煙の向こう側 煙の向こう側
コツコツと、革靴の音を響かせて拘置所を闊歩する。銃兎は一室の前で立ち止まると、見張りに耳打ちをしてその手に札を握らせる。
あくまでも面倒な貸し借りは無しだ。金で解決するならばそれに越したことはない。
見張りの警察官の靴音が聞こえなくなったことを確認すると、鍵を開け、部屋の中へ入った。虚ろな目をした男が1人、部屋の隅でうずくまっている。
「先日はどうも」
銃兎は男へ一礼して、爽やかな作り笑いを浮かべて話し始めた
「気分はどうです?あれから少しは落ち着きました?」
男は虚ろな目をぎょろりと銃兎に向けたが、そのまま何も喋らなかった。
三日前、ヤクブツの取引現場を取り押さえた際に保護した男だった。
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