さて、今日も錬金しようかな…と思い棚の材料を入れている引き出しを開ける。あれ、この素材もう使い切っちゃってたんだ…お兄ちゃん最近帰ってこないし自分で採りに行くしかないかぁ…
弓を手に取り、防具だけ確認して家を出る。あの魔物はどこに居たっけな、とメモを見遣りながらルーラストーンを掲げいつも通りの素材狩りに出掛けた…
いつも通り、のハズだったのに…あの素材欲しいな、と気を抜いた瞬間を突かれ魔物が斧を振り下ろしてくる。あ、ダメ…避けられない…!そう思った瞬間ギリギリの所で直撃は避けた、が…左腕があったはずの場所には何も無く肩から大量の血が流れていた。
ドクンドクンと激しく脈打つ激しい痛みと頭から血の気が引くような酷い出血に思わず胃の中身を吐き出しそうになる。このままじゃ死ぬ…と必死に回復呪文を紡ぐ。ぎゅ…と強く手で押えていた左肩の傷が新しく濡れる感覚は消え、とりあえず止まった出血に胸を撫で下ろす。
魔物は今度こそこちらの息の根を止めようと斧を構えている…こんなとこで死ぬわけにはいかない……とほんの一瞬だけ切り落とされた腕を拾おうと思った思考を頭を振って消すと必死に戦闘エリア外へ走り、急いでルーラストーンを取り出すとエテーネの村へ逃げ帰る。
「っは………ァ……帰って、来れた……?」
貧血を起こしかけ思考がぼんやりとしつつも見慣れた景色が視界に入り、村の入口に倒れ込む。
アイリスさん!!と幼馴染の焦る声が聞こえ、あ…シンイさんが来てくれたならもう大丈夫かな…?と安心してしまいふっ…と意識は暗い闇の底に落ちていった。
うん…?と目を覚ますと見慣れた天井と辛そうな顔でこちらを見てくるシンイの瞳があった。
「シンイさん…?私…」
「あ、まだ体は起こさないでください…酷い出血で村の入口にあなたが倒れ込むのが見えた時は血の気が引きましたよ…」
「ごめんなさい…そういえば…」
もしかしたら左腕を失ったのは幻覚だったんじゃない…?と左側に意識を持っていき視線をずらすがやはりそこには何も無く、手や腕を動かすような感覚は無かった。
「アイリスさんの腕は…私がアイリスさんを入口で見つけた時には既に…」
「大、丈夫……だよ…腕は義手にすれば…だからシンイさん、そんな辛そうな顔しないでよ」
何も悪くないのに罪悪感を感じてしまう優しい幼馴染を元気づける様に微笑みを向ける。
「お兄ちゃんはこのこと知って…?」
「いえ…まだ帰ってきていませんし手紙も出していないので…」
じゃあお兄ちゃんには伝えないで、とシンイに向かって言うと錬金術で作れるかな…?とレシピを考え始める。義手ができるまではシンイさんが手を貸してくれるらしいし多少珍しい材料でも何とかなるかな…あぁ、でももう私の腕でお兄ちゃんのこと抱きしめらんないな…
それだけが少し、哀しいなぁ…と誰にも聞こえないような小声で呟いた。