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    如月葉月

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    如月葉月

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    大して中身のないただイチャイチャしてるだけの台牧。

    習作①「君さあ」
     ひょい、と。軽い調子で伸ばされた、分厚いグローブの指先。何気ないそれを、人為的に強化された感覚神経は確かに捉えていたけれども――ウルフウッドは、どういうわけか、自身でも分からぬままに、それを茫として受け入れてしまった。
    「邪魔じゃないの?」
     俯き加減の目元を覆う、伸びた黒髪。砂漠の風に吹き晒され、砂粒に研磨されたその毛先はひどくばさばさとして、触れればひび割れそうな有り様である。
     梳くような手つきで、持ち上げては落とされる自身の前髪。思わず眇めた瞼にぶつかる痛痒感に、ウルフウッドは不機嫌な唸り声を上げ、手にしたカトラリーを乱雑に皿へと戻した。
    「触んな、カユいわ」
    「えぇー」
     ヴァッシュは、「人間台風」などという物騒な通り名にそぐわない、至極優しげな困り眉の微笑みで、払い除けようとする手を躱した。そのままの勢いで乗り出していた身を引き戻せば、乾き切ったぼろの床板がギイと鳴く。萎びた酒場の、頑丈さだけを取り柄とする椅子の木目には、酒や油や何かのソースや、はたまた何やら鉄臭いモノまでが色々と染み込んで、独特の風合いを醸し出していた。
     ウルフウッドは、後生大事に握りしめていたグラスを一度置いて、空いた片手を無造作に目元へ持ち上げる。ごし、と、疼く皮膚を擦る仕草は、どこか不思議といとけなく――それを眺めるヴァッシュの脳裏には、宵っ張りな幼子の、眠気を堪えようとしてむずかる様が想起された。そんな思考が伝わってしまえば、少なくともそれだけでヒトを一刀両断出来そうな、とんでもなく鋭利な眼光が飛んでくる。そう分かってはいたものの――彼は、込み上げる微笑ましさに、腹の底から漏れる吐息を抑えきれなかった。
    「……今度はなんや、トンガリ!」
     「牧師」らしからぬ眼光で以て睨めつけてくる暗い鋼色には、さほど深刻ではない苛立ちと、脳天気な旅の相方に対する呆れの色が乗っている。それを受け止めたヴァッシュは、白皙の前にパタパタと手を振って、言外の追及を煙に巻いた。
    「な、なんでもないってば。それよりさあ、やっぱり君、前髪切ったほうがいいんじゃない?」
     誤魔化しのための言葉に、ウルフウッドは重い前髪の向こうで僅かに刮目した。そして、目の前の碧眼とぶつからないようにと視線を逸らしたまま、行儀悪く頬杖をつく。
     彼は、なんとも器用なことに、重力とのサンドイッチで薄い頬の肉を歪める掌の先――すっかり皮の厚くなった指先で、ヴァッシュの指摘した「それ」を、擦りあわせるようにして摘んだ。
    「……別に邪魔とちゃうし」
     傷みに傷んで殆どが剥がれ落ちたであろうキューティクルを摘み上げた人差し指と中指のすぐ下、薬指と小指の間には、火のついた煙草がぶらぶらしている。その危なっかしさも目を惹いたが、この破戒牧師がこうして拠れた煙草を咥えているのは日常茶飯事で、ヴァッシュとて、最早今更そのことを指摘する気にはなれなかった。
    「子供か君はッ!」
    「?」
     それよりも、その不貞腐れたような態度に、思わず飛び出した言葉。ああしまっただなんて思う暇もなく、ドスの効いた声とガラの悪い目つきが飛んでくる。テーブルの下では革靴の爪先のおまけ付きだ。
    (……あれ?)
     ヴァッシュは内心密かに首を傾げた。常人にはけして気取られないほどの、刹那の動揺。微かに揺れた瞳。ヴァッシュの卓越した眼力と、短い間とはいえ四六時中を共にする濃密な旅の同行者としての経験がキャッチした、一瞬の違和感。しかし、その感覚は、深く考察されることなく放り出されることになる。他でもない、その渦中の人物が浮かべた、いやに悪どい笑みによって。
    「ちゅうか……ヒトのこと好きにゆうてくれるけどなあ、おどれのそのトンガリ頭も大概やで?」
     指の合間に挟み込まれた、燻る炎の切っ先によって鋭く示された先を辿れば、ツンツンと立ち上がった金色が、酒場の曇った照明を照り返して輝いている。
    「へ?」
     間の抜けた応えに、ウルフウッドは勢いづいた。ぐったりと机上に預けていた上半身を起こし、摘むようにして持ち替えた煙草の火口を近づける。
    「ドンドン上に伸びていっとるんちゃうかぁ?」
    「んなわけあるかぁ!」
     あわや鼻先根性焼きの一歩手前、泡を食ったヴァッシュは、大きく背を反らしてこれを躱しつつも、悪魔のように嗤う牧師へ抗議ともツッコミともつかない叫び声を叩きつけた。
    「よう目立つトンガリ頭しよってからに……厄介事もコレ見つけて寄ってくんねやろが」
     ふと、ウルフウッドは、手中に燻る火種を、恋しそうに口元へと引き寄せた。重い煙を吸い込んで、目を細める。紫煙を吐き出すと共に、旅路の最中に頻発する事態への物言いを付ければ、ヴァッシュは少々決まり悪げに、でもさあ、と唇を尖らせた。
     しかし、ウルフウッドは、ヴァッシュがそれ以上を言い募ることを許さなかった。分厚いテーブルの端に短くなった煙草の先を押し付けると(よくよく見れば、机や椅子の端や側面には、夥しい量の小さな焦げ跡が残されていた)、捕食者のあぎとのように両手を広げて、逆立てた金髪に掴みかかった。
    「オラ剃れ! 剃ってまえ!」
    「ウワッ信じらんねえこのテロ牧師、ってイタタタタ! ちょ、ヤーメーテー!」
     剃るどころか引っこ抜く勢いの牧師に、ヴァッシュは悲痛な――いや、ある種コミカルな悲鳴を上げた。そのトンガッた髪型がすっかり崩れかける頃、荒々しい手つきは、それでもどこかに優しさを滲ませて、へたりこんだ金糸をかき混ぜるようにして梳いた。……少なくとも、その時のヴァッシュには、そのように錯覚されたのだ。堪え切れない、へたくそな泣き笑いと、大袈裟に悪役ぶったシニカルな高笑い、それから狭間の食器やテーブルがカタカタと揺れる音。それらは、酒場の喧騒の中に紛れながらも、やがて二人が我に返るほんの僅かな先の未来まで、止むことはなかった。
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    如月葉月

