月のない夜、自宅のある夕闇の大陸の森の中を独り歩いていた。
ふと何かの気配を感じ、俯きながら歩いていた顔を上げると木の枝に一羽の烏が止まっていた。ナハトの視線に気が付いたのか烏は一声カァー、と鳴くと飛び去ってしまった。
「烏…か」
飛び去っていく烏を眺めながらぼそっと呟く。
「烏は綺麗な羽と自由な翼を持っているのに俺はまるで違うな。魔力で濁った瞳に傷だらけの腕…あぁ、魔力に命も縛られていたっけか…俺は自由になれない鴉だ」
自嘲気味に吐き捨て、星だけが光る空を見上げおもむろに空に向かって右腕を伸ばす。
「俺も自由に羽ばたけたら…いや、叶わない願いだな。ネフティが家で心配してるかもしれないからそろそろ帰るか…」
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