腕力に魔法で対抗するエーポラ「それじゃあ、僕は部屋に戻るから」
もうちょっと、あと少しだけ一緒にいたいんだけど。素直に言えたらいいのに、何故か乾いた口からは言葉が一向に出てこない。デュースからくっつきたがる時もあるのだが、今日に限ってそうではないらしい。タイミングって無情だ。
「おやすみ、エース」
「待って」
くるりと背を向けたデュースの腕を掴む。無意識だった。振り向いたデュースと目が合って、勢いでしてしまったことの言い訳を探す前に、オレの視界は反転していた。
「その目、誘ってんのかよ」
「は?」
デュースに押し倒されたのだ。
「大人しく帰ろうと思ってたのに。そんな顔されたら我慢できない」
「いや、え?」
オレをベッドに放った上から覆い被さるように乗り上げてきたデュースは、涼しげな色の瞳の奥に情欲の炎を灯らせている。ふーっ、ふーっ。肩をがっちりと押さえつけられて動けないし、デュースの吐く息は獣のように荒い。纏う雰囲気がさっきと全然違う。
ヤバい、食われる。
直感したエースは咄嗟にマジカルペンを手に取った。デュースの両手首を拘束魔法で腰の後ろに固定する。続いてデュースのマジカルペンを棚の奥にしまう。魔法解析学に秀でたエースの施錠魔法が何重にも掛かっているため、魔法石なしの簡単な引き寄せ魔法なんかでは外に出せない筈だ。魔法の助けを借りてデュースの身体をひっくり返し馬乗りになって初めて、エースは呼吸を思い出した。額に冷や汗がびっしりと浮かんでくる。
「お前、今、何しようとしてた……?」
「……はっ!」
デュースの瞳にいつもの色が戻ってくる。
どっちがタチをやるか論争が始まって丸2年、様々な攻防を経験したが、デュースが理性を失う様子を見せたことはついぞなかった。たった今の今までは。マウントポジションを取った後も尚、食い殺されるのではないかという恐怖を体感した。間一髪で生き延びた安堵に身を震わせる。
「ごめんエース。我を失ってた」
「え、なに、めちゃくちゃ怖かったんだけど」
「エースを抱きたい気持ちが逸った……ごめん」
「いやごめんで済まねーって」
さっきの威圧感から一転、しおらしく眉を下げて謝る表情とのギャップに、オレの心臓はバクバクと大きな音を立てる。もちろん悪い意味でだ。文字通り命の危機を脱した後の緊張が解けた状態。
いや待て、冷静に考えれば、今圧倒的に有利なのはオレの方じゃん。こっちが自由に魔法が使えるのに対して相手は丸腰かつ拘束状態。オレが望めば、このままデュースのこと好きなようにしてしまえる。先に仕掛けてきたのあっち側だし、別にいいよな?そうとなれば早速服を脱がせて…………。
「このまま僕を抱くつもりか、エース」
「……バーカ。別にこうしてまでお前を抱きたいとか思わねーよ。あくまでお前の意志で抱かれて欲しいの」