向こうを任せられるか戦って試そうとしてたんだが…どうも不安要素が多くてな。ただしセンスはある。やり合ってる内につい楽しくなっちまってさ」
「は~もう…それこそ早く言ってくれよ!」
「悪い悪い」
「本気で戦わなきゃなんないって焦ったよ…」
「こっちも疑われやしないかと焦ったぜ」
にやっとマグマが笑う。意地悪そうだが、その表情には先程見たような冷たさはない。
あれは演技だったのだと、頭では理解していたが、今ようやく気持ちの上で納得する事が出来た。
「さて…僕も話していいかな?」
話がついたのを見計らい、ルメンは一歩前に出る。
「どうぞ」
「どう話したものかと思ってたんだけど…マグマ、君が危惧したような人間でなくて良かった」
「どういう人間だと?」
「僕は単なる金目当てだと思ってて…反応次第ではお金を積めばいいかと思ってた。シャドウは一筋縄では行かないから金の話は良くない、ハンターは話し合わずにぶっ倒すと言ってたよ」
「うわ、ハンターひでえ」
「だっ、だって!まさかマグマだと思わなかったから!」
「ふふ。判ってりゃどうした?」
「そりゃ…事情があると思うし、理由聞くよ。なんでなのかって」
「知ってても同じ事するのかよ」
「どうしようもないね」
「駄目だな…」
「…」
3人から責められ、ハンターもさすがに憮然とする。しかし言われて見れば確かに、今言ったのは先程自分がした対応と全く同じである。
話し合うというルメンを馬鹿にして、実力行使と息巻いていた割に情けない事だ。
「じゃあ今度インセクターの基地にマグマが居たら問答無用で奇襲かけるよ」
「極端だな。なんでマジで仕留めに掛かってんだ」
じとーっと恨みがましい視線を向けるハンターに、苦笑いしつつマグマも突っ込みを入れる。
今回の件で面が割れてしまったマグマには、潜入はもうどうせ無理だろう。それはお互い解っている。
「ま…奇襲の方がましか。いつ何があるかわかんねえし、相手が誰でも手は抜くなよ」
「うん」
「今回は邪魔が入ったが、楽しかったよ。またやろうぜ」
「うん…もう行くの?」
「そろそろな」
話を纏めようとするマグマに、察したハンターが表情を曇らせる。
「それなんだけどさ…君、アラクナに来ない?」
すっと間に入り、ルメンが提案してきた。
「申し訳ないが…あるスパイダーを捜していて」
「調査するよう手配するよ」
「表に出るような情報ではないんです」
「いやー、どうだろう?裏もそれなりに探れるけど」
「…」
言われてマグマは目を円くする。
「ふふ、まあ…色々つてがあるんだ。何にしても一人で捜すよりは早いと思うよ」
「…参ったな。ずいぶん王子らしい王子だ」
「よく言われるよ。うちに雇われてくれる?」
「雇用条件を聞こうかな?」
「お金はあまりないからさー。そこは帰ってからイグナス…うちの秘書みたいなもんだけど、彼と相談しよう。三食昼寝つきは保証するよ」
「なら決まりだ」
「じゃ、マグマ、これからよろしくー」
「よしなにお願いします、ルメン王子」
にこりと笑ってルメンが手を差し出す。マグマもそれに応じ、固く握手を交わした。
「あっさり纏めたな」
「…んっ?なに、つまり?」
関心しているシャドウと、いまいち状況が飲み込めていないハンター。マグマはハンターの頭をぽんぽんと叩き、笑顔を向ける。
「お前との約束を果たせるって事」
「やったあ!」
嬉しさを抑えきれず、ハンターは思わずマグマに飛びついた。…今日の出来事のために、その喜びは大きい。
仕方のない事ではあるが、マグマもハンターには悪い事をしたと思っていた。思ったより早くハンターとの約束を果たす事が出来て、一安心している所でもあった。
「結果オーライかな?」
「そうだな…」
笑ってそう言うルメンに、シャドウも同調する。しかしルメンの表情には僅かに翳りがあった。
その理由は容易に想像がつく。インセクターとの交渉が上手く運ばなかった為だろう。
下手に会話が成立するものだから、手を下す事が躊躇われるのかも知れない。しかしやらなければやられるだけだ。
進言しようと前に進みかけたシャドウだが、妙な音を聞いて立ち止まる。
「…?」
「王子、お退がり下さい!どけハンターッ」
「え、なに」
凄い速度で何かが迫ってくる。察してブルータスがマグマの前に立った。
「ちぃ!」
攻撃が弾かれ、舌打ちして身を翻す。…現れたのはイグナスとフレイムだった。
「イグナス、書類は~?」
「片付けて来ました!」
「うそ、さっすがー。また頼むよ」
「二度とやりません!ちっ、どけ!悪の手先め」
二撃、三撃と槍の突進を受け、びくともしないブルータスにイグナスは焦れる。
「つまり俺が悪?」
「そうそう、呑気だねみんな!王子説明してよ!イグナス!話ついたから」
「問答無用だっ!」
「だってさ。面倒くさいし僕もう帰るね。マグマ、また後で」
「王子ぃ!」
「お気をつけて。…じゃ、もう一戦行くか」
「なんでやる気なの」
誤解したまま聞く耳持たないイグナスと、本当に帰りはじめた…唯一彼を説得できるであろうルメンと、乗り気で左手を翳すマグマに、ハンターの突っ込みが追い付かない。
「そうは言っても問答無用だしなあ。あのままじゃブルータスが…」
「楽しそうだけど」
「ばれたか」
「マグマッ!」
「まあまあ。アラクナの戦士がどれほどのものか、試させてもらうさ」
言うなりマグマはイグナスに向かっていってしまった。
「…ああもう」
止めきれず、諦めてハンターはその場に座り込んだ。
───二人の力は互角と言った所だろうか。決着もすぐにはつきそうにない。
イグナスもあれだけ頭に血が昇った状態で、よくマグマと渡り合えるものだ。それとも連戦で疲れを見せないマグマがタフなのか。
とにかくマグマはインセクターの味方じゃなかったし、本気で敵に回った訳ではなかった。だから…
「まあ…でも…結果オーライ?」
ハンターはそう言って納得するしかない。
「王子がこちらに来ていればもっと早く済んだだろうがな」
「…」
シャドウの余計な一言を膨れっ面で無視しながら、ハンターはなかなか終わらない二人の戦いを眺めていた。
おしまい。
・あとがき
うまく纏められず結局またぐだぐだに終わりました。すみません。締め方がよくわからない。
でも観たかったシーンをまあまあ書けたので良かったです。
これの元ネタ?は一期OPでのハンターとマグマが戦ってるシーンです。『敵対?訓練?敵対するエピソードあるなら最高!』と思ってたら、それらしい話がないまま終わってしまった…。
相棒の名前ブルータスとか怪しいのにな〜。8話の雰囲気も危うげだし。裏切り系の話の予定はあったと思うんですけどねえ。17話なんかモロにそれっぽい内容だから没エピリサイクルっぽいような…考え過ぎ?
まあそんな感じで「こんな話観てみたかったな〜」を詰め込んでみました。書いていてとても楽しかったです…。
読んでくださった方ありがとうございました。
2017.06.24.