ある日突然、部室がゴージャスになった「わやじゃ」
「あらあ……またアオイが勝手に模様替えしたのね」
驚愕の声を上げるスグリの後ろで、ゼイユがあきれたように室内を見回す。何の前触れもなく部室が金ピカになればもっと驚きそうなものだが、留学生で現ブルベリーグチャンピオンであるアオイの突飛な行動は今に始まったことではないのもあり、その後は特に気に留めることなく、ゼイユは興味深そうに周囲の観察を始めた。
「わあ、あっちにヤバチャとヤバソチャがいるわ」
地元キタカミに生息し、手持ちに入れるほどのお気に入りのポケモンを目の前にして、ゼイユが小走りでヤバチャ達のいる和室を模したスペースに駆けていく。スグリも困惑の残る足取りでそれに続いた。
「なんと珍しい……是非ネリネも間近で観察を」
そしてここイッシュ地方では見かけることのないポケモンに興味を引かれたネリネも二人の後に続く。そのまま茶の湯スペースの小上がりに足をかけようとして--
「あっネリネここは靴を脱いで上がるんだべ」
声をかけられたネリネがふと顔を向けると、声の主であるスグリと、先にヤバチャ達とふれあっているゼイユは部室の床に靴を脱ぎそろえていた。
「なるほど、そういえばキタカミやカントー地方周辺の文化はそうでしたね。では失礼して」
二人に倣って愛用のブーツを脱いで畳の間に片足をかければ、スグリがおずおずと手を差し伸べてくれる。そのさりげない気づかいに思わず口元に笑みが浮かび、その手を取ったネリネはスグリの横に並んだ。
(……)
瞬間、視界に違和感が生じる。それはスグリも同じだったようで、彼のやや訝しげな視線がまっすぐネリネの目に突き刺さる。
そう、まっすぐなのだ。学年が下であり、自分より身長が低いはずのスグリの顔が、今はなぜか同じくらいの位置にある。それに気づくと同時に、スグリがパッと顔を逸らせた。
「わやじゃ…ネリネ、普段ずいぶん高いヒールの靴履いてるんだ、な……」
わずかに赤みの差した顔で視線を外しながらそう言われ、そこでネリネは言葉の意味に気付く。ブーツを履いていない自分の身長が、スグリと同じくらいなのだ。たったそれだけのことなのだが、意識すると妙に落ち着かない気分になる。
(スグリの身長の増加を確認……いつの間にか、こんなに目線が近い)
(ネリネ、なんかいつもより小さくてめんこい……靴履いてないし、俺も背が伸びた)
互いの姿がきらきらと煌めいて見えるのは、きっと豪華になった部室のせいだけじゃないことに、二人はまだ気付いていない。