夢想の楽園。※夏目漱石の『夢十夜』オマージュ
夢想の楽園。
こんな夢を見た。
気まぐれに古代遺跡を探索しようと砂漠を訪れた途端、大きな砂嵐に襲われた。
平時でさえ足元が不快で仕方ないのに視界まで奪われるとは思わなかった。
避難も兼ねて目的地へ急ぐと、目の前に血まみれの恋人が倒れていた。
思わず駆け寄り名前を呼んでみたが、嵐のせいで声が聞こえていないのか反応はない。がたがたと震える身体をそっと抱えて遺跡へと向かった。
目的地に着いてすぐに外套を脱いで床へ広げ、その上に恋人を寝かせた。彼の権威の象徴でもある被り物を外してやる。
先ほどから身体の震えは止むことはなく、朝焼けのような瞳は半分ほどしか見えなくなっていた。一緒に運んだ彼の鞄からいつも持ち歩いている筈の包帯と止血剤を取り出そうとしたが、入っておらず、どうしたものかと自分の鞄の中身を漁ってみたところで役に立ちそうなものはなかった。
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