    REHABILI大して中身のないただイチャイチャしてるだけの台牧。
    習作①「君さあ」
     ひょい、と。軽い調子で伸ばされた、分厚いグローブの指先。何気ないそれを、人為的に強化された感覚神経は確かに捉えていたけれども――ウルフウッドは、どういうわけか、自身でも分からぬままに、それを茫として受け入れてしまった。
    「邪魔じゃないの?」
     俯き加減の目元を覆う、伸びた黒髪。砂漠の風に吹き晒され、砂粒に研磨されたその毛先はひどくばさばさとして、触れればひび割れそうな有り様である。
     梳くような手つきで、持ち上げては落とされる自身の前髪。思わず眇めた瞼にぶつかる痛痒感に、ウルフウッドは不機嫌な唸り声を上げ、手にしたカトラリーを乱雑に皿へと戻した。
    「触んな、カユいわ」
    「えぇー」
     ヴァッシュは、「人間台風」などという物騒な通り名にそぐわない、至極優しげな困り眉の微笑みで、払い除けようとする手を躱した。そのままの勢いで乗り出していた身を引き戻せば、乾き切ったぼろの床板がギイと鳴く。萎びた酒場の、頑丈さだけを取り柄とする椅子の木目には、酒や油や何かのソースや、はたまた何やら鉄臭いモノまでが色々と染み込んで、独特の風合いを醸し出していた。
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