安赤 ケーキバース不意に鼻腔を擽る甘い匂い。嗚呼、またあの男が近くに居るのかと理解する。
滅多に起きない食事をしたいという欲求が僅かに顔を出す。あの男が目の前を通る度に、自分が羨んだ黒艶の長い髪が風に靡かれる度に、何故か食欲がちくりと刺激されて苛立つ。
あの男__ライ__は「ケーキ」なんじゃないか、そう疑った僕は彼の吸殻や使用済みのストロー、スプーンなど唾液が付着しているであろうものを収集し検証した。決してストーカーではない。しかし、甘い甘い匂いとは裏腹に、全く味がしなかった。
つまりライは「ケーキ」ではないということだ。ただ、僅かに食欲を唆られる匂いを漂わせているのが不思議で、同時に腹が立って仕方がなかったがライが「ケーキ」ではないことに心底、安堵した。
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