今日の晩御飯はいつもと少し違う。香音人はお玉で鍋をかき混ぜながら、鼻歌交じりに微笑んだ。
鍋の中身はカレーである。大量の玉ねぎを飴色になるまで丁寧に炒め、市販のルーを使わずに多種多様なスパイスを調合して入れた本格的なもの。肉は豪勢に国産の牛肉を使ったし、じゃがいもと人参も大きめに切ったものがゴロゴロ入っている。
残す工程は盛り付けだった。皿にご飯をよそってカレーをかける。ただそれだけ。
米は洗って炊飯器にセットしてあるので、ぬかりはない。そう思って香音人が手伝ってくれている陸太の方を見ると、しゃもじを片手に直立不動で蓋の開いた炊飯器の中を見ていた。
「どうしたの、陸ちゃん」
「あっ……」
陸太の背後から香音人が覗き込めば、釜の中には水に浸ったままの生米。水加減を調整して仕込んだものの、スイッチを入れ忘れて米が炊けていなかったのだ。初歩的なミスである。
1299